【一章】方思わないデート⑦

「お待たせいたしました!、それではごゆっくりどうぞ!」


そうこうしているうちにお待ちかねのメインディッシュが運ばれてきた。


おおっ!とつい声を漏らすほどに、

美味しそうなパンケーキが運ばれてきた。


あれ?でもなんだろう?どこかで同じようなことを体験したような気が…?

デジャヴだろうか?

前にも見たことあるようなないような?


まあ、いいか。


「よし!ではさっそく食べようか!」


「ま、待ってください!幸平さん!この素晴らしいパンケーキを写真に収めなくていいのですか?」


どうしたんだろう、突然写真を撮ろうだなんて。

上原さんは慣れた手つきで、自分のパンケーキを華麗に撮る。

何枚も、そう、なんまいも。


「幸平さんのパンケーキも撮るので少し待っててくださいね」


そういって、あれよあれよと。

僕の分もパシャリパシャリと撮り続けている。

でもこれは好機だ!


「上原さん、こっち向いて一緒に撮ろう!」


「へ?い、一緒にですか?少し待ってくださいね?」


「はいチーズ」


パシャリと撮れた写真を確認する。

おや、写真には上原さんが普段見せない慌てた姿が撮れた。

これはこれでアリかも。


「待ってと言ったではないですか、もう〜」


膨れっ面の上原さん。めちゃ可愛い。

しれっと写真に収めておく。


「今、撮りましたか?」


「撮ってないよ。さぁ、もう一回撮ろう。しっかりとね」


「本当にお願いしますよぉ〜」


「わかってるよ、はいチーズ」


よし。綺麗に撮れた。

それにしても、上原さんはカメラに合わせて自分を見せるのが上手だなと思った。

やはり何かのモデルでもしてるのだろうか?


僕は、上原さんに撮った写真を全て送った。


「あー!やっぱり撮ってるじゃないですか!幸平さんのイジワル〜」


「いいじゃん。二人だけの写真なんだしさ。誰かに見せるわけじゃないから心配しないで」


「二人だけの、写真…。そ、それなら、まあ」


ちょっと待て。

さっきから上原さんが可愛いんだが。

なんでだろう。ここまで反応がキュートだと今後の見方が大きく変わりかねない。


そもそも、こっちが素なのだろうか?


にしても、ツーショット写真だなんて。

つい流れで撮ったけれど。

想像以上にレアイベントが重なってる気がするぞ!


これは、キテるんじゃないか!

僕に恋の大波が!


だが、落ち着け。

ここでやらかしては全てが泡に帰す。


冷静に、今この時間を楽しんで。

上原さんとの好感度を爆上げすることだけを考えるんだ。


「お楽しみのところ、恐れ入ります。カップル様に当店からのサービスをお出ししておりまして、よかったらご賞味ください」


店員さんから運ばれてきたのは、

生クリームたっぷりのキャラメルが滴るプリンだった。


「わぁ!プリンですよ!幸平さん、プリン!」


「うん。ホントに美味しそうだね!ありがとうございます!美味しくいただきます」


「いいえ、お客様をもてなすのが私たちのモットーでございますから。それでは失礼いたします」


なんだろう。あの店員さん女性なのにカッコいい!僕も、『女性をもてなすのは紳士の務めですから』みたいなことを言ってみたい。


さてと、さっきから妙な視線だけは感じるんだよな。

どこからだろう?


ちらりと外を流し見ては探りの視線を入れるけれど、

あたりにはカップルやカップルやカップルやカップル・・・。


にしてもカップル多いな…。


ではない!視線を一瞬感じた!

明らかに監視されてる!


僕が視線のあった先を凝視するとパタリと視線が止んだ。


間違いない、誰かにつけまとわれている。


だけど、一体誰に?

まさか上原さんを狙ったストーカー?

その可能性は十分にありうる。


なんせ、学園のマドンナと呼ばれし美少女の横に男がいるんだから。

当人からすれば気が気でないはずだろう。


側から見れば僕らの姿はデートしている若い男女に見えているに違いない。


彼らの中にはデートをするために、

お金を払いたいという人も出てくる、いやむしろ払わせてほしいと懇願する人がほとんどの可能性すらあるんだ。


だが、僕はそんな彼女と堂々と一緒にデートをしている。

ふふふ、最高すぎる!素晴らしい!


じゃなくて!

上原さんにもつけられていることを、

一応共有しておくべきだろうか?

さりげなく聞いてみるか?


当の本人はそれはそれは美味しそうに、

食事を堪能していた。


「どうしました?幸平さん。もぐもぐ。すごーく美味しいですよ!もぐ。一緒に、もぐ、いただきましょう!もぐもぐ」


あ、やっぱり伝えなくていいや。


「うん、そうだね。では…いただきます」


すでに頬張っているね。

というツッコミは邪道だなと刹那的に悟る。


さて僕もいただくとしよう…。

おっ、美味い!さすが口コミ評価星4だ!

甘すぎずされど確かな甘美を味わい。


パンケーキもスポンジ生地ではあるが、

すっとナイフが通るほどの柔らかさ。


噛み締めるたびに確かな甘みが味蕾を包み込む。ソースごとに変わるがわる移りゆく味の深みを堪能してわかったことがある。


これは星5つの店だろうと・・・。

ハッ!つい甘味の沼にハマり続けるところだった!

食レポよりもやることが他にあるだろう!

最も重要なことが!


「そうだ、上原さん。よかったら僕の方も食べてみる?とても美味しいんだ」


「えっ!よろしいのですか!私の分もぜひどうぞ!ほっぺたがとろけ落ちるほど、甘くて美味しいんです!」


ここで僕は交換だけして終わりなんて、オチをつけるつもりは毛頭ない。

攻める!この場でこそできるのだ!アレを!


「…上原さん、はい。このソースが絡まってるところが最高なんだ」


パンケーキを差し出す。

これは俗に言う。

食べさせるシチュエーション。

通称…、『アーン』だ。


「えっ!じ、自分で食べますから!その、恥ずかしいですよ…」


躊躇しているみたいだ。

ええい!ここはもう押し切ってしまおう!


「マ、マズイ!ソースが落ちる、ほ、ほら!お願いします、食べてください!」


「わ、わかりましたから・・・。い、いただきます…」


やりすぎてしまっただろうか?

強引にとはいえ上原さんに、その…。

自分の使ったフォークを押し付けて、

彼女の柔な口元に…。


あああっーーーーー!!!!!

もういろいろ我慢ならん!

心がざわつく…!

イケナイことをしているかのような、罪悪感に襲われる!

しかし!これも自分のためだ!平静を保て!

心臓よ、鎮まれ!


「…おいしいです!パンケーキとソースが合わさって豊かな甘みが広がりますね!」


ほっ。

よかった、どうやら気持ち悪がられてはいないみたいだ。


「幸平さん!私の分も食べてください!このホイップと合わせると美味しいんですよ!…どうぞ!」


そう言って、自分のパンケーキを食べさせようとじわじわと迫ってきた。


こ、これは、まさか!

いわゆる、

お返しの『アーン』ではないか?!

それなら遠慮なく。


「わ、わかったよ。…あーん」


美味い。

とても美味しい・・・。


のだが、それどころじゃない!上原さんの使ったフォークを口に入れてしまうとか…。


もうホント、いろいろとありがとうございます!!!

神様に感謝の一つでもしたくなるー!!!


「おいしいよ!ありがとう上原さん」


「よかったです!こっちのプリンも美味しいですよ!はぁ〜、最高です…」


うっとりとした表情で食べる姿はまるで、

地上の有象無象を天上から慈悲深く、

見つめる女神の様であった。


うん。

やはり、尾行されてることは伏せておくことにしよう。


どうしてこんなに幸せそうに食べている人にそんな野暮なことが言えようか?

いや言えない!!!


僕が注意して見張っておけば解決するだろう。


本当に今日は一緒に来れてよかった!


この瞬間が少しでも長く続いてほしいと、

切に願うのであった。

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