【一章】方思わないデート⑥

「ついたよ」


僕らは新しくできたパンケーキ屋に着いた。


予想以上にたくさんの人が並んでおり、

なかなか入店までに時間がかかりそうな様子であった。


てか、それより手汗平気かな?

さっきからずっと握りっぱなしだったし、

勢いとはいえいきなり握るのはアウトか?


でも手を握ってくれたのは向こうだし…。

ああ、わからん!心の中をのぞいてみたい!

上原さんはどう思ってるんだぁ!!!


「すごい行列ですね、やはりオープンしたてのお店なので混雑してると思ってましたが。

予想以上でした」


意外と冷静な上原さん。

嘘でしょ?

仮にも異性の手を握ってるんだよ?


さっきまで普通に会話しながらきたとは言えども、落ち着きすぎてはいないだろうか。


まさか!実は経験豊富で数多の男を喰ってきているのか!

やはり、上原さんは童貞殺しの魔性の女なのか・・・。


・・・じゃなくて!ちがーう!

そうじゃない!今は目の前のこと優先!

落ち着くんだ、深呼吸、深呼吸…。


「うん。このまま並んだら何時間もかかりそうだね」


よし。いつも通り、いつも通り。


「じゃあ並びましょうか、ここまできたら食べて帰りたいですから…」


少し上原さんの様子がよくないように見えた。この行列だから無理もない。

僕は並ぼうとしている上原さんに待ったをかける。


「すとっぷ、普通の人は並ばないといけないけど。こっちには奥の手があるんだよ」


「奥の手?ですか。それはいったい…」


「よし、とりあえずお店の中に入ろう」


「え?!横入りですか!さすがにそれは…」


「大丈夫、大丈夫!」


上原さんは心配そうに、申し訳なさそうな面持ちをしている。

そうだよね。並んでる人たちの気持ちを汲んだら心は痛むよな。

やはり上原さんは女神だ!

だがその心配は必要ない。


僕は店内の受付にいる、店員さんに声をかける。


「すみません、事前予約していた者です」


「はい。確認をいたしますね。…はい、ご予約のタイラ様、二名様ですね。お待ちしておりました、どうぞ中へ」


すんなりと受付を済ませて中に入ることができた。

案内されたのは窓際の日陰、外の景色がよく見えるいい席だった。

歩いてきた疲れを癒すため、さっそく腰をかける。

さっきまで手を握っていた名残を心の中で噛み締める。


「よ、予約制ですか…、いつの間にそんなことを?」


「混むことは予想してたし、それなら予約しておいた方がいいなって思ったんだ。

並んでたら疲れちゃうし、早くパンケーキ食べたいのは僕も一緒だから」


僕は今日のデートのために万全の態勢を整えてある。考えうるパターンを全て予測して、全てに対応するべく数々の用意を施し。

正直何が起きても、なんとかなるようにしてはある。


例外は、上原さんが突然機嫌を損ねて帰ってしまったり。

途中で用事といって帰宅を余儀なくされるといった、離脱イベントが起きなければの話だが。今のところは問題なし。


「そ、そうだったのですね。ふふっ、なんだか幸平さん。いつも以上に頼りになりますね!とても、かっ、カッコいいです!」


おや?これは高得点ではないだろうか?

今のところはいつもの上原さんだけど、

なんだか普段よりも言葉がストレートな気がする。


「ありがとう。なんか照れちゃうなー、あはは。上原さんもいつも以上に可愛いし、綺麗だよ」(演技:たらし男風)


「か、かわ…!?私が?それは言い過ぎですって…」


「え?本当のことだよ?上原さんは可愛いし綺麗だし、隣にいる僕が一番よく見てるんだから間違いないよ」(演技:たらし男風)


「そ、それは…、あ、ありがとう、ございます…」


少しやりすぎただろうか?


でもこれ。自分で言ってて思った以上に恥ずかしいな。

これを天然でいえる、ほめ殺しの才能を持つやつはすごいと改めて思う。


しかし、おかげさまでかなり上原さんへのアピールはできているんじゃないだろうか?

内心は不確かだが…、さて。


「よし、とにかく頼もうよ!何にしようか?やっぱり一番おすすめの、三段パンケーキかな?、こっちのホイップマシマシのやつもいいな!」


「どれも美味しそうですね。あー!この“特性シロップバニラアイスパンケーキ”!これは食べたいですね!でも、こっちのチョコミックスとかも捨てがたい…迷います〜」


上原さんがここまではしゃぐだなんて珍しいのではないだろうか?

なんだか、無邪気な子どもみたいだ。


「いいこと思いついた!二人でシェアしようよ。そうすれば二人で二度楽しめるし、二度味わえる!」


「それは名案です!そうしましょう!私はこの“特製シロップバニラアイスホイップパンケーキDX”と“アイスティー”にします!」


ん?さっきいってたメニューよりもなんか増えたような・・・気のせいか。


「僕は“オリジナル三色ソースの三段パンケーキ”と“アイスコーヒー”にしようと思う。これならいろんな味が楽しめるからね」


「おお!いいチョイスしますね!早く頼みましょう!」


僕は店員さんを呼んだ。


「お待たせいたしました!ご注文お伺いします!」


「はい!“特製シロップバニラアイスホイップパンケーキDX”と“アイスティーのガムシロと砂糖あり”でお願いします」


どうやら、上原さんは甘党のようだ。


「えっと、“オリジナル三色ソースの三段パンケーキ”と“アイスコーヒー”をお願いします」


「“アイスコーヒー”はミルクや砂糖はお付けしますか?」


おおっと、店員さん。

その確認をしてくるのかい?

それ言われちゃうとこう返さずにはいられない。


「いえ、…ブラックでお願いします」(キリッ)


「…かしこまりました。それでは復唱させていただきます。

“特製シロップバニラアイスホイップパンケーキDX”をひとつ。

“アイスティーのガムシロと砂糖あり”をひとつ。

“オリジナル三色ソースの三段パンケーキ”をひとつ。

“アイスコーヒーのブラック”をひとつ。

以上でよろしいでしょうか?」


「「はい」」


「それではごゆっくりどうぞ!」


店員さんは颯爽と行ってしまった。


というか、マジか。

僕。ブラックはあんまり得意ではないんだよなぁ。あの独特の喉にくる苦味が辛抱たまらんのよ。

上原さんの前だからってイキってしまった。


「すごいですね!幸平さん、ブラック飲めるなんて。大人なんですね!」


「大袈裟だよ。コーヒーはブラックで飲みたいんだよね。上原さんは甘いの好きなの?」


飲みたいんだよね。ってなんだよ!

自分のこの口にあの苦いのが入るってわかってるから頭がバグったのだろうか?

落ち着け。冷静に冷静に。


「はい!甘いのは格別…いえ至高ですね!甘いものは私にとってご褒美以上の特別なものなんです!それこそ毎日食べないと死んでしまうくらいに」


甘いものにそこまで固執しているとは。

とりあえず何かあったら甘いものを渡しておけばいい気がした。


「甘いものが本当に好きなんだね。僕はクッキーが一番好きなんだけど、上原さんは一番好きな甘いものはある?」


「一番好きな甘いものですか…。難儀な質問ですね。ちょっと考えさせてください」


「あ、別にそこまで本気で答えなくても…」


しばらく長考している上原さん。

その間にドリンクが先にきてしまった。

これは、非常にまずい。


「むむむっ・・・」


すごいな。本当に甘いのならどれでも好きなんだ。上原さんってやはり子どもっぽいのだろうか?

めちゃ可愛い。長考している上原さんも様に見える。まるで、推理小説の女性探偵みたいだ。


「決まりました…、幸平さん」


数分間の長考の末に結論が出たらしい。


「私が…好きな甘いもの、それは・・・」


ゴクリ。謎の間に空気がピリつく。

その答えとは?


「ズバリ!甘味全般です!!」


少しの沈黙の後、悟った。


絞りきれなかったんだな。っと。

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