【一章】方思わないデート④

「あ…お、お待たせいたしました!ど、どうぞ、ごゆっくりおくつろぎくださいね!」


店員さんは、僕たちの様子を察して。

急足で戻っていった。


「…よし、とりあえず食べよう。せっかく頼んだんだからさ」


「そ、そうね。食べましょうか!いただきます」


気を取り直して僕は、運ばれた食事をいただく。ただ目の前に運ばれたもののほとんどを凛子が食べると思うと、彼女の胃袋はどうなってるんだと疑問が残る。

本当に胃袋が二つあるとか言わないよな?


「うーん!おいしい!どれも甘くて最高!幸平も一口いる?」


「いいよ。僕はこれだけで十分。てか見てるだけでお腹いっぱいだ」


「…できれば少し食べてほしいな。ほら、なんていうか私も女子だし…ね?」


まさかとは思うが自分が大食いだと、今更ながら周りに思われたくないとか。

そんな理由で言ってるのだろうか?

頼む前にそういうことはわかるものだと思うのだが。


「なんでさ。食べたかったんだろ?気にせず食べなよ。凛子が甘いものをテーブルいっぱいになるほど食べるなんて誰にも言わないし」


「待って、テーブルいっぱいじゃないから。そんな大食いキャラと一緒にしないで。あくまでも普通の女子としていたいだけ…うん!おいしー」


そんだけ頼んどいてよくいうと思っていると、みるみると完食していく。

大食いなうえ、早食いも追加だな。


だが、ここでこそ。

理解ある男として見せるべきなのだろう。


「凛子はほんと美味しそうに食べるよな。見てるだけで幸せになるよ」


「幸せ?!お、大袈裟だから。いろいろ…」


よしよし、効いてるな。

このまま追い打ちをかけてやるか。


「あ、ほっぺに生クリームついてるぞ、取ってやるから」


「ええっ!待って!自分で拭くから、場所教えて?」


そんな抵抗をしても無駄だ。

僕は近くにあったティッシュで凛子のほっぺから生クリームを華麗に拭き取る。


「ほら、取れたぞ。これで恥ずかしい所を晒さずに済んだな…、どうした?」


プルプルと体を震わせている凛子を見て、

僕は何事かを尋ねる。


「もう、待って!って言ったのに!生クリームもったいないじゃん!」


まさか、さっきの生クリームですら食べようとしていたのか?

ここまで食い意地のあるやつとは思わなかった。


「悪かったよ。お詫びに僕のケーキあげるから。許してほしい」


「なんで拭いたの?気にしなければいいじゃん」


「それは、…凛子のそういう一面を誰かに見せたくなかっただけだから」

(照れながら窓を見る(演技))


「な、ななにそれ…見せたくないとか、何言ってるのよまったく。…仕方ないからケーキで我慢します」


どうやら機嫌は治ったらしい。

しかし、ケーキは食べるのかよ。

僕の分のケーキは凛子の腹の中へ溶けるようになくなった。


一息ついた僕らは、

お会計を済ませて店を出た。


「なかなか落ち着いた店だったな。よくこんな店知ってたな」


「ここは学園の女子の溜まりで、よくきてるから」


だから、あんなに落ち着いていたのか。

こっちは終始緊張していたとも知らずに。


「どうりで女性が多いわけだ。カップルとかもちらほらいたな」


「まあ、よくあるデートスポットとしても人気あるし」


「そういえば、凛子は付き合ってる人とかいるのか?」


ここぞとばかりに狙いを定めて、

メインクエスチョンを聞いていく。


「…いないけど、どうしてそんなことを急に聞くの?今日ときどき変だったよね、何かおかしなものでも食べたの?」


しまった!察しられていたのか。

これはかなりのイエローカードだぞ!

ここはいつも通りにいこう。


「ちょっと気になってな。凛子を相手にしてる奴がどんなのか興味があったんだ」


「それって、私の方に問題があるって言いたいの?そこのところをキチンと説明をしてもらおうかしら」


「まあなんにせよ、気晴らしにはなったから結果的にはよかった。また来るか」


「そ、それって誘ってるの?」


独り言のつもりだったんだが、

思わぬ形で解釈してくれたらしい。

都合がいいのでその勘違いに乗っかってやるか。


「凛子がいいならって話だけどな。嫌なら別に…」


「嫌とは言ってないから!…そっかまた、か…、うん!絶対来ようね!」


夕暮れの淡い光が空から降り注ぎ。

電柱の影が黒く伸びている。

光を纏うように彼女の笑顔は明るく輝いてみえた。

僕の心は確かに揺れ動いていた。


「そうだ!幸平!今週末付き合ってよ!」


「急にどうした?」


凛子はいつも唐突に誘ってくる。


「どうしても行きたいケーキ屋があってそこのショートケーキが美味しいんだって!今日のケーキも良かったけど、一緒にいこ?」


まだ食べる気があるとは、

もはや甘党の大食らいと呼んでも差し支えない気がしている。


「悪い、今週末は予定あるから無理だ」


「え?いつもは家でグータラしてる幸平が予定とかありえないでしょ」


「僕をなんだと思ってるんだよ。週末は出かけるんだ。だから、別の日。再来週あたりにしてくれ」


そう。週末は上原さんとの大事な約束があるのだ。それを無視するなんて神に誓ってするわけにはいかない。


「…誰と出かけるの?」  


ジトーーーと睨んで見つめてきた。


「詮索かよ。別に誰と行こうが勝手だろ」


「えー、いいじゃん教えてよ!そうじゃなきゃ2件目行くから!」


制服を引っ張ってきたと思ったら、思い切り腕組みして接近してきた。


ちかいちかい!

わずかにあたる感触が気になってしょうがないんだが!


「わ、わかったから!離れてくれ。…同じクラスの上原さんだよ。これでいいか?」


「う、上原さんって学園のマドンナと呼ばれてるあの上原さん?!」


なにその呼び名。

僕知らないんだけど。


「え?学園のマドンナが、誰だって?」


「だから、幸平のクラスの上原桜子さんが学園のマドンナって言ってるの!」


知らぬ間にそんな通り名が定着していたなんて。そういえばクラスのグループの何名かがそれっぽいことを言ってた気がするな。

あまり気に留めてなかったな。

反省だ。あとで混ぜてもらおう。


「…でも、なんで幸平と?罠?罰ゲーム?嫌がらせ?ハッ!まさか弱みを握られ脅されてるのかしら?!

幸平、何をしでかしたの?!」


「なんもしてないし、悪いことしてる前提なのは心外だ!…上原さんには世話になったからせめてお礼をしたいと思ったんだ」


「うっそだー。幸平がマドンナといるところは見かけていたけど、そこまで関係は進んでいないはずでしょ?」


どうやら見られていたらしい。

まったく油断も隙もない。


「はいはい。別に信じても信じなくてもいいけどさ。とにかく行くなら再来週にしよう」


「…仕方ないなー。わかった!それなら再来週ね!私はこっちだから、またね!」


嵐のように騒がしいのは、あっという間に去っていった。


それにしても今回は思ったよりも『方思わない作戦』は攻められなかったな。

ほぼ凛子のペースに呑まれてしまった。

これは反省として次に活かすとしよう。


よし!早く帰って、上原さんに連絡しないとな!週末が楽しみだなー!


僕は鼻歌混じりで軽やかなステップを踏んで帰った。



一方、幸平と別れた凛子は。


「やった!幸平と再来週おでかけだ〜。

何着て行こうかな?」


私は再来週のカフェを楽しみにしている。

幸平とどこかへ出かけること自体は何度もあったけど、二人で約束して行くのは初めて。


この胸の高鳴りはなんだろう?

幸平は私をどう思っているんだろうか?

友達以上であるとは思うけど、恋人までじゃないと思う。


そもそも、私は幸平が好きなのだろうか?

好きと言われれば好きだけれど、ラブの方かは定かではない。


この感情に答えを出すために。

幸平にはどんどん関わらないと。

それに、私はある目的を達成しなくてはならないから…。


それはそれとして幸平、週末は上原さんと出かけるっていってたよね。

冗談と思ったけどあやしいよなー。


確かめるしかないかー。


私は、週末の予定をきっちり空けておき。

動向を伺うことにした。

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