【一章】片思わない始まり⑧
僕と上原さんは目的の『石』を探しに、
学園の裏庭へ移動した。
そこは園芸部が丁寧に世話をしている花壇が辺り一面に広がっており、
庭の中央にある噴水と相まって幻想的な光景に目を奪われた。
花々が風に靡かれて、ゆらゆらと揺れ。
まるでお辞儀をするかのように、
僕たちを迎えているようだった。
「可愛いお花ですね!よくお手入れされていて、お花たちも喜んでるみたい!こんな素敵な場所があったなんて知りませんでした!」
上原さんはこの花壇に感動しているようだ。
僕も最初見た時は驚いた。
「ここは学園にある休憩スポットの一つなんだ。園芸部がここを管理してるんだよ。
学園内ですごい評判が高くて、他校が見学に来るくらいに有名なスポットと言われてる。
ほんと、いいところだよね」
「はい!ここでお弁当を食べたら楽しそうですね!」
どうやらこの庭を気に入ってくれたみたいだ。
「そうだね。上原さんと一緒に食べたら楽しいよなぁ」
「え、…えと。そうでしょうか、ありがとうございます…」
頬を赤くしてもじもじしている。
ふっ。いつだって隙をついていく僕!
『方思わない作戦』をここで決行できるとはね!
これはさりげなく、
『君と一緒にいたら楽しいよ!』っていうアプローチを相手の隙を狙い当てる技…。
題して!『方思わない戦法』!
シェアタイムズ〜『君とならどこでもハッピー』。だ!
ちなみに、人によっては。
「何言ってんの?頭大丈夫?」とか、
「え、別に楽しくないけど」とか、
メンタルにダメージを負うリスクもあることを覚えておこう!
「あの、ところで、『石』はどこにあるのですか?」
そうだ!
やることがあったの忘れていた。
あぶないあぶない。
「『石』は庭の中央にある。噴水のところだよ」
僕はあの目立つ噴水を指差す。
「噴水、ですか?でもどうしてそんなところに『石』があるのでしょうか?」
「噴水の上の方に丸いオブジェがある。あそこは太陽の光が反射して光って見えるんだ。これが『陽光を集め』。
噴水に近づくと段々になってて登れるんだ。だから、『天の階段を登り』。
そして噴水の向きは正面から見て左右に噴き出ているのを天使の羽にみえると例えられているから。『天使を呼ぶ』。
こんなところかな」
「そうだったんですね!あとは噴水のところにある『石』を持ってくれば」
「そうそう。噴水の水が溜まってる所に石があると思うから適当に選んで持ってくればいいよ」
「わかりました!私、持ってきますね!」
上原さんは、噴水へ向かった。
よし、これで調査も終わるな。
「幸平さん!この一番大きそうなものを選んでおきました!」
上原さんは、噴水のある上段から大きく手を振っている。
「うん!早くみんなところへ戻ろう!」
「はい!今そっちに行きます!」
その時だった。
ビューッ!!!と。
突然、大きな風が吹き荒れた。
僕の目の前には、チェック柄の紺色の布がめくれ。
全男子たちが夢見る秘宝がそこにあった。
「きゃっ!」
彼女は必死に抑えている。
…必死だ。
風も止み。
僕は何事もないかのように振る舞うことにした。
「…み、見ました?」
こ、これは誤魔化せないようだ。
「す、少しだけ。ごめん」
「…幸平さんの、えっち」
そう言われてもなぁ。
あのタイミングは不可避すぎるだろ?
どうしろっていうのよ。
だけどいいものを拝めましたなぁ。
白…、いや少し水色だったかなぁ。
綺麗だったなぁ。
おっと、落ち着け僕。
話を戻さなければ。
「こ、こほん。じゃあ天文部へ行こう。あいつらも待ってるだろうし」
「そうでした!はやく行きましょう!」
僕らは天文部に続く廊下を歩いていた。
「上原さんは、七不思議を信じてる?」
「本当だったら素敵だなって思います。幸平さんは?」
「僕は伝承とかはあくまでフィクションとして見ちゃうからね。いくら事実や証拠があったとしても僕らは目の前で起きたことが全てと考えるから」
「…信じていないということでしょうか?」
「そういうわけではないけどね。本当だったら、恋する人にとって嬉しいことだし心強いだろうなって思ったんだ」
「その、好きな人が、…いるのですか?」
「今はいないかな。僕よりも上原さんはどうなの?…今でも付き合ってたりとか」
「わ、私が付き合うなんて。とてもとても…それに、告白はされても断ってますので」
「そうなんだ。上原さんは人気があるから勘違いしちゃったよ、変なこと聞いてごめんね」
「いえいえ、気になさらないでください!
私はいつも人見知りしてしまうので、知らない方相手だと緊張してしまうんです」
「そうだったんだ。上原さんの意外なところを知れたな〜。あ、でも、助けてくれた時は人見知りとかなかったの?」
一瞬、上原さんの表情が曇った気がした。
「そ、それは。幸平さんが大変そうだったので体が動いてしまっただけですよ…」
「そうかぁ、人助けする時って体が勝手に動いちゃうものだよね」
「はい。だからあの日も…」
後半が小声で聞き取れなかった。
「えっと…、あの日って?」
「そ、それは…、あ!幸平さん着きましたよ、天文部!」
「そうだね。入ろうか」
なんだか、はぐらかされてしまった気がするがなにはともあれこの調査を終わらせることが優先だ。
「遅いぞ、コウヘー。見つかったのかよ」
「ああ、もちろん。そっちも集められたのか?」
「うん、まあね。サクラコ、コウヘーに変なことされてない?」
ユズハの怪訝な眼差しで見られる。
「なんで僕が何かしてる前提なんだよ」
「は、はい。平気で、すよぉー…」
「やっぱり何かあったんだ!?…コウヘー?」
「あれは不可抗力というか!他意はないから!」
「コ、コウヘー…、いくら彼女ができないからって。それはないだろう…」
よ、余計なことを。
「か、彼女とかそういうの関係ないだろ!とにかく集めたものを、展望台へ持っていこう」
僕らは天文部奥にある。天文台へ向かう。
そこは、天体を観測し研究するための場所にしてはかなり広く、僕らのいる教室くらいの大きさで部屋の真ん中に望遠鏡が置いてある。実は天文部こそ学園の中で最も功績が高く、多くの発見と新たな星々を観測している実績を持つ。天文部の卒業生の多くは宇宙関連の仕事に就き、日夜人類の発展のため尽力している。というのが学園の言い分みたいだ。
「よし。では。天文部次期部長のユズハよ。集めたものを望遠鏡の周りに時計回りで、番号通り均等に置きたまえ」
僕はそれっぽい雰囲気を出す。
「な、何その喋り方!ウケる!とにかく置けばいいのね」
ユズハは集めたアイテムを配置していく。
「こ、これでいいの?」
「一体何が起こるんだ?」
「七不思議は起こるのでしょうか?」
三人はじっと、様子を伺う。
数分が経つ。
しかし、何も起こらなかった。
「な、なにもおこんねーぞ」
「ねぇ、コウヘーホントにこれでよかったの?別のやり方があるんじゃないの?」
「いや、これでいいハズだけど。何も起こらないんならそれまでなんじゃないか?」
「はぁ?結局なにもなしかよ」
ユウスケはがっかりしている。
「骨飛んだくたびれるもんけだね」
ユズハは意味のわからないことを発する。
「骨折り損のくたびれもうけ、ですね」
上原さんが訂正してくれた。
「それじゃ撤収だな!僕はこれ片付けてくるから。二人は部活しなくていいのか?」
「し、しまった!?時間過ぎまくってるじゃんか!悪いが後片付け頼むわ!じゃな!」
ユウスケは超特急で部活へ向かっていった。
「さて、アタシも部活やりますかね。二人ともそろそろ部員も集まるから。解散してね」
「そうですね。私たちも行きましょう。戻すの手伝いますよ、幸平さん」
「ありがとう。それなら『絵』と『筆』を戻してもらっていい?」
「はい。お任せください!」
こうして僕らは七不思議を体験することなく振り回されて終えたのだった。
ただ、僕らのなんでもない時間に思い出という体験ができたことは言うまでもない。
チク、タク、チク、タク。
時計の秒針は進み続ける。
キーン、コーン、カーン、コーン。
時刻を知らせる鐘の音が鳴り響く。
窓から映る夕焼けを眺める。
僕は本来の目的、『Xさん』を待っていた。
コンコン。
扉を叩く音。
ガラガラ。
扉を開く音。
「やっぱり、あの日も助けてくれたのは君だったんだね…」
僕はきちんと向き直る。
そう。
これは待ち望んでいた瞬間なのだから。
「そうでしょ、…上原さん」
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