【一章】方思わない始まり⑥
翌日。
昨日の反省を生かし無事にクラスにつくことができた。
またお世話になるのも悪いしな。
できる限り自力でいかないと。
早く怪我だけ治さないとな。
あれから学校の掲示板に投稿をしてみたことで、多くのpv(ページビュー)が付き反応があった。
うまくいけば、今日中に『Xさん』の正体がわかるのだ!
楽しみでならない。
待っていろ!必ず正体を明かしてみせる!
「よぉーす!コウヘー!まだ怪我治んないの?」
「おはよう。昨日の今日ですぐに治れば苦労はしない」
「そりゃそうだ。なんかあればいつでも声かけろよ、すぐに助けてやるから」
「そうだな。じゃあさっそくだけど僕の肩を揉んでもらって、それから今日の授業が終わるたびにノートを書き写しておいてくれ」
「オレはお前の何でも屋じゃないんだが…」
そんなたわいのない雑談をしていると、
「おはよー」
明るいのにゆるさが残る声、
ユズハだ。相変わらずギャルしてんなー。
「あ、コウヘーにユウスケ。おは」
「「おはよー」」
「ねえねえ、昨日のやつまたやってよ。あの意味わかんない、じ、自己紹介、プッ」
どうやらまだ。ツボっているらしい。
「なぁ、いったろ。めちゃツボってるって」
「あの、訛り声なんなの?ホント、ウケるわー」
そんなに面白かったなら、やった意味はあったようなもんだ。理解者が二人もいると心が救われる。
「まあでも、全く意味わかんなかったけど。ポ○モンのとこと、最後以外は意味不明だったなぁ。あれなんて意味?」
訂正。全く理解されてなかった。
まあ、わかる方が少ないとは思うけど。
僕の関心を返してくれ。
「深い意味はない、忘れてくれ。
それにしてもユズハ、髪型変えた?」
「えっ?なんで?」
突然の『方思わない作戦』始動!
いつだって相手の油断をつくのが鉄則だ!
「いや、髪留めの位置がズレてるし。パーマも少し巻き方変えたのかなぁって、勘違いだったら悪い」
「いや、合ってる。昨日、美容院寄ったから短くなったんだぁ」
「そうだったのか。似合ってるじゃん」
僕は『方思わない戦法』。
メッセンジャー〜『君のこと見てるよ』。
を発動!
これにより、ターゲットへあなたのことよく見てるよと間接的に伝えることで、距離を縮めて親密度をあげることができるのだ!
ただやりすぎると、
『はぁ、何見てんのよ。きっしょ』とか、『うっわ、また見てるよ変態かよ』となるので。
加減が必要だ。
「なっ、なに言ってんのよ!コウヘー、昨日からなんか変じゃない?」
かなり動揺しているようだ。
これはかなり効果はあったんじゃないか?
「僕は素直に思ったことを言っただけ。何か問題があったか?」
「べ、別にないけど。前はそんなこと言わなかったし」
「昔と比べないでくれよ。僕だって昔と今じゃ変わることだってあるさ。なぁユウスケ」
「いや、コウヘーは基本的にというか、ほとんど変わってなくね?」
コイツに聞いた、僕が間違ってた。
「ま、まあ、いいけど。
そうそう二人はこれ知ってる?」
「「なになに?」」
「学園特別仕様アプリ。『テントウ』にある生徒内掲示板、その中に『学園七不思議』っていう学園の噂のこと!」
学園アプリ。通称『テントウ』は、学園名の略称である。正しくは、
『私立天明東山道大学園』(しりつてんめいあずまやまみちだいがくえん)。
という。
長いので、僕らも『テントウ』と略称している。
「さぁ、知らないな」
「そういえば部員たちとマネージャーが噂にしてるのを聞いたな」
「そう!その七不思議が話題になってるの!放課後みんなで行ってみない?」
ほう。七不思議。これは『方思わない作戦』で使えるかもしれない。
調べる価値はありそうだ。
「いくよ」
「俺も!部活始まるまでなら付き合うぜ」
「アタシも部活あるけど、好奇心には勝てないからね!ささっと調べてみよう!」
ユズハは相変わらず周りを巻き込むのが得意だ。ギャルになった理由もわかる気がした。
「皆さん、おはようございます」
可憐で耳心地よい挨拶が聞こえてきた。
「「「おはよーーーーーう!!!!!」」」
クラス内の男たちがどよめく。
(ユウスケも含む)
「お、おはようございます…」
本人はタジタジのようだ。
昨日編入してきた、上原さん。
すっかりクラスの人気者になった。
わずか一日で。
「平さんも、おはようございます」
「おはよう、上原さん。朝からすごいね」
「わ、わたし挨拶しただけなんですけどね」
それはそうだ。
当の本人は自覚してるけど、それ以上に彼女を囲う熱量がすごい。
昨日クラスの男子内グループL○NEで、上原さんの噂で持ちきりに。
ファンクラブまで作るだの噂になってた。
本当にやりそうで怖い。
「みんな上原さんに会えて嬉しいんだよ」
「そんな、…た、平さんも嬉しいんですか?」
「もちろん!上原さんに会えて嬉しいよ」
「そ、そうでしたか。ありがとうございます…」
上原さんはモジモジして固まってしまった。
ふっ、決まった。
これぞ、『方思わない戦法』。
All For One 〜『みんなあなたと会えて嬉しい』を発動!
これは、みんなを引き合いに出してさりげなく自分の気持ちを伝えるという素直さを表に出すことで天然タラシっぽくみせる技だ。
ただ、人によっては、
『おまえに、嬉しいって言われても何も思わないから』とか、
『嬉しい?こっちはアンタのそのセリフがキモいんだよ』とか…
まあ人を選ぶ技なので、多用は厳禁だ。
肝心なのはさりげなく、サラッと言うのがポイント!
「コウヘーは、上原さんにまでそういうこと言うんだぁ…」ボソッ
「なにか言ったか、ユズハ」
「なんでもない!、そんなことより!おはよ!上原さん」
「はい!上条さんに木下さんもおはようございます」
「固いなぁ、上原さん。アタシのことはユズハでいいよ。サクラコって呼んでいい?」
「俺も下の名前でいいからな!上原!」
「はい。あ、ありがとうございます。ええっと、柚葉、さん。優介さん、…幸平さん」
なんか無理やり言わせた雰囲気になっちゃったな。すまん、上原さん。
「ねえねえ、サクラコも放課後に七不思議を調査してみない!」
「七不思議ですか?」
「そうそう、今三人で行こうって話になってて、よかったらどう?」
「はい。いいですよ」
「よし!決まり!放課後しっかり開けておいてよぉ、よろしく!」
いうことだけ言ってユズハは行ってしまった。
「じゃあ、俺も戻るわ。お二人でごゆっくりコウヘー」
「変な勘繰りするな。ほらいったいった」
「つめてーやつだな、またね上原!」
「はい!」
お節介な二人は別グループに行った。
「なんかごめん。無理やり付き合わせたみたいで、用事があったら優先して構わないから」
「いえいえ、せっかくのお誘いですから。それに学校を探検してるみたいで楽しそうです!」
前向きな上原さん。
めっちゃええ子や。
「そうかも。飽きないやつらではあるかな」
「そういえば、昨日の用事は平気でしたか?」
「うん、なんとかなったよ。ホントありがとう」
「それは、よかったです。そういえば、委員長に頼まれてた書類がありました。これ、幸平さんに、です」
「え?僕に、なんだろう?……げっ」
「どうかしましたか?」
中に入っていたのはクラス内共有書類をデータごとにファイルし、『テントウ』に移行するという仕事。
ご丁寧にファイリングまでしてある。
「委員長に仕事を投げられたよ。書類をデータに移行するんだって」
「大変そうですね。お手伝いしましょうか?」
「平気平気。これくらいなら僕でもなんとかなりそうだし、上原さんだって仕事もらってるんでしょ?」
「じ、じつはそうなんです…。本当に仕事が多いんですね」
「だね。まあ、やることをやれば苦情はないだろうからとっととやるかー…はぁ?」
「ど、どうしたんですか?」
「…この仕事今日中だって」
「て、…手伝いましょうか?」
「………お、お願いします…」
くそぉう!
あの委員長、やっぱ根に持ってるじゃん!
僕らはなんとかして、放課後までに終わらせて委員長に大変喜ばれました。
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