【一章】方思わないデート①

七不思議の出来事から1ヶ月ほど経ち。

僕の怪我は予定より早く完治した。


治るまでの間は、学業に勤しんでいた。


まあ、テスト期間に入っていたから、

『方思わない』作戦も一旦中断していた。


恋にうつつを抜かして他のことに力を注がないというのはあまりにも間抜けだ。


ラブコメの主人公でもあるまいし。


あくまで学生の本分は勉学。

そこの体裁は守るべきだろう。


そして今日。

学園最初のテストが発表される。


テストはプライバシーの考慮もあり、

自分の成績の詳細については学園支給のデバイスから確認ができる。


ただ、学年上位20名は大々的にクラス掲示板に張り出され、

学力の基準として他生徒たちの注目となる。


こうすることで、生徒間での競争心を引き出そうというのが本学園の狙いらしい。


さて、そんな僕はというと。

張り出されている掲示板を見やる。



「…19か。ギリギリだな」


「おい、コウヘー!何位だよ?また上位10位以内か?」


「いいや、19だ。怪我もあったし、仕方ないだろう」


「くはぁー、イヤミかよー。できるやつはいいよなぁ。俺なんて807番だぜ」


「それ、自分よりも上のやつに言われて腹立つセリフトップ3に入るぞ」


自分から成績を開示するというのは、隠す必要のないオープンなやつと認識される反面、

下のやつからすれば、プライドが傷つき妬み嫉みが生まれる。

これにより攻撃するべき、叩いてもいい、自分を貶める敵という構図に変わる元凶だ。


僕はこの順位づけにはあまり興味がない。

人はそれだけが全てではないからだ。


しかし、そうはいってもここは学園。

共通点は勉学や部活、委員の活動などできることは限られてくる。


この上に小さな社会が成立して、

僕らの存在価値を位置付けさせる。


このような場にいる以上。

否が応でも意識してしまうことは避けられない。


「おっはー。二人とも掲示板みてどしたの?」

  

緊張感のない声の方へ振り向くと、

ユズハがいた。


「おうおう、コウヘーがさ。自分の順位わかってるのに、わざわざ見に来て確認してるからよ。冷やかしにきたんだ」


「おまえ性格悪いな。もしかしたらと思って確認の意味で見にきただけだ」


「えっ、コウヘーってそんなに順位高いの?」


ユズハに驚かれた。

一応、去年の学年総合順位7位なんだけどな。


「19だってさ!まったく困っちゃうよなぁ。俺たちはここに載るように頑張ろうぜ!」


ユウスケは、ユズハを慰めるように励ます。


「ちょっと、アタシがなんで順位が下とか決めつけてるのぉ?」


「え、違うのか?じゃあいくつだよ」


彼女は掲示板の方を指さして、僕らの視線を動かす。

そこに彼女の名前と順位が載っていた。


「8位だよぉ。最初にしては上々じゃないかな」


上機嫌で自慢してきた。

僕は改めて掲示板を凝視する。

確かにユズハの名前がバッチリ書かれていた。


まさか、ユズハに抜かれていたなんて。

少し悔しい。


「うわっ!ホントだ!おいコウヘー。ユズハにまで負ける俺って、どうなっちゃうんだよー!」


「泣きつくなよ。あとで、見てやるから」


せめてもの慈悲だ。

なんだかんだで助けられてる恩もあるから。


「さすが、幸平様。私にお慈悲をくださり感謝」


「気持ち悪いこと言ってないで早く離れろ」


なかなか離れようとしないユウスケを剥がしていると。


「おはようございます。幸平さんにおふたりも」


そこには、女神がいた。


「おはよう、上原さん。もしかしてけ…」


「おっはよ!サクラコ!もしかして掲示板見にきたの?」


僕が言おうとしていたのに…。

ユズハは何かと僕と上原さんの会話を遮ってくる。


よくわからないが。

いくら『方思わない作戦』のターゲットでもやっていいことの判別はしてもらいたいところだ。


「はい!どんな人が上位に入ってるのか気になりまして」


「ふふーん。よぉーく見ていってねぇサクラコ〜」


ユズハに催促されて、上原さんは掲示板の方に連れて行かれた。


あいつ、絶対自分の順位自慢したいだけだろ。


「すごい!ユズハさん8位じゃないですか!おめでとうございます!お勉強得意なんですね」


「えへへ、ありがとー。去年はあんましだったんだけど。今年は頑張ろうって気合入れてたんだぁ」


「ほんと、すごいですよー!柚葉さん、私にもお勉強教えてくださいね」


「もちろん!親友のために力を貸すのは当たり前じゃない」


「し、親友だなんて…。ありがとうございます。不束者ですがよろしくお願いします」


「かたいよぉ、サクラコ。気楽にやろうねぇ」


なんだか、僕らは取り残されてしまったようだ。

二人の空間ができている気がする。

もしかして…、いやそんなことはいいんだ。


とにかく見るものは見たしさっさと教室へ戻ろう。

僕は落ち込んでるユウスケを引っ張って教室へ戻った。



教室へ戻った僕は改めて、

『方思わない作戦』の詳細を確認する。


この目的は彼女をつくるために、

これまでの自分の行いから導き出した答えとして。『片思い』では、恋は叶わなかった。


この事実から、

『方思わない』恋をすると決意!


つまり僕は、付き合いたいターゲットと。

すでに両思いであるように振る舞うことで、自然と彼女をつくるという行動に切り替えることにしたのだ。


その成果は、ある程度の親密度が高い相手。

例えば幼馴染のユズハで反応が見られ、

僕の隣の席で編入生の上原さんには好印象な手応えを感じている。


まだ始まったばかりだが、

僕はすでに見据えている。

この先にあるフィナーレの形がっ!!!


だからこそ、このテスト終わりで緊張が緩み

ひと段落したこのタイミングが仕掛けるときだろう。


「探しましたよ、幸平さん。急にいなくなったので心配しました」


どうやら心配で探してくれていたらしい。

なんて気の利く優しい人なんだろうか。


「ごめんね、上原さん。ユウスケのメンタルが削られてたから、離れただけだよ」


「そうでしたか。てっきり避けられてるのかと思ってましたし」


「避ける?僕が?」


「そ、その。七不思議の件からあまりお話ししてなかったような気がして…」


「そうだったかもね。テストも近くて力んでたみたい。気にしてくれてありがとう」


「いえいえ!私こそいつも助けられてますからおあいこです」


よし!このタイミングだ!


「あ、そうだ。上原さんは甘いものとか好き?」


「え?はい。好きですよ」


「パンケーキとショートケーキならどっちが食べたい?」


「私はパンケーキが好きです!ふわふわの生地にバターを乗せて、シロップをかけて食べると美味しいんですよねぇ」


キラキラした顔で語る上原さん、

マジ可愛い。


「実は、パンケーキのお店が新しくオープンするから食べたいなって思ってたんだ。

一緒に食べに行こうよ!」


どうだ!

ここで拒否られたら、彼女との良好な関係を続けるのに時間を費やす方へシフトしなくてはならないんだが。


果たして、上原さんの答えは…!?



「いいですね!行きましょう!いつ行きますか!」


よし!イエス!やった!

彼女も食い気味に尋ねてきた。

よっぽど好きなんだなぁ、パンケーキ。

少し気圧されてしまった。


「そ、そうだね。今週末はどうかな?予定とか平気?」


「はい!今週末は空いてますよ」


無事予定確保!


「おっけー。当日の集合場所と時間は決めておくよ。L○NE教えるね。…はい」


「は、はい!…どうも」


連絡先交換、完了!

いっ、よし!


落ち着け、平静を保つんだ僕。


「登録よし。スタンプ送ったけど届いてる?」


ピロン!


僕は、『よろしくね』のくまのスタンプを送信した。


「はい。わぁ!可愛い!くまのスタンプですね!私もー、…えいっ!」  


ピロン!


送られてきたのはネコのスタンプ。

『よろしくニャン』

語尾にニャンとは。


上原さんが喋ってるのを想像してしまう。

…ふぅ、アリですね。


「お!上原さんも可愛いスタンプだね。帰ったらまた連絡するよ」


「はい!楽しみです!」


こうして僕は上原さんと食事をするという名目を手にし。

二人でおでかけもとい、デートをすることになったのだ。


よしよし、いい感じだ。

『方思わない作戦』of デートプラン。

思ったよりも早く実現するとはなぁ。


あぁ、早く学校終わらないかなぁ。

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