【一章】片思わない始まり③


僕は手紙の主は誰かを筆跡から読み解こうとしてみるがいまいちわからない。


てか、これ手書きじゃなくて印刷かけてね?

手書きっぽくする文字もあるしそれか?


そもそも、クラスが上がると一年の時のクラスはバラバラになって再編成されるから、下手をしたら僕の周りには全員知らない人だけという可能性もあるのか…。

…いや、一人は確実に知っている奴がいるな。


僕はそんなことをぼやいていたところ。


「おはよーう!コウヘー!また同じクラスだな。ケガ平気か?」


「おはようユウスケ。相変わらず、声が大きいやつだな、怪我はみりゃわかるだろ」


「相変わらずツンケンしてんな!それじゃモテないぜ!」


余計なお世話じゃ!

コイツは幼馴染の木下優介(きのしたゆうすけ)。小さい頃からの腐れ縁で幼稚園、小中高、クラスですら変わったことがない、ずっと一緒にいる不思議なヤツだ。

…本当に不思議だ。

…呪われてるのだろうか。


「そういうオマエは、入学早々クラスの女子たちと遊んでんだろ?」


「なんでわかったんだよ!エスパーかよ。コウヘーはスゲーなやっぱ!」


嫌味のつもりでいったんだが、当たっていたのかよ。


この幼馴染は、昔からコミュ力の化け物で大抵の女子から人気が高い。

容姿も良く、スポーツ万能で、高校ではサッカー部のエース。どうやら某名門大学からすでにスカウトの声もかかっているという話だ。


そんな僕は陽キャの隣にいるモブの一人…。

と、以前の僕なら捻くれていた。


しかーし!今の僕は違う!

なんといっても、僕は黒髪美人女子である上原さんと、まだ見ぬ手紙の主、そして『Xさん』との出会いが始まっているのだ!


そう!僕は間違いなくキテいるんだ!

モテという流れが!

モテ期という時期が!!!


「おーい、きいてるか?」


ユウスケが、なにやら話しかけていたらしい。


「すまん、考えなくてはならないことを優先していた。で、どうした?」


「おいおい頼むぜ、ほら。ユズハも今年から同じクラスなんだよ。顔合わせなくて良いのか?」


ユズハ?はて?そんな子いたっけな?

僕は思い当たる人物について考える。


「久しぶりコウヘー。

ケガして災難だったね。元気してた?」


明るくゆるい声が聞こえてきたので、

振り返るとそこには、


ギャルがいた。


左に金髪の髪を束ねて結んでいるサイドテールがふりふりと揺れ、校則スレスレの際どいスカート、細身の体でありながらも女性らしさが溢れているそのシルエットは、

まさにギャルそのものだ。


「ユズハか!久しぶり!てかこの学校にいたんだっけ?」


僕は思い出し、つい本音をポロッと口に出す。


「ねぇ、コウヘー。もういっかい病院で検査した方がいいと思うんだよねぇ…。あたしが送ってあげるからさ」


「ウソだよ、冗談冗談…」


細い腕から殺意の満ちた拳を振り下ろそうとしているこの子は、

上条柚葉(かみじょうゆずは)。


ユウスケほど長くはないが幼馴染で、腐れ縁の一人だ。

小中高と、別々のクラスがあったので交流は多すぎず少なすぎずといったところだ。

家も近所で近かったので一緒に遊んでた時間も多かったと思う。


久々に同じクラスになり、普通に嬉しい。


「まさか同じクラスになるとか、なんか運命みたいだよな!」


僕はそれっぽいことを純粋な気持ちで口にしてみる。


「バ、バカッ!変なこと言わないでよ!」


ユズハは、あからさまに動揺している。

いいぞ!


このセリフは全く知り合ってまもない人に使ったら、

『はあ?何いってんだコイツ、きっしょ』

となる諸刃の剣なんだが、

それなりに仲が良く見知りあってる関係なら、ひかれるリスクの少ないトーク技として化けるのだ!


そう!これぞ、『方思わない戦法』!

"ロマンチストーク『僕たちって運命かもね』共有術"だ!!!


………………………。

思ったよりもネーミングセンスが危ういな。あとで改良するとしよう。

僕は一人で戦法の効果と反省を記憶にインプットしておく。


「…まっでも、コウヘーと同じクラスなら楽しいことありそ…」


「えっ、なんて?」


「なんでもない!アタシそろそろ友だちのとこ戻るから!そんじゃね」


「おう、そんじゃな」


ユズハははにかみ笑顔で翻り、元いた女子グループに戻っていった。


ユズハとは、久しぶりだったが変わっていたのはギャルになってたことくらいだ。


てか、なんでギャル?


中学の時の方が正直好みではあったんだが。


まあ、そんなことより僕の戦法が効いていたということは、

ユズハともチャンスがあるということか!?


まさかとは思っていたが、

今日でもう二人だ。

まさか、ホントにハーレムができてしまうのではないだろうか。


ふふふっ。

このチャンス。逃すわけにはいくまい…。


「おーい、コウヘー。聞いてるかー?」


またユウスケが話しかけていたようだ。


「悪い、大事な考え事をしていて一語一句全くもって聞いていなかった。で、なんだ?」


「オマエ、それじゃ彼女できても嫌われるぞ」


「おいまて。どうしてそうなる。

ほとんどの場合、ユウスケの話に中身がないことが多いから頭に残らないんだ」


「うわ、ひでー…」


僕に全く悪気はない。

むしろユウスケは喋りすぎて、あることないことペラペラとなんでも口に出すもんだから、

これまでに彼女ができても数ヶ月までしか続いていないのだ。


こういうところが直れば、

素直にいいやつってなるんだがな。

全く惜しいやつだよ。


ユウスケたちと話しているのも束の間、

朝のホームルームの時間となった。


僕は担任の先生と初めて顔合わせをする。


ガラガラガラ。


クラスの扉が開く音。


「おはようみんな、今日も元気にいきましょう!」


元気で明るいハキハキした可愛らしい声が聞こえてきた。


女性の担任か!

よかったぁ。ゴリラみたいな体育の先生じゃなくて。

僕はほっと胸を撫で下ろす。


あれ?それにしても先生の姿が見えないな。


幸いにも前の人は僕の座高でも見えるくらいの人たちだったので助かった。


しかし、先生の姿がいまだに見えない。

えっ、もしかして幽霊?

んな、あほな。


「よいしょっと、さてみなさんに二点の連絡事項があります!」


クラスのどこにあったのかわからない踏み台からその担任は教卓から現れた。


ボブヘアーの茶髪がふわふわし、前髪にヘアピンをつけている。あのヘアピン、猫のデザインが施してあるな。猫が好きなのだろうか?

サイズの大きめなピンクのカーディガンを羽織っていて掴みどころのない雰囲気がある。


後ろの席からでは全身は見えんな。

てか、小さいな!先生!

あ、でもめっちゃタイプです。


「一点目です。始業式から不運な事故に遭ってしまった平幸平くんが、クラスに戻ってきました!おかえりなさい、平くん!」


先生の拍手にクラスの全員から拍手を贈られる。

なんか大袈裟だなぁと思ったけど先生は善意で迎えてくれている。クラスのみんなも合わせてはいるんだろうが、それでも嬉しい。

素直に受け取っておこう。


「そして、はじめまして平くん。

担任の青柳千恵(あおやなぎちえ)です。

よろしくね!さっそくで悪いのだけどみんなに自己紹介してもらえる?」


「はい」


キタキタキタ!!!

自己紹介イベント!!!

ここで僕の存在をアピールするチャンスだ!

どうやらこのクラスはみたところかなり優良な女子が多い印象だ。

ここは一発かましてド派手に気張ってやるとしようか!


僕はあっためてきた自己紹介をここで使うことにした。


「はじめまして、平幸平といいます。漢字で書くと上から読んでも下から読んでも読み方が変わりません。まるで、ポ○モンのキリ○リ○みたいといわれますが、僕はどちらかといえばピ○ピが好きです。

ごほん。

クラスのみんなには、この怪我で迷惑かけるけ、かくわい、めでがけのこ、とがぁ、多くなるかもしれませんがぁ。(田舎の方言っぽい訛りで喋る)

一年間、楽しい学園生活にしていきます!

よろしくお願いします!(キリッ)」


パチパチパチパチパチパチ


「はっ、は、はーい、平くん…、あ、ありがとうね。それじゃ席へ座って!」


先生の反応がなんかイマイチだな。

ついでにクラスもなんだか気まずい空気が。


プッ!クスクスクスクス!


いや、一部にはウケてたみたいだな。

成功だな。


僕は何事もなかったように席に着く。


はぁ…。


あーーーーー!!!!!

はっず!はっず!はっず!


これなら普通に自己紹介すればよかったんじゃね?

これじゃあクラスにいるネタ役要員の一人、一般生徒Tじゃないかぁ!


僕は恥ずかしさで顔から火が吹き出しそうだったが、どう転んでも後の祭り。

やり切った自分を讃えよう。


まあ、拍手をもらえただけありがたいことだよなぁ。


「えーと続けて、二点目の連絡事項です。本日新たに編入生がクラスに入ります!それでは入って!」


おおおおおっっっっっ!!!!!


青柳先生から呼び出された生徒が入ってきた瞬間にクラス内に響くどよめき。


一体何事かとまだ赤面している顔をしぶしぶ上げる。


目の前にいたのは、

艶のある黒髪が肩までかかり、一度見たものを惹きつけて離さない美貌。

歩いているだけなのに優雅に映る上品さ。

年相応の可憐で見目麗しい、容姿端麗。

まるでおとぎ話に出てくるような女神。


クラス一同。

僕も含めて彼女に魅了されていた。


そう。

僕たちの前に降臨した女神は、

言うまでもなくついさっき世話になった、

上原桜子さん、その人だった。

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