【一章】片思わない始まり②

「ここは?」

「幸平!目が覚めたのね!本当に無事で良かったわー!」


お袋のでかい声が耳に響く。

ここは病室。どうやら意識を失ってたみたいだ。


大声で泣きじゃくるお袋。

皆さんの迷惑になるよなんて思いながら、大袈裟でも心配されると、自分への申し訳なさと大切にされてるんだという嬉しさが込み上げてきた。

不思議な感じだ。


僕はバイクに轢かれて吹っ飛んで気絶し、ここに搬送されたんだ。


どうやら3時間ほど眠っていたみたい。

すぐに看護師や医者が様子を見に来た。


一通りの検査も終わり落ち着いたところで、

目が覚めた僕の前にはバイクの運転者らしき人が謝罪しにきた。


土下座までしそうだったのでさすがに止めた。


その運転手はお袋と慰謝料やら保険やらの手続きのため病室から出て行った。


僕はというと打撲と軽い打ち身程度で済んだと思ったが、足首を骨折したみたい。


全治2ヶ月は見ておくように言われた。


こうして僕は、骨折という爆弾を抱えて学校へ登校することが決まったのだ。


なんてことだ。

僕の予定がまたしても狂ってしまっ?


ま、

待てよ。

そういえば、あの時。


声をかけてくれたのは女子だったような?

運転手は男の人だったし、僕の事故を目撃した人がいるってお袋も言ってた。


ということは、僕を救ってくれた人がいるということだ。

しかもそれは女子である可能性が高い!


もしかしたらあわよくばの可能性もある!

これは是非ともきちんとしたお礼がしたい。


決して下心だけでの行動ではないぞ。

…ないぞ。


さっそく病院関係者やお袋に詳しい話を聞いてみた。

が、それらしき人は浮かび上がらず。


わかったのは目撃者と通報者がウチの高校の生徒であることと、女の人であることくらい。


これでは対象が広すぎる。


なんせうちは市内一の私立大高校。

全校で5000人近くの生徒を抱えているマンモス高校。

そのうち女子の比率が6割超えだというのだから。


探すとなると骨が折れるそうだな。


しかたない。学校で地道に探すとするか。


僕はこの途方もない人探しに頭を悩ませるのだった。




始業式から1週間後。

リハビリも進み、登校許可が降りたのでさっそく向かう。


今日は事故の時に助けてくれようとした女子へお礼をしたい!

そしてあわよくばそのままいい関係に持ち込みたい!

誰かわかるまでは『Xさん』としておこう。



親父の車に乗せてもらい学校へは無事に着いた。


振り返ると本当に広い学校だ。

ここは、私立学校なのだが大まかに普通科、工学科、国際科の3つで振り分けられている。


僕は普通科に所属している。


5000人全校がいるのかといえばそうではなく。半数以上はリモートによる教育が行われているため、学校に来ることはない。

が、それでも2000人近くはいるから決して少なくない。


さらに、学科ごとに棟が分かれているため。

交流も1年の間は、学校行事で関わったことがあるくらいだ。


だから『Xさん』が違う学科の人の可能性も噛みしないとならない。


さあどうやって探したものか?


頭を悩ませるもすぐに案は出てこない。


まあ、なんとかなるだろう。


とにかく『Xさん』と合わなくては!

女子だったなら尚更だ!


感謝と下心を3:7の比重で抱きつつ自分のクラスへ向かう。

見慣れた廊下を慣れない松葉杖で歩く。


今日から晴れて2年生となったクラスへ。

いったい誰がいるのか。

緊張と期待が胸の鼓動を早めてる。


おっと、よりによって目の前に階段。


そういえば、2学年のクラスからは階が上だったんだ。


僕は足を骨折して松葉杖なんだぞ。

その僕にとってこの階段はかなりの壁。

ここを越えなければ僕はクラスへ行くこともままならない。


たしか体の不自由な人が使えるエレベーターがあったはずだが、職員室を回ったり複雑な場所にあった気がする。


私立校なのにその辺りの配慮というか、

もう少しなんとかならなかったのかと、

ケガした人間としてしみじみと感じる。


仕方がないので、僕は松葉杖を器用に使い?つつ階段を上がる。

なかなか難しいけど、やれないことはない。


いいぞ!

なんとか半分まできた、よしこのまま、、、


ガタン!


静かな廊下に響き渡る。

しまった!杖を落とした!

クソッ、このままでは上がるに上がれない。


なくなく杖を取りに戻ろうとしたその時。

コツコツ。

足音が聞こえてきて、

コツコツコツコツ。

近づいてくるのがわかった。


「あの、平気ですか?」


耳に透き通る可憐な声が聞こえた。

おもわず振り向くとそこには、


神秘的な黒髪が映え、眉目秀麗という言葉が本当にあるんだなとわかる顔立ち、学校支給のブレザーがまるでモデル雑誌に載ってると思うほどに、彼女から魅力が伝わってくる。


まるで魔法がかかったような引力に思わず視線も心も吸い寄せられる。


そう、めっぽうな美人さんが目の前に現れたんだ。


思わず見惚れてしまう。


「これ、落としてしまったのですね。そっちに持って行きますから、そのまま動かないで」


その美人は杖を拾い上げて、優雅にこちらに寄ってきた。

甘い香りがする。

心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


「はい、立てますか?」


黒髪美人さんは、手を差し伸べた。


さっそく助けてもらうことになるとは、

自分の不甲斐なさを呪いつつも、

彼女の手を借りる。


「ごめん、助かったよ、ありが、あっ!」

「あぶない!」


思わず体勢を崩してしまった。

僕はなんとかして近くの手すりに手をかけようとしたが、


「きゃっ!」

「えっ?」


僕の手には、がっしりとした安定感のある手すり棒ではなく。

豊かに膨らんだ風船へ偶然にも手をかけてしまった。


「ご、ごめん!体勢が、その、くずれてしまって」

「いえ、その、はい、じ、事故です!、よ、

へ、へいき!、です」


明らかに動揺している。

彼女のためにも体勢を整えて、

なんとか本来手を置くはずの手すりを掴む。


沈黙が流れ、気まずい空気が漂う中。

彼女には杖だけ持ってもらい、不格好ながらも階段を上がり切ることができた。


「さっきは本当にごめん!驚かせたよね!親切にしてもらったのに迷惑をかけてしまった!すまない!」


誠心誠意謝罪。

これだけはやらないわけにはいかない。


「い、いいえ。私もきちんと手助けできていれば起きなかったことですから。気になさらないでくださいね」


なんてことだ。彼女は女神か?

僕の罪を許してくれるなんて。

なんて心の広い良い人だろうか。


「僕は平幸平です。助けてくれて本当にありがとう」

「どういたしまして、平さん。私は上原桜子(うえはらさくらこ)といいます。

困ったことがあればいつでも声をかけてくださいね。それでは」


黒髪美人で素晴らしい美貌とスタイルを持った上原桜子さんは、優雅に立ち去っていった。



こ、これは。


出会いイベント、キターーーーー!!!!!


このシーンはあれだ!

ヒロインが手助けをするが、トラブルが発生して気まずくなるけれど、

協力して乗り越えた先でお互いの距離が近づき名前を名乗ることでヒロインがまた何かと助けてくれるという好感度上げイベントの定番!


あの出会いイベントあるあるじゃないか!


これは彼女と関係を進めるチャンスだ!


やるしかない、しかし今までの反省を踏まえつつも僕は彼女とすでに付き合っているという余裕で関わるんだ。


僕ならできる。僕はすでに関係を進めているのだから!


そういえば胸元のリボンが赤だったな。


学校には指定のリボンとネクタイがあり、

それぞれ学年別に、

1年は緑、2年は赤、3年は青と決められている。

彼女は赤。つまり2学年だ。

まさか他クラスに彼女のような美人がいるなんて僕の視野はどうやらかなり狭まっていたらしい。


…それにしても柔かったな…。


まだあの感触が手に残り思考を阻害する。


そんな反省やら煩悩はどうでもいいのだ。

今は彼女となんとかしてもう一度お近づきになりたいところだ。

そのためには…。


僕はさまざまな脳内シュミレート(誇大妄想)をしながら自分のクラスについた。


どうやら一番最初の到着みたいだ。

確かに朝早かったからな。

いなくても当然。


ん?いや、待てよ。

まさか彼女が、僕を助けようとしてくれた女子の可能性はないだろうか?

こんなに朝早く学校にいるのだし。


もしかしたら、、、。

ってそんなわけないか。


彼女は助けてくれた女子のような感じではないし。

知っていたら僕との会話それとなく聞いてきたはずだ。


でもあえて名乗らなかったという可能性も捨て切れないんだよなぁ。


とりあえず指定されている席に座る。

クラスは40人。縦2列ある席の川から廊下側より2列目。

どうやら怪我人のための配慮として移動しやすい後ろに振り分けられたようだ。


一番後ろはでかい奴がいると、

黒板がその時間で写せないんだよなぁ。

まあ、その時は隣の人にでも見せて貰えばいい。


僕はカバンから教科書とかを机の中に入れようとしたその時。


ひらり。


一枚の紙?が落ちた。


四つ折りにして小さくまとめてあるみたいだ。


宛名は。


『平くんへ』


ほうほう。


さて、中身は…。

なになに。


『先日の件でお話があります。本日の放課後に図書室へ一人できてください。待っています』


こ、これは、告白イベント?!か!


だかしかーし!落ち着け僕。


僕はまだ何もしていない。

あるとするなら、バイクで跳ねられ怪我をして骨折をしたことくらい。


となると、考えれることは一つだけ。

先日助けようとしてくれていた女子からの手紙である可能性だ!


これはもう行く以外の選択肢はない!


僕はこの手紙の主を確かめるため、図書室へ向かうことを固く決意するのだった!


たのしみだなぁ、へへっ。

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