07話
あれからは特にやらかしたりすることも、衝突したりすることもなくなって上手く仲良くできていた。
先輩とも変わらずにいられているから安心している、これなら多少は変化が起きてもなんとかなりそうだ。
「クリスマスか」
いまクリスマスということはこれからもっと寒くなるということにうへぇとなりつつもそこまでテンションは下がっていなかった。
クリスマスプレゼントを買いたいから紬先輩達のところにいく、するとすぐに気がついてこちらのところに来てくれたから助かった、残念ながら先輩の方はいなかったが。
「ごめん肇くん」
「あ、今日は無理なんですね、それならクリスマスまでに空いている日を――」
「ごめん、一緒に過ごせないんだ」
「ああ、それならそれで仕方がないですね」
これまで毎年一緒に過ごしてきたがここで連続記録も途切れるのか。
絶対に過ごせなければ嫌だ、やっていられないというわけではないがなんとなく動く気にならなくて椅子に座っていた。
教室内が真っ暗になっても構わずに適当なところを見ていると担任の先生が来たからそのタイミングで挨拶をして学校をあとにした。
「おかえり」
「父さんか、そんなに遅くまでいたつもりはなかったんだが……」
「たまたま早かっただけだ、さっき紅羽が来たから上がってもらった」
「連絡してくれればよかったのに」
スマホを確認してみてもマナーモードで気づけなかったのではなく、単純に連絡なんかがきていなかった。
外にいたい趣味はないから家に入ると確かにソファに座っている先輩がいた、むしゃむしゃ菓子を食べていて中々に意外な先輩だった。
「あ、やっと帰ってきたのね」
「父さんのご飯を食べましたか?」
「うん、やっぱりここに来たなら食べさせてもらわないと損だから」
そろそろ苦手ではなくなったか? それとも、ご飯のためなら苦手なことなどどこかにやれるというところか。
「はは、あ、紬先輩はクリスマスに一緒に過ごせないみたいです」
「そうなの? へえ、またあの男子といるようにしたことが影響しているのかしら」
一度距離を作られてから頑張ろうと動けるその人がすごいと思えた。
ただ、こうなってくると先輩も「私も動くわ」みたいな感じでまた変わりそうだからあまり期待しないでいよう。
そもそもクリスマスにいちいちなにかをしなくても本当はいいのだから今年ぐらいは大人しくしておくべきなのかもしれない。
というか、あの状態で一緒に過ごせていたら調子に乗っていただろうから神が止めてくれたのだと考えておこう。
「仲良くできているならそれが一番ですね」
「でも、あんたに対して動いた後にこれはちょっとね」
「関係ありませんよ、ちょっとご飯を食べてきますね」
前のマフラーみたいに物を買って渡そうと思っていたのだが……なんかそれも危険な行為に思えてきた。
とりあえずご飯を美味しく食べられるように考えるのはやめて、風呂に入っているときにごちゃごちゃ考えていたら二時間も経過してしまっていて父に迷惑をかけてしまった。
家まで送ってくれたとのことだったからその点はいいが……。
「なるほどな、好きな異性ができたなら仕方がないことだ」
「ああ」
「肇は紅羽の相手をしてやれ、そうすればお互いに楽になる」
「紅羽先輩は求めていないけどな、紬先輩と一緒にいたいという考えはあっても俺が相手だったら埋まらないだろ」
「誰かといれば必ず変わる」
仮にそうでも得するのは俺だけだ。
普段自分を守ることばかり考えている俺でもそれはちょっと……となるときもある、いまこのまま頼ったら都合が悪いときにだけすり寄ってくる人間みたいになってしまう。
「ありがとな」
「ああ、おやすみ」
それでも謝罪と感謝を伝えるために連絡をする。
意外にも長く続いて夜更かしをすることになってしまったが多少の眠気ぐらいはどうでもよかった、情けないことに先輩の前で転んだときはなにかが出てきそうになったが……。
「あんたこの前も転んだんでしょ? 心配になるわね」
「今日は眠たいだけです」
「膝を貸してあげようか?」
初対面のときは何回もからかうために来た人ではあるが、俺が傷ついてどうしようもなくなったときにはこうやって寄り添おうとしてくれた人だから違和感はない。
ただそういう形で甘えることが恥ずかしいので、
「それだと紅羽先輩の足が痛くなってしまうのでやめておきます」
と断っておいた。
単純に都合が悪いときだけ云々に引っかかるためでもあった。
紬先輩と過ごせなくなった、だから相手から言ってきてくれたとはいえ先輩に甘えますでは話にならない。
「いいからはい」
「まだ学校の時間ですから……」
「空き教室にでもいけばいいでしょ、いくわよー」
ここで無理に動いたら云々と必死に内で言い訳をして先輩の後ろを歩いていた。
空き教室に着くなり床に直接座ろうとするから慌てて上着を貸す、が、ここで素直に受け取ってくれないのが先輩という人で「早くきなさい」と座ってからぽんぽんと足を叩くだけだった。
突っ立って悩んでいるとぐいっと引っ張られて俺が動こうと動かなかろうと危ない状態に……。
「私はクリスマス、あんたと過ごすつもりだから」
「大丈夫なんですか?」
「あったりまえじゃない、直前になってやっぱり過ごせないなんて絶対に言わないから信じていいわ、破ったらもう二度とあんたの前に顔を出さない、どう?」
「い、いや、仮に破っても俺は……」
しまったと気づいてももう遅い。
何回も何回も二人が仲良くしてくれていればいいと本当のところの一割ぐらいは口にしないようにしていたのにやってしまった。
当然、
「なに? 一緒にいてほしいの?」
と先輩ならこういう答えになる、正に俺が回避したかった展開だった。
「肇?」
「あー……なるべく言わないようにしてきたんですけど、はい」
「なんでよ、言いなさいよ」
「だってそれで俺のことを優先し始めたら嫌じゃないですか、相手の時間を無駄にしてしまうんですよ?」
自意識過剰と笑われてもいい、俺が抑えることで無駄になるのは俺のなにかだからどうでもいいのだ。
「いやそこまであんたに影響力とかないから」
「そう……かもしれませんけど、心配だからとかって理由で来てもらうのも……」
「いやいや、確かにそういうのもあるかもしれないけど他の理由もあるでしょ、ただ単に一緒にいたいとかね」
「……紅羽先輩はそうですか?」
次から気をつけるしかないからこれを聞いて参考にさせてもらう。
まあ、こんな聞き方をしたらそんなことないよ系の答えを期待しているのと同じだから出てきた答えにあまり意味はないかもしれないが。
「一緒にいたくないならいないでしょ、足だって貸していないわよ」
「ならいいんですけど……」
「そもそも一緒にいたい的なことを言われたのはこれが初めてなのよ? つまり完全に私が自分の意思であんたのところにいっていたということじゃない」
最初のときに笑ってしまったことを気にしていて~なんて可能性もなくはないだろう。
意外と小さい頃にやらかしてしまったことなんかを思い出してうわっとなったりするものだ、先輩だって絶対に当てはまらないということもないだろうから普通にありえる。
「なんで来てくれるんですか?」
「前にもこんなことを話したわね」
「俺が色々とやられていたときも紅羽先輩はいてくれました」
「紬も、だけどね。ま、友達だから普通でしょ」
「ありがとうございます」
本当に本当に、それこそ神に誓って紬先輩と過ごせなくなったことで傷ついているなどではないがありがたい。
「やめなさい」
「いや、本当に感謝していますから」
「……つか、これについては特にないの?」
「紅羽先輩の顔がよく見えます」
この距離感でいることは普段ないから中々にレアだった。
だからそのまま顔を見ていると「み、見るなっ」と言われて困ってしまった。
自分からどうなのか聞いてきたのにいざ実際に答えたらこうなるのは中々に理不尽だ。
「無理ですよ――ぐはぇ!?」
「そっちを向いておけばいいのよ」
「……お、折れました……」
「意地悪をする人間の首なんて折れておけばいいのよ」
い、いや、グロテスクな絵面になるから折れない方がいいと思うが……。
その後は折られてしまわないように余計なことを言うのはやめておいたのだった。
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