第53話 0053 第九話05 謀士、賈詡



 李傕、郭汜かくし、張済、樊稠はんちゅうらは既に董卓は死に、呂布が接近してる事を知ると、飛熊軍を率いて一夜に涼州へと逃走した。

 郿塢びうに至った呂布は真っ先に貂蝉を保護した。

 皇甫嵩こうほすうは郿塢に囚われていた良家の子女を皆保護したのち、董卓の親族だけは老幼の別なく皆殺した。董卓の母もまた殺された。董卓の弟の董旻とうびん、甥の董璜とうこうも皆斬首される。

 郿塢の中に貯蔵されてい黄金数十万、数限りない綺羅、珠宝、器皿、糧食を没収し、王允おういんへと報告する。


 王允は兵を労い、都堂にて宴を設け、百官を招集し、酒宴で祝賀した。

 酒宴の中、突然の報告が。


「董卓を市で晒してますが、そこで一人伏して号泣する者が居ります!」


「逆賊董卓は誅されたのだっ!喜ばぬ者は居ない所を、それを嘆くは一体何者かっ!!捕らえよ!」


 王允は激怒し連行するよう命じる。


 すぐに引き出されると、衆官皆驚かぬ者は居なかった。誰あろうか、侍中の蔡邕さいようである。


「董卓は逆賊であり、今誅殺されたのだ!汝は何故漢の臣でありながら喜ばず、あろうことか慟哭するのかっ!」


 蔡邕は罪を認めて述べる。


「不才の身と言えど大義を知る私が、何故敢えて国を裏切り董卓にかしずきましょうか。ただ一時の知己を得た故に感じるものがあり、これが大罪であると知るため自然と泣いてしまったのでございます。天下の許しを得るため、墨を入れ足を切り落とし、漢の史書編纂を完成させ…この罪を償うのが私の願いで御座います」


 衆官は皆蔡邕の才を惜しみ擁護する。

 太傅たいふ馬日磾ばじつていもまた王允に密かに言う。


伯喈はくかい殿の才は広く知れ渡り、編纂を続ければそれは素晴らしいものとなるだろう。彼の孝は瞭然であり、もし殺さば…人望を失いますぞ」


「かつて武帝は司馬遷しばせんを殺さず、編纂を許したために毀誉褒貶の書が天下に広まり後世に伝わった。今国運衰微し朝政が乱れ、幼主の元で佞臣に筆を執らせるべきではない。我らもまた…その誹謗を受けかねぬ」


 王允の答えに馬日磾は無言で退き下がる。


「…王允の権は続かぬであろう。善なる者は国の規律、史書編纂は国の典…。それを破壊する者が、どうして長く続こうか」


 王允は馬日磾の忠告を聞かず、ただちに蔡邕を絞首刑に処した。

 それを聞いた者は皆、涙を流す。


 後世蔡邕の慟哭は董卓を思ってのものだと論じる者がいるがそれは真実ではない。

 王允が蔡邕を殺したのも、強硬に過ぎるものであった。


 董卓專權肆不仁、侍中何自竟亡身?

 當時諸葛隆中臥、安肯輕身事亂臣?



 陝西せんせいに逃走した李傕らは長安に上表して許しを求めた。


『董卓の跋扈は皆この四人の助けによる。今多くを赦しつつあるが、この四人だけは許すべきではない』


 王允の回答に李傕は言う。


「…許さぬそうだ。皆各々で逃げよう」


 そこに謀士の賈詡かくが献策する。


「もし貴方がたが軍を捨て、単独で逃げれば即座に亭長に捕縛されるでしょう。この兵馬に併せ陝西の者を集め、董卓殿の報復を唱え長安に雪崩れ込む…。朝廷を奉じて天下を正すのです。勝てずとも、それから逃げても決して遅くはないでしょう」

 

 李傕らはその策に従い、西涼で流言を放つ。


「王允は西方を殲滅せんとしているのだ!」


 住民は皆恐慌し、間者はまた言い放つ。


「このままでは無駄死にだ!一緒に戦わぬか?」


 そうして皆が従い兵は数十万となり、四軍に分かれ長安に向かう。

 道中で董卓の娘婿、中郎將の牛輔ぎゅうほも義父の仇討ちに五千の兵を率いて合流する。李傕は牛輔を先鋒とし、四軍が次々に前進する。





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用語解説


※綺羅(きら)

 上質な絹、美しい服。綺羅、星のごとく。決して綺羅星ではない(ドヤ顔


※都堂(とどう)

 公務を行う講堂。


※鯨首(げいしゅ)刖足(げつそく)

 前者は額に入れ墨を入れる刑罰。後者は足を切り落とす刑罰。


※東観漢記(とうかんかんき)

 蔡邕が編纂に携わっていた官選の歴史書。


※毀誉褒貶の書

 史記。前漢代に成立した司馬遷の著作。二十四史の一。後世の歴史書

 の多くは史記を目指し、手本とし、編纂された。今に至るまで史書と

 して原初にして最高の評価がなされている。王允ェ…。


賈詡かく 文和ぶんわ

 作者の推しである。初っ端から軍師ではなく謀士として紹介されてい

 る所にニヤリとさせられる。


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