第52話 0052 第九話04 董卓暗殺



 董卓は車に乗り込みその前後を連ねて長安へと向かった。


 三十里も行かぬうち、車の車輪が折れたため、董卓は馬に乗る。


 それより十里行かぬうち、馬が唸り嘶き手綱が引きちぎれる。


「車輪が折れ、手綱が切れたのは、何の兆候ですか?」


 董卓の問いに李粛りしゅくが答える。


「これすなわち太師が漢の禅譲を受け、古きを新たにする玉輦金鞍ぎょくれんきんあんの兆しで御座いましょう」


 董卓はその言葉に喜ぶ。


 次の日の道中、突然強風が巻き起こり濃霧が空を覆う。


「これは、何の吉祥ですか?」


「董卓様が龍の玉座に昇られるため、幸運の前兆として天威を示しているのでしょう」


 董卓はやはり喜び疑わない。


 程なく長安城外に至り、百官が出て迎える。ただ李儒りじゅのみ、体調を崩し出迎える事が出来なかった。

 呂布が謁見し、祝賀を述べる。


「私が九五の尊へと昇れば、貴方は天下兵馬を束ねる総督となるでしょう!!」


 呂布は拝謝する。

 そうして董卓らは帳幕で宿営した。


 その夜、都の郊外で数十人の子供が作歌し、風に吹かれて帳幕に聞こえてくる。



「千里草、何青青!十日上、不得生!」


「千里草、何青青!十日上、不得生!」



 その悲しき歌声に董卓は李粛に尋ねる。


「この童謡は、何の吉兆ですか?」


「…この歌は劉氏が滅び、董氏が興るとの意味で御座います」



 翌日早朝、董卓が宮廷へ向かうと両端に「口」と書かれた布を巻き付けた竹竿を持った、青袍白巾の道士が現れ車の前に立ち塞がる。


「この道士は、何ですか?」


「この人はな人でしょう」


 ちょっとアレ。

 李粛の答えに董卓は兵士を呼び男を追い払った。


 董卓が宮廷に入れば群臣皆朝服に身を包んで出迎え、道々に拝謁する。

 李粛は宝剣を手に車を先導する。

 北門に到着して軍兵は皆門外で待機し、董卓の御車のみ二十人程で入った。


 董卓は遠目に王允らが剣を手に殿門の前に立つのを見る。


「何故、剣を持ってるんですか!?」


 李粛は答えず車を直進させる。

 王允が大声で叫ぶ。


「賊はここである!さあ、出でよ!」


 王允の号令により左右より現れた百人以上の衛兵が戟槊で以て刺しかかる。


 董卓は鎧を着込んでたため致命傷に至らぬが腕を負傷し車から転げ落ち叫ぶ。


「奉先っ!我が子…奉先は、どこですかぁっ!!」


 車の後方より呂布が飛び出でる。


「こ~の逆賊めぇっ!天子の勅令だぁ!」


「ほっ奉せっ…」


 呂布の戟が董卓のその喉を突き刺し、李粛が首を剣で切り落とした。南無。

 呂布は左に戟を、右手で詔を、懐より出し叫ぶ。


「勅命により逆賊董卓を討ち果たしたゾぉっ!」


 兵と百官の万歳が響き渡った。



 伯業成時為帝不、不成且作富家郎。

 誰知天意無私麯、郿塢方成已滅亡。



「逆賊を支えてたのは李儒だ!捕まえろぉ!」


 李粛が呂布の言葉に応え、李儒の元へと向かうも突然、朝門外で叫び声が。李家の家人が李儒を拘束し連れてきたのだ。


 王允は市曹に連行して斬り、首を晒すよう命じた。

 さらに董卓の遺体もまた大通りに持っていくよう命じる。

 董卓の体は肥満体で、兵士が臍に芯を通し火を付けると燃え続け、その油が地に垂れ流れて満ちた。



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用語解説


※玉輦(ぎょくれん)

 皇帝が乗る車。


※九五の尊(きゅうごのそん)

 天子の尊称。易で九を陽数、五を君主とするところから。


※「千里草,何青青!十日上,不得生!」

  千と里と草とで「董」、上と日と十で「卓」を表す。


※青袍白巾、手執長竿、上縳布一丈、兩頭各書一「口」字

 呂布の意。青袍は緑の漢服。青くない。碧眼は青。しかし緑でもイイ

 じゃない。


※殿門(でんもん)

 宮殿・御所の正門。天門とも。宮殿内の門は幾重にもある。宮殿以外

 の一般的な城塞でも入口の門は防衛のため二重となってる場合が多

 く、これを甕城おうじょうという。


※呂布の戟がその喉を突き刺し、李粛が首を剣で切り落とした。

 同郷の親友同士による美しいコラボである。彼らの友誼はきっと永遠

 であるに違いない。


※市曹(しそう)

 街で最も商業が発達してる場所、街の中心。現代で言う駅前。ここで

 よく公開処刑が行われた。


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