第51話 0051 第九話03 暗殺計画



 王允はすぐに僕射の士孫瑞しそんずい、司隸校尉の黄琬こうえんと商議する。


 「最近病に臥せておられた陛下が回復されましたので、董卓に参内するよう郿塢びうに使いを送りましょう。一方で天子の密詔を呂布に送って兵士と共に朝門の中に配置し、董卓を誘い込み誅するが上策かと」


 士孫瑞の策に黄琬が尋ねる。


「董卓は来るだろうか?」


「呂布と同郷の騎都尉の李粛りしゅくは董卓の論功に不満を持っている。李粛が行けば、董卓は疑わないだろう」


「…うむ」


 王允が頷き、呂布を呼び協議する。


「アイツぁ昔俺に丁原をぶっ殺すよう唆したヤツだ!もし行かねば、俺がアイツを先にぶっ殺す!」


 密かに使いを遣り李粛が呼ぶと呂布が言う。


「昔オラに丁原ぶっ殺して董卓に仕えるよう唆しただろ?今董卓は天使を欺き下々を虐げ、罪悪が満ち天地に恨まれている。オメェが郿塢に行って天子の詔で董卓を参内させ伏兵で誅滅すればオメェは天下の忠臣だ!」


「…私も長い事あの賊を討ちたいと思っていたが、同士がおらず困っていた所だ。君からの申し出はまさに天からの扶け。この李粛、二心を抱く事は無い」


 厳粛に誓いを立てる李粛に王允が告げる。


「もし事が成せれば、もはや栄達に思い煩う事は御座いません」



 次の日、李粛は騎馬数十を率いて郿塢に到着する。

 天子の詔勅だと伝えると董卓は迎え入れ、李粛が拝する。


「何の詔勅ですか?」


「陛下のご病気が快癒なされました。未央殿にて百官を招き、董太師に禅譲ぜんじょうなさるとのことです」


「…王允はなんと仰られてますか?」


「王司徒は既に受禅台じゅぜんだいを設けられ、あとは董太師の到着を待つだけです」


 董卓は大変に喜び、


「昨晩私は、龍が我が身を覆う夢を見ました。そして今、この喜ばしい知らせが来ました。この好機を逃してはなりません!」


 董卓は腹心である李傕りかく郭汜かくし張済ちょうさい樊稠はんちゅうの四人ら飛熊軍三千に郿塢の守備を命じ、すぐに長安へと向かおうとする。


「私は帝になります。貴方は、執金吾になります!」


 董卓の言葉に李粛は拝謝する。


 出発前、董卓は齢九十の母に会う。


「どこん行くとね?」


「漢の禅譲を受けてきます、母上は、太后となります!」


「…なんか胸騒ぎがするとよ。これは悪い兆しじゃなかね…?」


「貴方は国母、それは吉兆でしょう。何故、吉兆を恐れる事がありますか!」


 そうして母と別れ、貂蝉に会う。


「私は天子、貴方は皇后となりますっ!!」


 貂蝉は既に計画を把握しており、偽り喜び拝謝して董卓を見送った。





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用語解説


※僕射(ぼくや)

 官庁の次官。中国でも古くから夜(ヤ)と同じ音で読むのが慣用だった

 らしい。


※未央殿(びおうでん)

 前漢の劉邦が築いた宮殿。未央宮。史実では後漢時代には既に焼失し

 ている。


※禅譲(ぜんじょう)

 天子が世襲せず有徳者に皇帝の位を譲ること。基本的に全ての禅譲は

 実質的な簒奪さんだつ(皇帝位・国家を奪い取ること)である。


※受禅台(じゅぜんだい)

 禅譲・退位の儀式を行うための高台。


※飛熊軍(ひゆうぐん)

 董卓配下の西涼出身武将による精鋭部隊。


※折箭(セツセン)

 厳粛に誓いを立てる。破れば矢のような運命となる、の意。危うく

 「矢を折って誓いを立てる」と誤訳する所だった。


※金吾(きんご・しつきんご)

 執金吾。都の巡察官。かつての中尉。元は不幸を寄せ付けない霊鳥の

 名で、この鳥を象った儀仗棒で先導を執る者を執金吾と呼び、前104年

 に中尉より改称したと言う。天子の傍に侍るその儀仗兵の華麗さに、

 かの光武帝も憧れたという。本邦の宮門守衛・衛門府の唐名も金吾で

 ある。誤訳が怖くなって妙に深く調べまくっちゃったよ。今日からボク

 の事を金吾マスターと呼んで欲しい。


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