"The missions to expel GAHHA" episode4 part7
『さて、未だ避難解除がなされない中での多数のご来店〜、まことに恐悦至極でございますぅ。お集まりいただいたみなさまには〜、ぜひ、この機会にお勧めしたい一品など、ございましてぇ――』
「なめてんのか、てめ」
いったんは若美を唖然と眺めていた一同だったが、バカバカしいほどの慇懃な演出ぶりで自分たちをおちょくっていると思ったのか、じきにスーツ姿の何人かが野次を飛ばし出した。
『まさに今この時のために取り寄せたばかりの、最高の商品! まずご覧頂きたいのはぁ』
「こちとらショッピングに来たんじゃねえぞっ」
「売り子は引っこんでろ!」
冗長な話しぶりが鼻についたのだろう、市の防対本部やガーディアンQの面々からも声が上がりだす。が、若美の次の一言で空気は一変した。
『そちらの現場で回収したばかりの、奇構獣の右手の一部分』
「なんだって?」
覚元のコクピットで、仁は思わず前のめりになって、正面口前の「左反田」店長を凝視した。明日輪若美とは面識もある。たまにいる、エキセントリックを気取っているありきたりな独身女性。そう思っていた。今回も、せいぜいギャグ混じりにケンカの仲裁をして、迷惑な客を追い払うだけかと思っていたのだが――
水を打ったように静まりかえった駐車場に、若美の景気のいい声はなおも続く。
『そこに、こちらの商品を注ぎますとぉ』
若美の目の前の長テーブルには、奇構獣の右手と称する、動物の遺骸の一部みたいな、ひとかかえぐらいの塊が置いてあった。その上に、大きな鍋からドロっとしたものが垂らされる。半透明の、ちょっと見には寒天のような流動物だ。
と、たちまち塊は目に見えて変質し、劣化してボロボロになった。
『この通り! 頑強な構造も人の手で壊せるほどに!』
そう言ってがつんと拳を打ち付ける。元怪獣の一部分は、粉砕こそされなかったが、粘土細工のように大きく歪み、どうにかすれば手で引き裂けそうに見えた。
「そ、そ、それはまさか!」
突然、市防の4Lサイズ女性が叫んだ。テーブルの真ん前のかぶりつきみたいな位置で、目を大きく見開いてつばを飛ばしている。
「あ、あんた! やっぱりこのスーパーって、新手の防衛部隊の根城――」
『んなわけねーだろ』
即座に若美が否定した。伝法な口調に切り替え、半閉じの目でばっさり斬り捨てる。
『これはごく普通のスーパーの商品だよ。今日もうちで特売やってた、どこにでもあるモン』
「い、いったいそれは」
引き攣った声で問いかける県防の小男に、若美はにやりと笑いかけてから、あっさり即答した。
『ジャコのトロミづけ』
「じゃこ?」
『生シラス。チリメンジャコの加工前の小魚って言えば分かるか?』
いきなり駐車場の沈黙の濃度が高くなった。三秒経ち、五秒が過ぎる。リアクションはほぼ全員同時だった。
「「「「はあああああぁぁぁぁぁっ!?」」」」
たちまち堰を切ったように反論する役人達。
「そんなバカな! なんで魚なんかで奇構獣が」
『でも実際に崩れ落ちたんだから、仕方ないだろ?』
「インチキだろう! またそんなマガイモノ買わせようったって」
『そう? まあ、また奇構獣と不毛な力比べしたいんなら、無理には勧めないけど?』
「いやいや、ちょっと待ってくれ。ちゃんと聞かせてくれ!」
若美の目の前に自治省の老人がやってきて、手を振り回した。騒ぎが少し収まり、サシでの対話を全員で見物する形になる。
「そもそもなんであんたはその……ジャコ? で怪獣を倒せるということを――」
『うちの鷹東司がさっきイヤーンIV型にぶっかけたのは、店の裏に置いてあったジャコの見切り品だ』
絶句した老人へ、若美がさらに畳み掛ける。
『店内監視モニターの記録で確認できた。間違いない』
監視モニター、と聞いて、役人達が決まり悪そうな渋面を見交わした。スーパーの建物全体で家探しみたいなことをして、そんなありきたりな記録の調査すら考え及ばなかったということだ。しょせんは自治体の事務方が急ごしらえで派遣した情報部である。自らの不明に一瞬色を失った老人は、なおも、
「そ、それは……しかし、だったらなぜ、その、鷹東司……さん、は、そんなものをぶっかけようなどいう考えを」
『ネットで調べたんじゃないか? 「奇構獣の倒し方」「イヤーンIV改造型」、これで検索してみろ』
思い切り投げやりな解答に、たちまち吹き上がる怒号の嵐。
「なんだ、その答え方わぁ!?」
「そこでごまかしたつもりか!?」
「マジメに――」
『だまされたと思って検索してみな!』
やけに真面目な顔で言い切られて、再び人々が沈黙する。マイクの大音量に押し切られたというのもあるが、それ以上に若美の声は堂々としすぎていた。一同は、半信半疑――いや、猜疑心いっぱいで、それでも手元のスマホに指を走らせ、
その結果。
「「「「あったあぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」
全員が同じページに行き着いて、大騒ぎになってしまったのである。
「そんなバカな!? 何の陰謀だ、これは!?」
「信じられないっ、信じられない!」
「嘘だ、デタラメだぁぁっ」
すべての謎に説明がついたというのに、人々はこの世の終わりのように脱力し、悶絶していた。あまりの非現実性に精神がついていかなかったようだ。
「嘘……だろ……」
覚元コクピットの仁も同様だった。シートに腰掛けてなかったら、膝から崩れ落ちていたかも知れない。
「いや、これ……あ、あんたは、なんでこんな情報を」
県監査部の小男がやっとのことで若美に問いかける。今や冗談のような大混乱の支配者となった「左反田」店長は、どこまでもしれっとした顔で、
『あたしが見つけたわけじゃない。だけど、うちの副店長が飛び出して行った後にバックヤードにあったパソコン見たら、このページが出てた。まあうちの鷹東司はちょっとおかしいんでね。怪獣が近づく音でパニックして、たまたま検索したトンデモ情報真に受けたら、その話が大当たりだったってだけじゃないか?』
「そ、そんな……バカな話が……」
スーパー正面でのやり取りを遠目に見ながら、仁は改めてその情報ページを調べた。どうもGAHHA関係の誰かの技術レポートがたまたま表に出たような体裁だが、文章は平易で中学生でも理解できそうだ。
敵からの流出情報? 日本語の? しかもあからさま過ぎるキーワードでヒットできる形でネットに上がってて? で、それをリノがとっさの検索で探し当てた……。
あり得ない。普通なら胡散臭さ全開のあり得ない話だ。だが。
(鷹東司なら、あり得る)
学生時代からその手の逸話を山ほど残しているのが、リノという人間であった。
戦慄にも近い思いを噛み締めつつ、キューボウの上のリノを目で探した。状況をずっと見物している、ついさっきまで騒ぎの中心人物だった彼女は、しかし見たところただぼーっとした顔で、若美の言葉のどこまでが事実なのか、わかりかねた。
「よっし、話はぁ分かった」
不意にでかい声を上げたのは、市防の事業本部長だった。
奇構獣が迫ってるという危機の中をキューボウの操縦席でやきもきしていた大慈は、ようやく肩の力を抜いて、「よし」と拳を握りしめた。やっぱりうちの本部長こそが漢だ。何が大事で何がそうでないか、冷静に判断できる、本物のボスだ……。
(それにしても、いったい上の奴ら、何に悶絶してたんだか。リノ先輩が投げつけてたのがジャコだったって、そんなに変なことか?)
こちらはこちらでズレた疑問に首を傾げる大慈である。本部長は若美に一歩近寄ると、
「納得しかねる所は依然残るが……一応筋は通る。とにかく、そこの鍋の中身を奇構獣にぶっかけりゃ、さっきのアレみたいにボディを分解できるって話なんだな?」
『同型の奇構獣なら、そうなるはずでございます』
再度商売人の顔に戻って、にっこり応える若美。
「で、今接近中のやつって、またイヤーンIVの改造型なのか?」
すかさず周囲へ飛ばした質問に、近くにいた自治省の職員が明解に答えた。
「外見から判断する限りは、そのようだと」
「そいつぁ、大変結構」
落ち着いた声で、うんうんと頷き、無造作に片手を横に振って、
「じゃ、その寒天みてぇなの、必要な材料一式まとめて――」
『一から作っている時間はないのでは? こちら、トロミづけジャコを六リットルガラス瓶に詰めて用意してございます。投弾用のカートリッジとして、そのままお使いいただけますが?』
「ほう……」
本部長の目が、戦闘装備を評価する専門家のそれになった。
「いくつある? 接近中の奇構獣は五体……予備を含めて六発はほしいな」
『こちらに六瓶、すぐにでもお持ち帰り出来ます』
「これはこれは。準備がいいじゃねぇか」
すっかり機嫌を良くして、新商品へ手を伸ばす。
「では、そのテーブルの上の品物、全部まとめて」
「いやいや本部長さん、ちょっと待ってくんねえかな」
「客はあんた一人だけじゃないぞ」
「そもそも事業本部に消耗品以外の購入権限はない、違いましたかしら?」
待ったをかけるように背後から現れたのは、自治省の老人と県庁の小男とQ市庁舎の4L女性。嫌そうに振り返った本部長へ、何とか立ち直った様子で三人それぞれ勝手な理屈を並べ始める。
「これだけの強力な兵器、取引は専門家に任せてもらおう」
「だったらさっさと買って現場に寄こせよ」
「もっともだが、その前に六本の内訳をどこがいくつにするかという問題だな」
「って言うか、いくらなの、この瓶詰めのジャコとろみ?」
「あの連中、またっ」
十数メートル先の会話に舌打ちした大慈が、ふと、視線を落とすと、フロントパネル上に座り込んだままのリノが、ほのかに安心したように微笑んでいる。気配に気づいたリノが大慈をちらりと見上げると、
「ああ、いえ、やっと普通になったなあって」
「普通?」
「ええ、いつもどおりっていうか。日頃仲良くケンカしてる、いつもの空気だなって」
そんなお気楽な関係じゃありませんよ、と言い返しかけて、大慈は言葉を呑み込んだ。少なくとも、もうリノの身に危険はない。たぶんそのことを肌で感じて、こんな言い方をしているんだろうなと。まあ、いいことだ。店長がゲスどもをやり込めてる時は、なんだかいつになく魂を飛ばしてるような佇まいだったけれど、もう大丈夫か?
「あの、パイロットさん?」
「はい?」
「その、ありがとうございました。今日は、本当に」
「え、いや、そんな」
急に耳の根本が熱くなった気がして、大慈は目を伏せた。にしても、なんでリノ先輩はこんなに他人行儀なんだ? ああそうか、ここ来た時に、マスコミ対策でヘルメットつけてたんだっけ。これじゃ分かんねえよな。
「ええと、店長さん? 結局このジャコ瓶のお値段って」
『はい、ご購入ですね?』
最後の商談がまとまりそうな上層部連中のやり取りを横目に見ながら、大慈は急に格好をつけたくなった。もうこの後は怪獣ぶっ倒すまで筋書き決まったようなもんだし、最後ぐらい、いいよな?
「気にしないでください。俺もこの店、好きなんです」
そう、その言葉に嘘はない。人々の暮らしを続けるための場所。日常が日常となるための空間。何よりも、この人が働く場所だから……なんて気障なフレーズを頭に浮かべながら、お気楽な算段まで始めてしまう。これで、ちょっといい雰囲気作っておれば、この後の戦闘もいい気分で――
『申し遅れました。こちらの新製品、ジャコとろみカートリッジのお値段につきましては』
「え、そうだったんですか? パイロットさんも、この店、よく来られるんです?」
「当然ですよ。俺は」
今もここであなたと一緒に働いてるんですから、とヘルメットを取ろうとした、その時。横合いからの若美のひときわ上機嫌な声が、大慈の鼓膜を直撃した。
『一瓶百万円からのオークションとなります』
一拍遅れて、リノと大慈が同時に首を振り向けた。
「「は?」」
今度の沈黙は長かった。
たっぷり二十秒が経過してから、4Lサイズ女性が、よく聞こえなかったという体で尋ね直した。
「ええと、その瓶入りのジャコのとろみなんだけど」
『はい』
「おいくら?」
『百万円からのオークションで。六瓶だと六百万が初値になります』
「中身、ジャコ……よね?」
『はい』
県タロスのキャノピー越しに駐車場を見回しつつ、げっそりした気分で環那はカウントを取っていた。そろそろ来るな。三、二、一。
「「「「なんだとおおぉぉぉぉぉ!」」」」
野獣の咆哮のようなうめき声が上がり、当然のごとく若美へ嵐のような抗議が投げつけられる。
「バカ言ってんじゃねーっ」
「暴利だ!」
「悪徳商人めぇ!」
『おおおーっと、これは爆弾発言です! 「左反田」の明日輪店長、いきなり悪魔のビジネスモードに突入! これはこれはこれはっ! 不意打ちのお買い物イベントで丸く治めるのかと思いきや、市民の安全を盾に、各防衛軍へ大枚ふっかけるとは!』
そして、騒いでいるのは役人たちばかりではなかった。関本が流しっぱなしにしているスマホからは、例のリポーター達がテレビと変わらないクオリティで低レベルさ全開の実況中継を続けていた。CMが入らない分、ドギツさが数割増しになっている感じだ。
フォロワーが爆増して懐具合がよくなったのだろうか、応援のスタッフが何人も駆けつけているらしく、駐車場のあちこちの模様がリポーターの元に送られていた。おかげで県タロスの位置からはちょっと聞きづらい正面口前でのやり取りも、クリアに流れてくる。
『い、今から競りを始める気かっ? この、市民の安全がかかわる一大事に!?』
県防監察部の小男が叫んだ。対する若美は、まっくろけな笑いを満面に浮かべて、
『おやおやぁ、ここはスーパーマーケット、お買い物のための場所ですがぁ?』
『だ、だがっ!』
『ご冗談でしょう。インターセプターの制作に参加してる企業、みんなボランティアですかあ? そんなはずないですよねー? 何だって製作費はかかるでしょお? 爆弾一発でも、ミサイル一本でもねえ?』
ろくに反論できない公務員達へ、なおも独り言のように、
『そう言えば、ミサイルって一発一千万ぐらいするんでしたっけ? 今日なんかも覚元とか、いっぱい砲弾撃ってましたよねぇ。あれ、いくらしたんでしょうねぇ?』
いやらしい口調で人々を見回す「左反田」店長。自治省の老人が、引きつった笑みを浮かべると、やや苦しげに反論を試みた。
『そ、そういうことなら、別にこの店で買わなけりゃいいだけの話。どこの店でも売ってるもんだよな? ひとっ走り回って――』
『避難指示が出て、すっかり無人の店が大半なのに? さては押し入り強盗して回るおつもりでぇ?』
老人が若美を見る目には、すでに殺意がこもっていた。
『盗んで回るとしても、時間ありますぅ? この町、最近は店舗の数も減りましたしねぇ〜。あと、意外と生ジャコって、そうたくさんは入荷してないもんですよ、どこも』
『くっ、何もかも計算ずくというわけかっ!』
『そりゃ、こっちもこれで生活つないでるんでね』
キツい真顔で見据えてから、妙に色気のある笑顔になって平然とうそぶいた。
『その分、中身は保証いたしますよぉ。百万の価値はある戦術兵器だと思いますがぁ?』
と、老人の後列から、苦い顔の官僚が手を振り回しながら叫んだ。
『き、君! 気楽に言ってくれるが、そもそもこの場で即金の契約なんて、簡単には――』
『そうですかぁ? まあ無理にとはもちろん申しませんけどぉ。いーんですかねー、奇構獣を大量撃破する大手柄の大チャンスを棒に振って、逆に市内全域蹂躙させるってのは』
つくづく、商人のクズを地で行くような悪どさである。が、画面を見ていた関本は感服した声で、
「いやー、見直したわ店長。この人、ここまでやるんだ。ほんと、カネの亡者の
にこやかに上司を礼賛する始末。ただちに環那が歯をむき出しにしてツッコんだ。
「誉めるところじゃないでしょう! いい加減にしてくださいよ! 奇構獣、もう市街地にまで――」
「そこはまだ余裕あるでしょ? さっきの戦闘だって、環那ちゃんなんかだいぶんゆっくりしてたみたいだけど?」
「あ、あれは、なかなか撮影でOKが出なくて……」
「撮影?」
「いえ、なんでもないです。とにかく、市民に被害が出てからじゃ遅いんですから」
「そこは考えてるでしょ。これ以上ムダな時間は作らないはずよ。被害を未然に防いでこその商品価値なんだし」
そう関本が言うやいなや、画面から続報が入る。
『あ、今明日輪店長がコメントを出しました。オークションは午後六時に開始! あと十分少々ぐらい? あまり時間がないようにも聞こえますが、お客に考える時間を与えないまま自分のペースに巻き込むということでしょうか。いかがでしょう、スタジオの屋楽瀬さん?』
『はい、スタジオのヤラセです。それはもちろん大きな理由でしょうが、それ以上に世間体を気にしたというのもあるでしょうね』
『世間体、と申しますと?』
『ゴネすぎたあげく先に怪獣が暴れだしたら、どう見ても「左反田」に非がありますから。ああ見えて、しっかり計算してますよ、あの店長は』
『なるほど! 悪人ぶってはいても中身は純真な、ツンデレ商売人というわけですね!』
「そういうのツンデレって言わないのよ! あと、純真なんかじゃないから!」
小さな液晶画面に毒づいてから、環那はなおも愚痴るように関本へ、
「計算してるって言いますけど、インターセプターってあんまり速くないんです。戦闘区域に移動するのにも時間かかるんですっ。さっさと決めてくれないと」
「あー、そうねー。その問題があるか。でも、だったらいっそのこと……」
言いかけた関本が、環那の目を見て、少し言い淀んだ。珍しいパターンに、ん? と環那が首を傾げていると、中継音声の中に、二人にとって耳馴染んだ人間の声が混ざり込んできて、つい二人ともそちらへ視線を向ける。
『ですから、市立でも県でも国でも、防衛機関っつーたらやるこたぁ一つでしょう? 予算がすぐに下りないとか、そんなのただの決まりごとじゃないですか。決まりごとで守るもの守らないんじゃ、ホンマツテントウじゃないっすか!』
大慈の声だ。ン百万円の兵器を現金で今すぐ買い取れという若美のご無体に、役人達は手続きを盾にして今なお難色を示し続けている。どちらもどちらという状況だが、結果的に市民の安全がスルーされているわけで、最前線のパイロットとしてはひとこと言わずにいられなかったようだ。というより、リポーターの方でその種の分かりやすい声を探してきたと言うべきか。
「またこいつは……すーぐこーゆーところで利用されるんだから」
しかめ面で画面の元同級生を見る環那。何に苛ついていたのか、大慈はさらに熱っぽい口調で、
『店長の言い値が高いのかどうかはわかんねっす。でも、役所の上の人間が金を出せないって言うんなら、もうこの際、誰でもいいから出してほしいっす。あとで当局に請求すればいいんっすよ。ええ、俺だって現ナマがあるんなら、自分で買って自分で使うところっすよ』
なぜだかその瞬間、画面の中だけでなく、「左反田」駐車場全体が静まり返ったように、環那には思われた。ふと見ると、関本が「あらー」という顔で大慈を見ている。
(あれ?……ちょっと待って。今のって)
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