"The missions to expel GAHHA" episode4 Part4
『あ、ようやく覚元が到着した模様です! さあ、三者揃い踏み! 対する奇構獣、情報では「イヤーンIV改」との制式名称だそうですが、三機の邀撃機を相手にしても、全く動じる気配がありません! これはちょっとどっちが勝つのか、全く予想がつかない! なかなか楽しみな展開に……失礼、いよいよ緊迫した事態になってまいりました現場実況、ひとまずCM入ります!』
「あら、また? 一回あたり、十分も続かないじゃない」
「仕方ないのよ。長い中継にすると、アメリカから苦情が来るんだって。放映契約がどうとか」
「アメリカってGAHHAのことでしょ? なにそれ、攻めて来てる本人がいちゃもんつけてんの?」
「ああ、それね。あの怪獣ってね、GAHHAの管理下にはないって話なの。元社員のクレイジーな人たちが、勝手に試作品持ち出して不始末をしでかしてるって設定なんですって」
臨時閉店した「左反田」の店内で、惣菜を作りながらパートのおばちゃんたちが世間話に興じている。バックヤードではなく、惣菜コーナーの通路にでんとテーブルを置いての作業である。客がいない以上、調理機械や卓を動かしてやりやすいレイアウトにする方が効率がいいからだ。なんと言っても、売り場の方が照明が明るくて気分が乗る。リノが何も口出ししないのをいいことに、おばちゃん達は休憩所のテレビまでケーブルを延ばし、見切り品ワゴンの端にのっけて大音量で鳴らしていた。
「不始末って……だったら日本の放送の中身に文句言う筋合いなんか」
「モノ自体は一応GAHHAの資産だから、肖像権……? 商標権? 著作権?だかはあるって」
「おかしいでしょ」
「でもそういう理屈で日本の放送局も文句言えないままサインしちゃったんだから、ね」
ネタ提供役のおばちゃんAに、訳知り顔のおばちゃんBが混ぜっ返し、さらに私知ってるのよ自慢なおばちゃんCが早口で〝裏情報〟を披露するパターンで、よもやま話は際限なく続いていく。同時に、おばちゃんたちの手元からは次々と新しいパッケージが出来上がっていった。
従業員にはリノの口から帰宅許可を出してあるのだが、どこでも危険度は同じだし、下手に空き家が散在する住宅地に戻るより、はっきりスーパーと分かる建物にいれば、過去の襲撃例から見る限りより安全だろうということで、何人かの古株が惣菜づくりに精を出していた。それに、もし警報が早くに解除されたら、今度は逆に買い物客が殺到してくる可能性だってあるのだ。備えを万全にしておくにしくはない。
「って言うか、このCMなに? もしかしてGAHHAの関係会社ばっか宣伝してない?」
「あら、今気がついたの? 前からじゃない。常識よ」
報道時間枠と同じぐらい続いているコマーシャルタイムは、やたら外資系が多かった。清新なイメージCMで隅の方にちらっとだけキャッチが出ている保険会社の名前を見て、おばちゃんCが目を輝かせた。
「知ってる? ここのグール保険って、奇構獣専門の災害保険やってるって。で、その中に表に出ないオプションがあるの。GAHHAと裏で話つけて、その家とか会社が怪獣にやられないよう取引してくれるって条件の」
「何それ。都市伝説?」
「でもそれホントっぽい。この前のZ市なんか、結構露骨だったんじゃない?」
二ヶ月前に襲撃を受けたZ市では、奇構獣が無造作に街を縦断したように見えて、全壊した家屋とそうでない建物で異様にくっきりと差がつけられていた。明らかに奇構獣は壊すべき物件を選別していたのではないか、との指摘がなされ、じきにグール保険系列の黒い営業活動がクローズアップされた。襲撃前の数週間、やたら「家屋全損保証」加入への営業活動が活発だった、というのだ。
この話の恐ろしいところは、それ以降、いかなるメディアにも続報が載らないままなことである。ガセだった、とも、調査中、とも誰も言わない。時々「ついに真実を確認!」との独立系記事が現れては、すぐに消滅、を繰り返す以外は。
「そういえば怪獣のせいで更地になったL市、今度ママゾンが来るんだって?」
続くテレビ画面は長尺のCMで、「〝小麦粉から戦略ミサイルまで〟なんでもお届け」の超弩級ネット通販会社ママゾンの、短編映画みたいなテレビムービーである。
「そうみたいね。でっかい流通倉庫が建つって聞いたけど」
「よかったじゃない。Lみたいな田舎が出世できて」
「でもここまで厚い面の皮でいられるのもね」
「みんな喜んでるんだからいいんじゃない?」
L市は沿岸地域にありながら没落の激しい古い産業都市で、ほとんど廃屋のような工場群をどうにもできずにくすぶるばかりの残念な地方都市だった。それが、いきなり強制的なリニューアルに遭って、急成長が見込める注目株へ一気に躍り出ることになってしまった。
むろん、話が出来すぎだ、との噂は絶えず、市当局とGAHHAとの裏取引の可能性さえ公然と囁かれたが、公費で整地を済ませたその場所へ、当然のようにママゾンが一等地を確保したとのニュースで、闇の陰謀をさんざん深読みしていたジャーナリストたちは、ただただ呆然としているという。言うまでもなく、ママゾンはGAHHAグループの筆頭企業である。
「もうこういうご時世になったら、何が正義かなんてどうでもいいし。ね、マネージャー?」
「えっ、は、はいっ、そうですねっ」
急に話を振られて、黙々とジャコパスタを大鍋の中でかき混ぜていたリノは、慌てて声を上げた。のみならず、はずみで大型フォークを売り場の壁付近にまでふっとばしてしまう。
「あわわわわわわっ、すみませんっ、すみませんっ」
「何慌ててんの、リノちゃん? 悩みごと?」
「いやっ、そのっ、難しいことは何も! な、悩みなんてないしっ……べ、別に手形のこととか、か、考えてませんから!」
みな一様に口をつぐんでリノを見た。一瞬明るい顔で笑みを作ったリノは二、三秒後に気づいて「あ……」とフリーズする。おばちゃん達はため息を隠そうともしないで、大人の中に混じった小学生に接するように、柔らかみと諦めがないまぜになった声で言った。
「無理に慣れない仕事しなくていいよ」
「もうここはいいから、今のうちに日例の在庫確認、やってきたら?」
「そうそう」
「え、でも……」
渋るリノに、それまで黙っていた青果部チーフの関本が口を開いた。
「なんなら在庫のついでにレイアウト変更とかサーモのメンテナンスとか、まとめてやったらいいじゃないですか」
男性だったら「おやっさん」とか呼ばれそうな熟練の風格を感じさせつつ、落ち着いた中に有無を言わせない圧が、声の中にこめられていた。
「マネージャー権限だったらそういうことできるし。時間と手間も省けるでしょ?」
小柄で小太りのおっとりした佇まいで、一見ふわっとしたメガネの中年女性でありながら、セリフの端々に切れ者の管理職然とした鋭さがある。副店長として、暗い顔で鍋をかき混ぜるより、やることは他にあるだろうと暗に指摘しているのだ。この人が目の前に立つと、つくづくリノは、自分は未だに〝マネージャー見習い〟なんだなあということを思い知らされる。
「……そうですね。では、お言葉に甘えて、ここはみなさん、お願いします」
リノがそう言って立ち上がると、少しだけ沈黙があって、母親が娘を諭す口調で関本が付け加えた。
「手形のことは心配しなくていいから」
「……はい」
「店長も他の役員もいるんだから。あなたは上の人を信じて、ただ言う通りにすればいい。自分で何もかも考えてしまおうと思わないで……。明日にでも話し合いましょう。それまで、深刻にならないで、ね?」
「って言うか、怪獣がこの店踏み潰すかも知れないんだし、そんな心配しなくていいかもよ?」
おばちゃんCが言って、関本が笑い、リノもおばちゃん達も笑った。少しだけ落ち着きを取り戻して、リノは一礼した。
一旦バックヤードに入る。つかつかと誰の視線も届かない事務スペースにたどり着くと、パソコンデスクの前に座り込んで、リノは肩で大きくため息をついた。
またやってしまった。あれこれ考えをめぐらせているうち、頭がネガティブな方にばかり行って、あげくに素をさらけ出しておばちゃん達からペーペー扱いされてしまうのだ。
自分がムダに小者っぽさを醸し出していることは分かってる。だからそのことはいい。が、関本が触れていた手形の問題は、本当のところ、そんなに楽観的になれる状態ではない。怪獣騒ぎからこの方、店の設備面でも色々と出費がかさんで、今現在はキャッシュフローが危険水準になっているんである。まさに無い袖は振れない、という状態で、仮にこの「左反田」にCEOがいようが名誉会長がいようが打てる策はほとんどないのである。ただ、稼ぐ以外には。
気がついたら、また頭の中を行き場のない疑問が堂々巡りをやっている。分かっていても止められない。実はリノは、昼の通信の後でも一時間ぐらいマネージャー室で煩悶としていた。結局何一つ考えがまとまらなかったので、諦めて仕事に戻ったけれど、奇構獣は予定通り来襲したし、時間だけがムダに過ぎていってしまってる。
中佐の「情報を活用せよ」との指令の真意もつかみそこねたままだ。だいたい、奇構獣の弱点をつかんでいるとしても、それで経営危機を乗り切るって……何十回考えても「誰かに情報を高く売れ」という意味としか思えない。でも、だったら誰に? そんな怪しい情報に即金を出してくれる相手って?
不意に続けざまに低い地鳴りがした。はっと身構えて耳を澄ませていると、響きはだんだん規則的なものになり、振動まで加わって、次第に巨大な足音の輪郭を露わにしていく。
はじかれたようにリノは立ち上がった。
突然、天からの啓示が脳天に突き立ったのだ。
基本的にGAHHAの〝侵略〟行動はすべて計算づくで決定されている。ムダな破壊はしないし、補償騒ぎになりかねない人命に関わる被害は徹底して避ける。大バカそのものな振る舞いに見えて、理性ある会社としての一線はしっかり守ってきたのだ。少なくとも今まではそうだった。
でも、まさか。
まさかとは思うけれど、イヤーンIV改の今回の目的が――リノ自身だったら?
利用価値がなくなった情報部員を後腐れなく消すために、今回の作戦が立案されたのだとしたら?
分かってる。コスパが悪すぎる。そんな不効率なタスクを、まともな会社が実施するはずはない。
でも、でも――そういう理不尽、GAHHAならやりかねない!
「こりゃあ無理だなー」
キューボウ改三号機のコクピットで、護荘大慈は腕組みをしながらひとりごちた。今は奇構獣を県タロスと覚元に任せ、こちらは小休止と洒落込んでみせてはいるが、事実上の戦線離脱である。というか、もうできることがない。一番乗りになってしばらく一対一で戦ってたから、その時に一通りのことは試したのだ。結果、傷一つつけられなかった。認めたくはないが、キューボウ単機では勝てない。
なにしろ今回の相手は、幼稚園児に怪獣を描いてと言えば、十人が十人とも描きそうな典型的な造形の怪獣サマだ。いったい何を動力にしてどんな材料で作られたものなのか知らないが、直接組み合った印象は、まさに巨大な岩の塊。迫力のある恐竜然とした頭部にぶっとい手足、それにしっぽ。火を吐くわけではないらしく、機関砲もミサイルも搭載してなくとも、巨体でうごうごと歩き回ってくれると、それだけで安普請な人家や事業所が大破する。道路だって荒れるし、電柱も倒れる。
あのデカブツを、こんな工事用重機の即製改造品みたいなマシンで破壊するのはまず無理だ。キューボウの全高は十二メートル少々。相手の肩にようやく届くぐらいの体格差である。重量比だと倍はあるだろう。ただ足止めするのさえ、かなりの難題になる。
「潮時か」
その独り言を自分への合図にするかのように、シートの横ポケットに忍ばせておいたガジェットを手に取る。この事態を打開する、パイロットたちに残された唯一の方策。しかしてその実体は――。
「あー、もしもし環那かぁ?」
『なによっ、こんなタイミングでっ!』
「いや、そろそろ官製談合の時間かなと」
『人聞きの悪いこと言わないでよっ! こっちはまだ戦え……あーっ、何しやがるっ、人のターンを!』
わずかに動作の鈍った県タロスの隙をついて、覚元がライフルを数発ぶっ放した。怪獣の肩付近にいくつか煙が上がるが、大きなダメージはない。少しだけ、着弾の結果を確認するような間が空いてから、覚元が数歩後退し、会話に仁の声が加わった。
『うーん、効果なしか。とりあえず市ヶ谷への義理は果たした。じゃ、そろそろ談合タイムにしようか』
『だからその言い方! 無神経すぎるでしょっ。会話が傍受されてたらどうすんの!?』
「まあそこは心配しても仕方ねえ。これ盗聴されるんなら、もう話なんかできねーよ」
そう、三人が利用していたのは何のことはない、ただのケータイの多人数同時通話機能である。過去にいろいろあって、パイロット同士ホットラインがあった方がいい、という点で先日合意したものの、上を通すと話がややこしいし、三機とも無線の規格は違うし、かと言っておもちゃのトランシーバーじゃ心もとないし、結局いちばん信頼できて確実なのは、民間電話会社の一般回線だったのだ。
というわけで、今日の三人は独断でそれぞれ個人用の端末を持ち込んでいた。が、プライベートなやり取りだけに、話はさっそくみみっちい確認から始まった。
「どーでもいいけど、今回のこの通話料、ちゃんと割り勘で払えよ?」
多人数同時通話は、最初に呼びかけ役になった者が人数分丸払いする決まりである。
『ん、払うのはいいけど……上に経費だって言って請求すれば済むだけのことでは?』
『なに、オダジンところは上と話ついてるの?』
『ついてるけど? ああ、作戦部は法務上の手続きがどうとか言って難色示してるから、一足飛びに経理に話持っていったんだ。僕個人の経費としては問題ないってさ』
『あー、いーなあ。県はこういうところ頭固いから』
『請求書出すだけ出してみたら?』
『それ以前にこういう私物を持ち込んでたのがバレるとさあ』
「おい、よけーなことダベってねえで! やつが動くぞ!」
一応、話をしながらも奇構獣を中心に、三方向から囲むような配置へそれぞれ動いてはいた。戦場となっている緑町四丁目公園の敷地は、小さな植え込みなどほとんど蹂躙され尽くして、競技場に模様替えしようとしている荒れ果てた畑のようだ。殺伐としたシーン構成は充分ハードボイルドで、戦況を見物している者の目には、よもやインターセプターの中でこんなぐだぐだな会話が進行しているなどとは映っていないだろう。
「で、談合の続きだけど」
『だからそれやめようよ! せめて作戦会議とかさあ』
「こっちはもう手詰まりだ。打てる手がねえ」
『手って……あんた何かやってた?』
「グラビティアタックもクラブストロークも効かなかった」
『……もしかしてグラビティなんとかって、そのディーゼル車で正面衝突しただけのアレ? んで、クラブってカニ……ああ、パワーショベルの腕でつついてたやつね』
「ディーゼル車言うな! パワーショベルじゃねえ!」
『ああうん、でもキューボウってその非力さが最近は健気でカワイイって評判なんだしぃ』
「そーいうぬるい笑い声やめろっ」
『キューボウって漢字で書いたらやっぱ窮乏だよな』
「仁先輩までそーいうこと言いますかっ。てか、国の役人がそういうこと言うと、すでにモラハラ……」
『わかったわかった。失言は謝罪するよ。で、音灘君は何かあるの? 僕の方もそろそろ弾切れなんだけど』
二足歩行型の覚元は、下半身へのダメージに徹底的に弱いので遠隔攻撃を主体にしており、今日のところはただジャイアントライフル――という名前の、戦車砲を流用した110ミリ滑空砲――を撃ちまくるだけで出番がなくなってしまった。
『一応試してないのがまだあるんだけど、まあちょうどいいかもね。二人とも、ちょっと協力してくれる? その角度でいいから、怪獣に接近して、抑えつけといてほしいの』
県タロスが左腕を準備運動みたいに上げ下げしながら、怪獣の正面に立つ。巨大人馬の左腕にはマニピュレーターなどはついておらず、肘から先が騎馬槍のように長細い形になっている。どこかドリルのようで、しかしハンマーのような――
「おい……ちょっと待て。試してないのって、もしかして」
『うん、そう。パイルバンカー。初実装でさあ。早く試したくて』
とあるリアルロボット系アニメが発信元となった、本来は架空の近接装備である。訳せば「杭打ち機」。左腕に仕込んだカタパルトの中の槍を、炸薬で至近距離の対象に撃ち込むというもの。巷では近接戦闘の必殺武器という扱いになっているが、県タロスのそれも設計上の威力はなかなかに凄まじい。なにしろ、県下のロボットアニメオタクが総結集して製作したのだから。
『いや、それは……音灘君、それで僕らに背後から怪獣を抑えておいてくれってことは、つまり僕らごと貫通――』
『え? 大丈夫でしょ。一応斜め下狙うし。どうせそこまできれいに突き刺さったりなんか』
『いやいやいやいや』
「無理無理無理無理」
とたんに逃げ腰になる男子パイロット二名。一気に怪獣との距離を倍に広げてなおも後退する。
『ちょっと。敵前逃亡は懲戒免職って――』
「だから、その作戦ムリ! 第一、こいつのしっぽ結構強力だしっ、抑えつける前に吹っ飛ばされるってっ。これは戦術的撤退だっ」
『右に同じく』
『くっ、ほんと使えないったら! あーもういい、その代わり、今日の戦績は県の総取りだからねっ!』
そう言い放つと、県タロスは全速で突進し始めた。ふがいない男どもを叱り飛ばしての、女性バイロットの必殺技発動。この戦いいちばんの迫力満点な映像……になるはずのクライマックスシーン……だったが。
「しっかしおせーな、県タロス」
『あ、逃げてる。奇構獣、普通に避けられそうじゃね? 突進の意味あるの?』
『う、うるさいな〜っ! 四本足で突っ走るのって難しいんだから! 仕方ないでしょ!』
人馬型邀撃機とは言っても、その実用最高速は四十キロ前後。全高十八メートル、脚部の可動部分だけでも七メートル近くある巨大メカだけに、消費エネルギーは莫大で、かつ歩行制御プログラムは複雑。燃料電池搭載モデルということで耳目を集めた県タロスだったが、格闘戦での瞬発力はあっても、長い距離を走り続けるような運動には本来向いていないのだった。
『だから抑えつけといてって言ったのに――』
「ちょっと待て。それよっか、この先って、県は手出しできねーんじゃ」
相変わらずのうごうごとした動きながら、怪獣は緑町四丁目界隈から抜け出ようとしていた。県タロスの戦闘許可区域外である。市と国はその手の制限を受けていないが、今現在敵を倒せる可能性があるのは環那だけだ。
『え、ちょっと、それ困る』
『護荘君、やつの鼻っ柱、何とか抑えられないかな? キューボウの方が速いだろ』
「ああん? ったく、こういう時だけ車輪付きを頼るってのは」
確かに、位置的にはキューボウが怪獣に最も近かった。しかも、三機の中では最速。ぶつくさ言いながらも大慈はアクセルを踏む。敵の背中をにらみながら急追した大慈はしかし、その先の住宅・商業地区を視界に入れて、うわっと慌てたように叫んだ。
『なに、どうしたの?』
「やべっ、この先って『左反田』――」
言ってる間にも、奇構獣は案外スピーディーに動き、ほとんど公園の敷地を出るところだ。そして、その先の交差点の反対側は、もうスーパー「左反田」の駐車場だった。
『おい、護荘君っ、マズイんじゃないか!?』
「ちっ、間に合わねえ! こうなったら……って、あれ?」
公園を出て急に迷子になったように辺りを見回していたイヤーンIV改が、ふと、探していたものに気づいたように動きを止めた。何かが……いや、誰かがいる。スーパーの横手あたりから飛び出して、トチ狂ったように奇構獣へ駆け寄っていく人物。またイカれた自称動画配信者あたりがバカをやらかしているのか、と目を凝らした大慈は、あやうくコクピットの中でのけ反りそうになった。
「えっ、リ、リノ先輩っ!? 何やってんすか、あんなの相手に!?」
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