攻略

 15万人の視聴者が見守る中。


 不本意にもダンジョンファイトへと雪崩れ込んでしまった。


 しかし、これはチャンスでもあった。


 ここで俺のチャンネルにちょっかいを出すとどういった顛末てんまつになるのかアピールも出来る。


 そうすれば、有名Ⅾライバーになる事で発生する、を未然に防ぐ事にも繋がるのだ。


 申し訳ないが丁度いいので、彼らにはその人柱になって貰おう――。


 ちょっと脅して追い払う。


 簡単だ――。


 ……。


 「……。多分、終わるころにはアンタら気絶してるかも知れないから、先に言っとくけど、これに懲りたら決闘系なんて辞めろよ」

 「カッケーwもう勝った気でいんのかよwww――ふざけんな!オラアアアア!!」


 刺青男が突進してくる。


 その勢いで剣を振り下ろす。


 思い切りは良い。


 だが。


 「悪いな」

 「なぁ!?」


 俺の拳の方が圧倒的に速かった。


 振り下ろしきるよりも、先に俺の拳が男の顔面に到達する。


 しかし、当てはしない寸止めだ。


 「な、なんの真似だ!?おら!!??」


 一般的には“舐めプ”と呼ばれる行為。


 こういうのは、あまり俺も好きではないが、恐怖心を植え付けるのには持って来いなのだ。


 「今ので、貴様は一度死んだ」

 「は!?何言って……」

 「これで、二度目だ……。――魔王拳アルテミリオン・インパルス……」


 高速に振動した拳から、魔力の衝撃波を発生させる。


 「の!?わあああああああ!?!?!??」


 瞬く間に衝撃の波は放射線状に広がっていった。


 「は!?」

 「ちょ!?」


 ドドドドドドッと地面削り、後ろに居た刺青男も巻き込んで吹き飛ばす。


 「いってぇ!?」

 「どうなって……!?!?」

 「くっ……!?」


 俺はゆっくり歩いて、地面に落下した男達に近づいていく。


 「貴様ら、トリプル・スコアとか言ったか?」


 足元に落ちた剣を一本拾う。


 「?」


 ぐにゃりと、目の前で飴細工の様に曲げて見せる。


 「あああ……」

 「次は本気だが……、まだやるか……?」


 出来るだけ低い声色で冷たく言い放つ。

 

 男達の眼が、まるで怪物を視たかのように訴える。


 そうだ。


 お前達の目の前にいるのは、本物の魔王なのだ――。


 「ち、ちっくしょう……!」


 そう言って、散らばった所有物も拾わずに彼らは退散していった。


 「ふん、他愛もない」


脱兎『おお……』

@マン『マジか……』


 あ……。


 少々これはやり過ぎたか――?


 途中から完全に魔王モードになってしまっていた事に気付く。


 若干だが、力を使う事に高揚してしまっていたのだ。


すたみな次郎『おいおい!戦ってる最中、中二病入ってたぞwあ、いつもかwww』

みぎよりレッドロード『さっきのは本物の魔王ぽかったなwww見た事ないけどw』

吉良りん革命『なかかな見せるねぇ』

たぬきつねそば『タツミ最強!タツミ最強!!』

リスポンバーナー『トリプル・スコアって、そこそこランキングじょういじゃなかったっけ?』

たかふみ『お、タツミもランキング入りかぁ!?』

電信pencil『TUEEEEEE!!!』

なはと・クライマー『見たかよ今の!!これが継承者かぁ』


 とは言え、コメントの殆どでは盛り上がっていた。


 強いというのはそれだけで、エンターテインメントなのだ。


 「ちょっとやり過ぎたんじゃない?」

 「う……」


 やぱっりか……。


 春沢の言葉に気まずくなる。


 「い、いやぁ……、ちょっとお灸を据えようと思ってな……」

 「……」


 春沢がジーっと見つめてくる。


 もしかして、力の制御が不安定になりつつあるのがバレたか……?


 「ふーん。まぁ、ウチもあいつらにはムカついてたから、良いけど」

 「お、おう」


 如何やら、そうでは無い様だ。


 「お邪魔虫もヤッツケた事デスシ、どんどん攻略シテイキマショウ!」

 「うん、そうしようか」

 

 ビクトリカさんと斑鳩さんは特に触れては来なかった。


 気を取り直して俺達は最深部を目指していく。



 ※※※



 最深部第11層。


 「ギィヤヤヤヤヤヤヤヤヤ!!!!!」


 このダンジョンの主であろう、中央線を走る電車くらいの体格のダンジョン・デスワーム(牙や鱗がある巨大なミミズの様なモンスター)は身体に風穴を空けてられ、こと切れて、その巨体を地表に叩きつけた。


 ぐわんと短く地響きがした。


 最深部には大体、ダンジョン・コアを守るボスがいるのだが、本能的にこれが自分達の住むダンジョンにとって重要なものだと、モンスターは理解しているのだと、前に環さんが言っていた気がした。


 つまり、ボスモンスターはダンジョン・コアを守る為に強くなった個体なのだ。


 まぁ、そんなボスも難なく倒してしまったのだが。


空中ブランコ『“¥2000”ないすー』

29290213『“¥680”ダンジョンに攻略おめ!』

PARIPI『うぇーいwww』

暗黒☩騎士ざまぁん『ないす!』


 「よぉし!ダンジョンも攻略した事だし、今日の配信はここでおしまいにするぜ!!皆今日も配信に付き合ってくれてありがとうな!それじゃぁ、最後にチャンネル登録・高評価を忘れるなよ!!あばよっ!!」


すたみな次郎『今日も楽しかったぜ!乙』

最速の牛歩『おっつー!』

レタス検定準二級『おつおつ』

お天気おじさん『ZZ』

_ツナ_『またな!』

まさぎり『z』

悲しみの謁ボレロ『こんたつーって!もう終わり!?またかよおおお!!!!!』

メジャー11『www』

有益太郎『乙!』


 配信終了のボタンを押して、ドローンカメラを回収する。


 普通の配信者であれば、ボスモンスターを倒したら、攻略完了。


 それで終わりである。


 だが、俺達は違った。


 というよりもここからが真の目的だ。


 ダンジョン・コアの回収である。


 流石に、ダンジョン・コアの扱い方をネットに流すわけにもいかないので、配信を終えてから回収を行うのだ。


 俺は、継承者として覚醒してから、攻略したダンジョンではこうしてコアを回収するようにしていた。


 万が一だれかに悪用されたら困るからだ。


 まぁ、元魔王軍以外でこれを起動させられる人間が居るとは思えないが、念のためである。


 このダンジョンのコアは、ピラミッドの様な建造物の中にあった。


 そこから回収して、第一階層に通じるゲートを呼び出した。


 こうすれば、わざわざ来た道を戻る必要も無いのだ。


 「それじゃあ、環さんには僕たちから渡しておくね」

 「お願いします」


 斑鳩さんは、ダンジョン・コアを手のひらサイズに縮小して、胸ポケットにしまう。


 これで、本当のダンジョン攻略完了となった。


 


 



 

 


 

 


 

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