反響

 『先週発生した、八王子の学校敷地内での大規模スタンピードですが、負傷者は出たものの死者は0人でした。八王子と言えば、17年前に起きた八王子大厄災も大規模スタンピードでしたが、被害は今回の数十倍でした。この二件の違いは一体何だったのか、今日はダンジョン専門家の白鳥さんにお話を伺っていきたいと思います』


 鱶野家の朝食風景。


 テレビに映し出されるニュース番組では、例によってダンジョン専門家のおっさんが、俺達の学校で起こったスタンピードについて解説していた。


 正直。


 世間に流れているダンジョンの情報は、俺達が把握しているものに比べると遥かに質で劣っていた。


 それでも、このおっさんの言う事はまぁまぁ的を得ており、如何にも何でも知っていそうな顔をして、大してそうでもない他の専門家に比べれば、かなり優秀だと評価も出来た。


 おっさんは、淡々と解説を始める。


 『はい。まず、先程おっしゃった大規模スタンピードなのですが、今まで世界中で計20件以上の発生が確認されています。そして、その約七割が日本国内での発生となっているんですね。――我々は過去に起こったスタンピードを研究して、様々な対策を考案してきましたが、日本は特にダンジョン大国なので退避シェルター等の対策がしっかりしている訳です。今回はそれが効果的に機能したというのが、被害を押えられたポイントになっています。』

 『成程。過去の経験から、被害を抑える対策がしっかりと出来ていたという訳ですね』


 女性アナウンサーがおっさんの言葉を端的にまとめる。


 『ええ。それともう一つ。17年前の八王子大厄と今回のでは、発生したモンスターの規模が殆ど同じでした。どちらも人が密集している所で発生したこともあって状況的にもかなり似通ったパターンと言えます。――そこで決定的に違ったのは、今回はモンスターに対抗出来る力を持った人間……、ダンジョン外でも魔術が行使できる人物が現場に居たということですね。彼らが迅速に対応していなければ、かなりの死者が出ていた事でしょう』

 『白鳥さん、この方々は一体何者なのでしょうか?一部インターネット上では、都市伝説とされるという呼ばれ方や、とあるダンジョン探索配信者に見た目が酷似しているとの情報も出ています。なんてあだ名もついていたりしますが……。また、今回は人命を救っていますが、このような力を持った存在を危険視する団体も出て来ていますが……』

 『そちらに関しては我々も調査中です。今までダンジョン内のみで使用できると思われていた魔術が、でも行使できるとなると不安に思う人がいるのは仕方が無い事だと思います。ただ、私個人の意見ではありますが、今回の彼らの行動はたたえられるべきです。出来れば、名乗り出て欲しいと思っていますね』

 『成程』


 解説者の後ろのディスプレイには、静止画の俺達の切り抜き画像が映し出されている。


 まさか、始めはクラスですら目立っていなかった俺が、全国放送デビューをして、世界中の注目を集めることになるなんて――。


 何だか、大変なことになって来たぞ……。


 俺はスマホを取り出して、その画面を確認する。


 おびただしい数の通知履歴。


 ライブチャンネルの登録者がリアルタイムで増加しているのだ。


 今はバイブ機能は切っているが、最初の方は通知の度に震えるので、マッサージ機代わりに使えたくらいだ。


 事件から一周間経っても、その勢いは留まる所を知らなかった。


 いや、むしろ勢い増してるかも……?


 「辰海、食事中にスマホを見ない!」


 透かさず、母さんに注意される。


 「う、うっす……!」


 いかん、いかん――。


 うっかり画面を覗かれでもしたら、俺が配信者だとバレてしまう。


 「辰海の学校はいつまで休みなんだ?」


 父さんが、新聞を読みながら聞いて来る。


 「冬休み明けまで休みだって」

 「ほう。それは、また随分と……」


 八王子高校の生徒は以降、学校が休学になっていた。


 休みといっても課題が出ていて自宅での自主学習はしないとだが……。


 一か月程。


 スタンピードで破壊された所の修復や、発生したゲートへの防護シェルターの設置作業をする機関が必要となったからだ。


 なので、平日の朝というのに俺は私服で朝食を食べていた。


 「武さんも食事中は新聞を読まない!」

 「あははは……。ごめんなさい」


 事件当初は、俺も家族から心配されてスタンピードの事を根掘り葉掘り聞かれたが、今では会話の話題に上がる事も少なくなった。


 それは、こちらとしても助かってはいるが……。


 「ご馳走様。――もう行くから食器はお願い」


 そう言って由波が立ち上がる。


 「あら、由波、早いわね?」

 「部活で忙しいから……、行ってきます」

 「お、頑張れよ!」

 「……」


 え……、無視……?


 由波はプイッと限界の方を向いて、行ってしまった。


 スタンピード以降からか、妹の由波が俺に接する態度が冷たくなった。


 何故だろう?


 反抗期か――!?


 いや、両親には結構普通だし……。


 俺が気が付いていないだけで、何か機嫌を損ねることをしたのかも知れない。


 口も聞いてくれないので、こちらは嵐が過ぎるのをただ待つしか出来ないのだ。


 と。


 〔ピーポーン〕


 チャイムが鳴る。


 「はーい」


 母さんが玄関に向かう。


 こんな朝早くに誰だろう?


 「朝早クにスミマセーン!」


 !?


 何だか、嫌な予感がして来たぞ――!?


 俺も急いで声の正体を確かめに行った。

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