他人の空似

 「発音などどうでも良い……!リベレイターならば倒すまでだ!――戦術……」


 帝さんは、再び変身の構えを取る。


 「ちょちょちょ!ちょっと待ってくださいって!!敵じゃないって言っているじゃないですか……!」


 歌手のビクトリカの自称マネージャーである一文氏がそれを必死に制止した。


 「貴方達の敵対シテイるリベレイターは、元々は“LIBERATOR日本支部”デシタ。デスガ、イツの間にヤラ離反シテ勝手に行動スルヨウニナッタノデス。――ナノニ、マダ“リベレイター”を名乗ッテイテ、私達も迷惑シテマース」

 「なんだと……?」


 帝さんの動きが止まる。


 「本来、LIBERATORは、この世界をダンジョンから分離する事を目的にしながら、平和的な解決方法を行動指針とする組織です。言わば僕たちは穏健派。――その中で強引な手段で、事件の早期決着を目論む強硬派。それで、袂を分かち独立したのがリベレイターなんです」

 「つまり、他人の空似でアンタらとは別って事?」

 「ん~、チョット違イマスネ……。身内の激似、クライデショウカ?」

 「……」


 この二人が絡み始めると途端に話がフワフワしだす。


 「兎に角。僕達の目的は、魔王との対話による問題解決のアプローチとLIBERATOR日本支部の解体です。――貴方達と争うメリットがありません」

 「それを……。素性も分からぬ貴様らの言う事を信用しろと……?」


 帝さんは警戒を解いてはいない。


 歌手のビクトリカは本物に見えるし、嘘を言っていないようにも感じるが……。


 確かに怪しくはある。


 実際嘘だった場合、油断したところで……という事もあるのだ。


 「信用デスカ……、ムー、難シイデスネ……。――……!デハ、私達ノ手の内を特別ニ見セルと言ウノはイカガデショウ?」

 「手の内だと?」

 「yes!隠シ事は無シッテ事デース!!」

 「ビクトリカ、流石にそれは……」

 「良イジャナイデスカ?減ルモノジャナイデスシ??――先っちょ、先っちょダケデース!」

 「いや、意味わかんないし……」

 「善は急ゲ、デース」

 「……。ああ……、報告書に書くことが増えていく……」


 二人は身体の前に手をかざした。


 それぞれの手には……、宝石の様な結晶体。


 「おい……、それってまさか……!?」

 「もしかして……」

 「マナの塊……!?」

 「ソウデース!貴方達のシテイル指輪と似タヨウナ物デスネ。――行キマスヨー、夢想天衣デース!!!」

 「金剛武装!!!」


 二人は燦々とした光に包まれた。


 その光はみるみる内に肥大化していく。


 直後、10メートルはあるだろうか、全身甲冑に包まれた屈強な巨人が現れた。


 「豪腕の騎士パラディオン!?」

 「久しぶりだねリベリアル」


 此方はマネージャーの一文氏か。


 そして、パラディオンの肩にはピエロの様な仮面を付けた、褐色肌の耳長が……。


 「幻想のレイズバック!」

 「yes!久シブリデース!!」


 成る程。


 レイズバックは、相手を惑わす怪しい術を使うのが得意だった。


 まぁ、殆どギャンブルとかのイカサマに使われていたが……。


 早急、急に現れて見えたのは、レイズバックの能力という訳だ。


 「ドウデース?コレデ少シハ信用シマシタカ??」

 「む……」

 「取り敢えず、もう少し話を聞いてみようよ?」

 「仕方ない……か……」


 どちらにしろ、今この二人を相手にする選択だけは無かった。

 


 

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