「じゃあ……、魔王って元は人間ってことじゃん……」

 「うぇーい……、俺もそれは初耳だぜ……」

 「そうさ。ボク達は世界の為……、いや、自分達の為に一人の人間の人生を捻じ曲げたのさ」

 「本当にそんな事が……?」


 困惑する。


 只、思い当たる節もあった。


 魔人は生まれたての頃は殆ど人間と変わらない姿で、成長と共に徐々に異形の姿となっていくのだが。


 俺はその速度が異常に遅かった。


 おまけに身体能力も魔人とは思えないもので、それ故にひたすらに鍛錬の日々が続いたのだ。


 そして、両親も居なかった。

 

 俺が生まれて間も無く、事故で亡くなったと聞いていたがそう言う事だったのか……。


 「お前は魔族ですら無い只の人間だったのだ……。私達を恨むか?鱶野辰海」

 「え?」


 恨むとか聞かれても正直困った。


 事情を聴くと仕方がなかったとも思えた。


 それに……。


 「――無限とも言える寿命を与えられて魔族の為に生き続け、あまつさえ味方であるはずの人類と敵対させられたのだ。おまけにタルタロスを制御する為に暗黒大陸を抜け出す事すらできない。自由すらも奪われた。――これで何が魔王か……!?お前もそう思うだろ……?」

 「いや……」


 不思議と怒りと言う感情は湧いてこなかった。


 そもそも前世で終わった話事の話なのだ。


 確かに辛い事ばかりあった人生だけれど、それ以上に魔族達は俺に良くしてくれたのだ。


 だから――。


 何かが心に引っ掛かる。


 「辰海君は只の被害者ってわけさ……。モルガリアのイデアル・スケールの発動を止めたのだって間違っていない。――確かに現在のダンジョン出現現象は、キミを特異点として起こっているけれど。その対策も、考えてある。だから、これ以上キミ達を巻き込むつもりは無いよ。リベレイターやモルガリアの事もボクと帝さんだけで対処するさ。――例え前世の事だろうとしても、ボク達はキミにした事をずっと後悔していた。だからせめて、この世界では何のしがらみも無く自由に生きて欲しいんだ」

 「でも、本当に環ちゃん達だけで大丈夫なん?ウチだって力貸すよ??」

 「何だか分かんねぇけど。俺も手伝うぜ」

 「その必要はない。その為に私達は、グラウベン機関なんぞと手を組んだのだ。――まぁ、これでは有栖院を裏切る形にはなるがな……」


 帝さんはサングラスを掛け直す。


 「そうさ。これはボク達の罪だ。ダンジョンも魔王の事も全てはボクと帝さんが原因で起こったことなんだ……。――だから、最後のけじめは自分達でつけるよ」


 いや――。


 「待ってくれよ!!!」

 「「!?」」

 「鱶野辰海……?」

 「辰海君……」

 「罪とか原因とか言って、勝手に自分達で決めるなよ!!!!!」


 そうして、自然と怒りが込み上げてきた。


 「なんだよ!まるで俺が関係無いみたいに言ってさ!!」

 「正味、それが事実だろうが!――お前は700年間ずっと真実を知らされずに利用されたのだ」

 「違う!辛いこともあったけれど、それ以上に楽しかった700年だ!!利用されたとか関係無い、生きてて良かった人生だった!!!」


 そうだ。


 あの700年間、俺が見聞きし感じたものは、本物なのだ。


 少し利用されたくらいで、それまで無かった事にされるのは、頭にきたのだ。


 「それにアレス・リゴールやカルバートだって、ずっと一緒に居てくれたじゃないか……。――もう十分罪滅ぼしはしてきたはずだ!」


 魔剣のライフリンクを利用して、俺は守護者達にも寿命を分け与えていた。


 そうやって守護者も魔王を支えてくれたのだ。


 それを今更仲間外れなんて、そっちの方が悲しい。


 「辰海……」

 「辰海君……」

 「自由に生きて欲しいって言うなら自由にしてやる!俺もアンタ達と一緒に戦うからな!!」


 俺は力は強く帝さん達の方を見た。


 すると。


 「ソノ意気ヤ良シデース!私達も協力サセテ貰イマース!!」

 「!?」

 「あ、駄目だよビクトリカ!」


 急にどこからともなく。


 場違いな程に明るい女性の声が俺達の周りに木霊したのだった。

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