魔人化
失ってしまった者に対して掛ける事が出来る言葉は限られていた。
それが、元凶となる本人からならば、最早意味すら成さないかもしれない。
俺が生き続ける事がスタンピードに繋がると言うのは事実なのだ。
だからといって簡単に命は差し出せない。
それ程まで俺は出来た人間ではないのだ。
だったら――。
既に頭より先に身体の方が動いていた。
もうコレは、一度既に覚悟している。
怖くは無いといえば噓になるが……。
「辰海君……、一体何を……」
「辰海君……」
「辞めろ!辰海!!」
俺は変身を解く。
そして、右手の甲の魔導紋をリベレイターに見せた。
「これが俺の魔導紋だ……。右手はアンタにくれてやる……。そうすればもう俺は魔王じゃなくなる。これでダンジョンも新しくは現れないだろう?――だから……、命までは勘弁してくれ、頼む」
「鱶野!またそうやって自分ばっかり格好付けて!!」
春沢は怒りを露わにする。
「悪りぃな……。これしか思いつかなかったわ……w」
作った笑顔で自嘲気味に笑って見せた。
強がりだってバレバレだろうが……。
「馬鹿……!」
春沢の眼には、涙が一筋。
俺の為に泣いてくれるのか――。
「ふふ……。ふふふ……、お前は何も分かっていない……」
だが、リベレイターは不気味に笑う。
「お前は特別製なんだ!魔導紋を失ったからといってダンジョンの発生が止まることはない!!」
「何!?」
そうなのか――!?
「ああ……、その方法には私達も最終手段として辿りていた……。だが、それでは駄目だ」
マジかよ……、じゃぁ……。
「――それにもう私達は壊れてしまった……!もう後戻りは出来ないんだ!!!はあああああああ!!!!」
リベレイターの魔力急に増大する。
そして力任せに拘束を解いた。
まだ、こんな力を残していたのか――!?
「辰海!一旦離れろ!!奴の様子が変だ!!!」
「あ、ああ……!」
俺と帝さんは距離を取る。
「フェーズ
リベレイターは手に携えた剣を身体の前に構えた。
「――魔剣抜刀ッ!」
「な……!?」
「にぃ……!?」
「魔剣だって!!??」
剣から黒い
「ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!!!!」
悲痛な叫び声と共に靄が離散して行き、
その姿を露わにした。
おどろおどろしく、黒く変色した甲冑と剣。
肌には黒紫の
そして、頭には禍々しくうねる角が生えていた。
なんだよ……、これ……?
眼に移った姿を一言で表すならば。
「魔人……!?」
「うっそ……、だって……」
春沢も、俺と同じく違和感があるらしい。
それは、継承者から感じる魔力の反応とは少し違う。
言葉で上手く言い表せないが。
まるで、本物の魔人みたいだった。
「貴様らは……、そこまでするのか!?」
「人間の魔人化……!」
帝さん達は、何か知っている様子だ。
「フ……、ハハハ……。そうだったな……、この技術もお前らが生み出したものだったなぁ!」
「は!?」
そんなの俺は知らないぞ――!?
確かにアリスヘイム時代、カルバート達は魔人を人間に戻す研究はしていたが、その逆の研究をしていたなんて聞いたことは無かった。
「……」
「……」
「まぁ……、もう、なんだって良いか……。ここで全員……、お前たちは死ぬんだ!――はああああああああ!!!!!」
「く!?」
魔人化したリベレイターが一気に距離を詰めてくる。
は、速い――!
身体能力が大幅に底上げされていた。
生身の人間の魔人化という現象に動揺して、身体が動きに追いつけない。
それだけじゃない。
コイツは、俺達のデュミナスリングの様な制限が無いみたいだった。
そもそも継承者ですらないのに、どういうカラクリだ――?
「死ねええええ!!!」
「しまっ……!」
駄目だ、避けきれない――!!
と。
視線の端を何かが高速で移動する。
「何!?――ぐ!?ああああああ!!!」
「……!」
「……!?」
「ちょ!?」
「うぇーいwww」
「笠井!!」
リベレイターの懐に、笠井の放った飛び蹴りがクリーンヒットした。
背中の樹を突き破って後ろへ飛んでいく。
「なんかよく分かんねぇ話をしているがよぉ、てめえも憂さ晴らししたくて暴れてるだけじゃねぇの?」
「何だと!!!?――お前にっ、私達の何が分かる!!??」
「何も分かんねぇよwお前らが俺達の事なんも分かってねぇみてぇいによぅwww」
体制を立て直そうとするリベレイターに、笠井は体術で追撃を加えて行く。
「おいおい、魔人化してもこんなもんなのかぁw!?――それは継承者とやり合う為のてめえらの奥の手とかなんだろ?拍子抜けだぜ!!」
「おい!馬鹿煽るな!!」
「くぅ!お前えええええ!!!」
リベレイターも魔剣?で応戦しているが、笠井の攻撃をやっと受けきっているという感じだ。
が。
「舐めるなあああ!――フェーズ
「うぇい!?」
剣から再び黒い靄が噴出され、相手の魔力が増大する。
今度は笠井が押され始めた。
アイツが後退するなんて、滅多に無いぞ――。
「かあぁー、マジかよw」
「ふぅ……、ふぅ……、ふぅ……、私はお前らに負ける訳にはいかないのだ……」
リベレイターは一気に優勢になった。
しかし。
何故、間合いを詰めてこない――!?
「もう止めるんだ!――それ以上その力を使えば、君は人間に戻れなくなるっ!!最悪命を落としてしまうよ!!??」
「なんだって!?」
やっぱり、環さんは知っているんだ……。
よく見ると先程よりも魔人化している範囲が広くなっていっている。
「もとよりそのつもりだ!――かはぁ……!?……!!??これだけしか持たないのか!!!???」
リベレイターは
「アンタ辛そうじゃん!もう止めるし!!」
「うるさい!!ハァ……、ハァ……、ハァ……。――まだ、こんな所でぇ……!」
剣を支えに何とか立ち上がる。
何という気迫か。
同時に、見ていられない程痛ましくも見えた。
こちらも引けないし、相手も同じだろう。
これではどちらかが本当に死ぬまで終わらない――。
「アンタらの復讐の相手にはなれないけど、スタンピードを止めるのなら協力する!――だから、ここは剣を納めてくれ!」
俺も説得を試みる、もう取り付く島がこれくらいしか無い。
「くぅ……!そんな言葉で納得するものか!!――今日は見逃してやる……!!次はリベレイターの全戦力をもってお前を殺しに来るからな!!!」
「!?」
瞬間。
リベレイターの剣が辺りを白く染める程の閃光を放った。
その場の全員が視界を数秒奪われる。
視力が回復する頃には、リベレイターの姿は消えていた。
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