想い
しかし、やはり自害しろと言うのは納得がいかない。
前提として。
俺が魔王の継承者として生まれたことが、この世界にダンジョンが現れるトリガーとなったのは理解している。
だが、それはあくまでもきっかけだけなのだ。
俺が望んでダンジョンをこちらに呼んだ訳じゃ無い。
被害者を前にして言うのもアレだが、どうしようも無い事なのだ。
それにこちらだって、少しは責任を感じて色々行動をしている。
尻拭いは、十分してきたと思っていた。
間違ったことはしていないはずだ。
「アンタ達のことは分かった……。でも、俺の命はやれない!――確かに、俺が魔王の継承者として生まれてきたことで、この世界にダンジョンが現れるようになったのかもしれないけれど……。俺が望んだわけじゃない!――それにスタンピードだってこうして対処している!!それでもアンタは責任を取って死ねって言うのか!?」
「……。お前本当に気付いていないのか……!?」
「???」
「――お前はこの世界とアリスヘイムを繋ぐ
「え……?」
「嘘っしょ……?」
「うぇーい……」
どういう……事だ……?
身体中の力が抜ける。
俺は膝から崩れ落ちた。
俺の頭の中で銀色の騎士が放った言葉が無限に
外界に繋がる感覚は遮断されて、暗闇の中に取り残された。
受け入れがたい内容の発言に、頭それ以上の思考をしたくないとシャットダウンしたかの様。
気が付くと俺は何もない空間に居た。
自分すら見失いそうな闇の中で、今日見てきたスタンピードの惨劇が記録映像のように再生されていく。
逃げ惑う人々……。
襲い来るモンスター……。
それだけじゃない。
映像は飛躍して、惨殺されていく人の姿、無力に泣き叫ぶ子供、悲痛な最期の断末魔、有り得たかもしれない結末にまで発展する。
「お前のせいで……」
映像の中で誰かがそう言った。
違う!違う!!これは俺のせいじゃない――!!!
こんな事は望んでいない――!
「フフフ……。それがお前の罪だ……」
「!?」
銀色の騎士の幻影が俺の耳元で囁いた。
これは、全て俺の罪……?
世界を救う事の出来なかった。
俺の罪――。
眼に映るのは、
血。
血。
血。
これが、ただ、
生きているだけで……?
嗚呼、駄目だ……、心が消える……。
だが。
「鱶野!」
春沢の……、声……!
絶望の淵。
意識が現実に引き戻される。
「貴様ァ、許さん!!!!!!!!!!」
「帝さん!!!」
ガイイインッと金属の擦れ合う音。
そうだ!考えろ――!
まだ、俺の心は死んでいない――!!
こういう事に立ち向って戦う事が俺の覚悟のはずだ――!!!
銀色の騎士に真っ直ぐ打ち込まれたレイピアを寸での所で、掴んで止めた。
手甲からは摩擦で蒸気が発生している。
「――何故邪魔をする?鱶野辰海!!!――こいつは、お前を殺そうとした奴だぞ!!?」
「そうかも知れないけど……!こんなのは駄目だ!!――それにこの人の言っている事……」
彼女は“俺が生き続ける事でダンジョンは現れ続ける”と言っていたのだ。
俺も自分の覚醒にダンジョンが関係しているのではと思い、環さんに聞いてみたりもしたのだが、その様な回答は無かった。
なので。
現れるようになったものは仕方が無い――。
せめてダンジョンによる被害を減らそう――。
そういう立ち位置だった。
だがこれでは、帝さん達の言葉と、リベレイターの言葉に食い違いが発生する。
まずは、それを明らかにする所からだ。
「……。そう言う事か……。――良い部下を持ったようだなリベリアル……」
「何?」
「自分が生き続ける事で厄災を振り撒くなんて知っていれば、そんなにヘラヘラと生きていられないのものな!」
「貴様ぁ!!!もう喋るな!!!!!」
「それ以上、喋るならボクも容赦はしないよ……!――これが、僕達の覚悟だから!」
環さんは魔術式を展開し始める。
「そんな、環さんまで……!?」
「ふふ……。ダンジョンの開発者……、アレスリゴールとカルバートが知らないわけが無いでだろう?――いい加減気付いたはずだ!お前は、こいつらにずっと守られていたんだ!!!」
「な……!?」
「こいつは!!!魔王リベリアル・ルシファードは……、我々の為に700年もの間生かされ続けたのだ……。魔剣に適性があるというだけで700年間をあの島から出る事すら許されなかった……、その人生に自由など無かったのだ!!!!挙句モルガリアの野望を打ち砕いて世界を救った!!!!!――それを……!それをやっと生まれ変われた自由な世界で、もう一度世界の為に死んでくれなどと言えるわけが無いだろう!!!!!!!」
「帝さん……」
そうだったのか……。
やはり、リベレイターの言う事は事実。
「そうだよ!これは、辰海君の罪じゃない!!――
「環ちゃん……」
二人ともそんな風に思っていたのか……。
「世界を救った!?それがどうした!!!――では……!!では私はどうすれば良い……!?――あの時、父と母はモンスターから私を守るために盾となって無残に抵抗もせずに殺された!この怒りは誰にぶつければ良いの!!??当時まだ三歳だ!顔すらまともに覚えていない……。だが、今も夢に見る!!!最期に抱かれたぬくもりだけが……、あの地獄の様な光景だけが私とあの人達との唯一の記憶となってしまったんだ!!!!!」
「……」
ぶつかり合う、帝さん達とリベレイターの想い。
俺は一体どうすれば良い――?
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