向けられた刃

 本来、人はモンスターの前では無力でひ弱な存在である。


 従って、そのモンスターが闊歩するダンジョンはとても危険な場所なのだ。


 俺はを得たことで、そんな当たり前の事を、いつの間にか他人事のように感じていたのかもしれない。


 それを今日。


 俺はダンジョンの外で思い出した。


 ダンジョンによって悲しむ人がいるという事を――。



 ※※※



 八王子高校校庭。


 スタンピード発生からもう直ぐ一時間。


 足場を埋め尽くさんとするモンスターの死体。


 その血と、魔術を行使する事によって発生する僅かな瘴気の臭い。


 冬だというのに、蒸発した血液の水分により蒸し暑く感じる。


 五感が、記憶がこの光景を覚えている。


 ここは間違いなく戦場だ――。


 「これでぇ!ラストおおおおおお!!」


 俺は魔力の弾丸で接近するワイバーンを撃ち落とした。

 

 これで。


 周囲の魔力反応は俺達継承者以外には無い。

 

 敵は全て殲滅されたようだ。


 「はぁ……、はぁ……。流石に今回のはヤバかったし……」

 「うぇーい……。雑魚でもこんだけ相手すりゃ……、それなりに堪えるぜ」

 「……」


 春沢と笠井もボロボロである、ダンジョンの外でかなりの魔力を消費したのだ。


 俺も流石にヘトヘトである。


 「お?何だありゃ??」

 「どうした?笠井」


 笠井が上空を見上げている。


 まさか、俺には感知劇無い程遠くにモンスターを取り逃がした――!?


 俺も釣られて上空に視線を向けた。


 いや、違う――。


 「報道のヘリコプターだ!」

 「え!?マジぃ!!??ウチらの事ニュースとかになっちゃうじゃん!」

 「うぇーい!全国デビューだぜ!」


 春沢達は報道ヘリに手を振っていた。


 ん?


 春沢の指のデュミナスリングが赤く発行している。


 ピコン、ピコンと音も出ていた。


 「あ……、」


 自分のリングも確認すると同じだった。


 「おい!さっさとここから居なくなるぞ!!」

 「え!?あー!!!」


 春沢も気付いた。


 デュミナスリングには連続使用時間に制限があるのだ。


 リング内に蓄えられ入るマナが枯渇すれば、その場で変身が強制解除される。


 そうなれば身バレ待ったなしだ。


 全国放映は流石に詰む。


 「走れええええい!」

 「ちょおおお!もう疲れてんのにーーーーーー」

 「うぇーい!!」

 「……」


 俺達は、近くの林の方へ走った。


 あそこならカメラにも映らない。



 ※※※



 「そっちも終わったようだな……」

 「ゲートの方は、をしておいたから、大丈夫だよ……」


 林の中には帝さんと環さんがいた。


 二人とも樹に寄り掛かってはいたが、大きなけがは無い様だ。


 「二人とも無事で良かった……!」


 気になっていただけに安堵する。


 「ふ。お前達も……。――ん!?そいつは誰だ!!??」

 「え?――あ、ああ。俺達もさっき会ったばかりで戦闘を手伝ってくれたんだよ」


 そう言えば、名前もまだ聞いていなかった。


 俺は一緒に付いて来ていた銀色の騎士に話しかけた。


 「俺は、鱶野辰海。――アンタの名前h……」


 シンッ。


 刹那。


 「!?」

 「辰海君!?」

 「辰海!避けて!!」

 「うぇい!?」

 「え?」

 「……」


 刃。


 銀色の騎士が躊躇なく振るった剣の切っ先が、俺の首元数センチを綺麗に移動する。


 咄嗟とっさに足が出たおかげで、回避には成功した。


 「なん……で……?」

 「呆けるな!鱶野辰海!!――そいつも敵だ!!!」

 「帝さん!?」

 「う……!?」


 帝さんは自分の流れ出る血液を飛ばし、それが蜘蛛の巣状になり、銀色の騎士は近くの樹に張付けとなった。


 「やっと尻尾を掴んだぞ……!」

 「君が解放者リベレイターなんだね?」

 「ちょ!?リベレイターって……」

 「まさか……、俺の命を狙っている……!?」


 彼女は騎士の姿で、俺の事を狙ってきた。


 本当にリベレイターなのか――!?


 「く……。……。――リベリアルーーーーーーー!!!!!!!!私は!!!!!私達は!!!!!!!!お前らを魔族を絶対に許さない!!!!!!!!!!」

 「な……!?」


 ヘッドギアをしているが、被り物越しに俺を睨んでいるのが伝わって来た。


 純粋な殺意だ。


 「そんな……、だって……、さっきは一緒に戦ってくれただろ……!?」

 「当たり前だ!とは違う!!――なのに何どうして、お前たちは!?それでをしているつもりなのか?そんなことをするくらいなら今すぐこの場で自害しろ!!!」

 「……!?」


 “罪滅ぼし”……?


 彼女は一体何を言っているんだ――?


 状況の理解が追い付かない。


 彼女は俺達に怨恨絡みの敵意があるようだが……。


 「確かに俺は魔族の継承者だけれど……、アンタに恨まれる理由に心当たりがない!」

 「そうだし!いきなり、罪滅ぼしとか言われても意味わかんないんですけど!!」

 「心当たりが無い!?お前のせいで私の両親は死んだんだぞ!!??お前たちが作ったダンジョンのせいで!!!――私の両親はスタンピードで命を落としたんだ!!!!!」

 「それって……?」

 「貴様、厄災孤児ロスト・チルドレンだったのか……!?」


 ロスト・チルドレン……?


 確か、スタンピードによって両親を失った子供達……、孤児の事だったはず。


 そうか――。


 スタンピードによる被害者。


 それが、リベレイターなのだ。


 


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