動き出した世界
八王子某所。
数種の機械端末、通信機器、そしてモニター。
中央には机。
脚が折り畳み式の物を四つ合わせて、一つとして使用している。
この部屋に窓は無く、閉鎖感がある。
外界へとアクセスする事が出来るのは、
もう一つある扉からは通路が伸びていて、厨房、トイレ、武器庫、各隊員私室と移動が出来る。
籠城を想定した、地下施設だ。
現在この作戦指令室には、男性三人・女性一人の計四人。
大きな正面モニターに視線を伸ばしながら、机を囲んでいる。
モニターには各局が中継している、八王子高校で発生したスタンピードの様子が映し出されていた。
「おやおや、困りましたねぇ。殆ど有事の際ですら出動しないお気楽部隊と聞いていたから引き受けたのにのに、起きちゃいましたねぇ。唯一私達が対応しなければならない有事が……」
モニター前の席の白髪交じりの男性。
この隊の隊長、
因みにこの髭は胡散臭いと隊員達からは不評である。
「ワァオ!スゴイヨ!!アノ子達!!!モンスターヲ銃火器無シデ殺シテイルネ!スッゴク強ソウ!!――オリバー、イツモ玩具スグニ壊シチャウカラ、今度ノハ楽シミネ!!!」
続いて。
歩兵でヘリコプターの操縦手でもある、オリバー・ジャック・
スキンヘッドで大柄、ボディビルダー体型の英国の血が流れるハーフだ。
「おい!やめろよオリバー、ふざけるな」
そんなオリバーを、唯一の女性隊員で観測手の
頭髪の一部には反り込みが入っている。
規律の上に成り立つ部隊でも無いのでその辺は自由だった。
「えー。――でも皆さん、ボクにこういうキャラ期待してますよね?」
叱られたオリバーは片言を止め、流暢な日本語を話し始める。
かれこれ10年は日本で暮らしている、“
「してねーよ。――お前は、せいぜい裏切りそうで裏切らない面白外国人枠だよ。図に乗るな!」
「ムキー!シツレーネ、ソレ!!オリバー怒ッタ!激オコプンプン丸ネ!!コノ足軽オンナ!!」
「はぁ……。おい誰だぁ!?オリバーに変な日本語を教えたのは???」
「オリバー君、花山院さん、その辺にしときなさい。お仕事中ですよ」
「うーっす」
「すみませーん」
「――もう、緊張感がないのだから……」
宇津見の威厳はこの隊の中ではほぼない。
「で、オッサン、いつ出動するんだよ?――アレだろ?俺らがぶっ殺す魔王ってのは??」
机の上に足を投げ出している金髪の男は、狙撃手の
腕は確かだが普段の素行が悪く、自衛隊では扱いに困っていた人材だ。
「ぶっ殺すって……、板垣君、貴方本当に元自衛官なんですか?」
宇津見は、板垣の乱暴な物言いに飲みかけの紅茶を零した。
「……んん、それはまぁ置いといて。――まだ彼が魔王だと本部は断定していません。それに魔王だとして、本当に我が国の脅威になるかもわからない。あちらの世界の情報は我々には未だ不足しているのです。――問題はそれよりも継承者と思われる存在が、世界中に認知されてしまった事の方です。これで彼らは注目の的、魔王と仲良くしたい人達がこれからわんさか日本へとやってきます。先ず我々がするのは、その人たちのお出迎えすると事でしょう」
「へへ。どの道、人狩り専門の俺達にはぴったりってわけだ」
「……。その通り。その為の“第零師団”なのですから」
第零師団。
自衛隊員の間でも噂レベルの実在するはずの無い部隊。
正式部隊名、対ダンジョン特殊戦闘部隊“第零師団”。
ダンジョン関連に対する軍事行為は認められないという国連の決定の為、やむを得ず政府が秘密裏に組織した、自衛隊とは分離され秘匿された、世界に知られてはいけない部隊の名だ。
軍上層部は政府の要請で仕方なく組織したという面が強く、小隊規模なのに師団並みの予算を持っていく事から、第零師団となじられて、それがそのまま正式な部隊名になってしまったという経緯がある。
存在を知られてはいけないという都合上、少数精鋭の能力重視。
その為、個性が強い人材が自衛隊から引き抜かれて集められていた。
主な任務内容は、有事の際のダンジョンへの攻撃。
国益を害する可能性のある継承者の捕縛、排除。
他国からの継承者への接触行為への介入行動だ。
必要であれば、先制攻撃もする。
ダンジョン大国になってしまった日本を、万が一の際に生き残るために生み出した。
専守防衛の枠組みから外れた、独立愚連隊なのだ。
そして、彼らの仮想敵として設定されているのが魔王なのだ。
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