謎の騎士

 ドドドドドドと。


 地響きが近づいてくる。


 地上には、スライムやパーティ・リザード、ウォーキングツリー、アングリーベア(熊の様な見た目のモンスター)、コカトリス、ドリアード。


 空には、ワイバーンやダンジョンコウモリ、ポイズン・バタフライ(巨大な蝶型のモンスター)。


 過剰期並みに狂暴化したモンスター達だ。


 恐らく会場に来た人達は、実際にこういったモンスターを見るのも初めてのだろう。


 スライムですら、目の前に現れれば足がすくむはずだ。


 逃げ惑う人々。


 その中の一人をモンスターが襲う。


 身体中の特殊な体毛から常時炎を発生させている狼の様な見た目。


 ヘルハウンドだ。


 「うわああああ!?来るなぁ!」

 「せえええい!!!」


 つまずいた男性に、おおいかぶさろうと飛び掛かる四足の大きな影。


 それを俺は水平に斬る。


 鮮やかな赤の血飛沫が俺と男性を染めた。


 「た、助かった……?――って、助かってないいいいい!!!??」


 ヘルハウンドが倒され安心したのも束の間。


 今度は俺の姿を見て怯えだす。


 「あ、ちょ!?俺人間ですから!!モンスターじゃないです!」

 「え!あ、そう……なの??――でも、モンスターを……」

 「兎に角!――ここは危険です。校舎の方に向かってください!!」

 「あ、ああ……。うん、そうだね……。――助かったよ!ありがとう!!」


 男性はその場を離れた。


 か……。


 まさか、この姿で人間に感謝される日が来るとはな――。


 俺は迫りくるモンスター達の群れを睨む。


 かなりの規模だ。


 17年前に起きたらしい“”に匹敵する規模ではないだろうか?


 「いやぁ!?パパ、ママーーーー!!!」

 「ユイ!!!?」

 「ああ!そんな……!!」


 少し離れた所で。


 ワイバーンが親子連れから女児をさらう。


 空高く舞い上がる翼竜に夫婦は成す術が無い。


 く、遠い――!


 どうする――!?


 と。


 「グライシス・ランス!!!」


 「ギヤア!?」


 そんなワイバーンの翼を、春沢の氷系魔術が貫いていく。


 ワイバーンはそのまま体制を崩して落下する。


 「うわああああああ!」

 「ユイーー!!」

 「ユイちゃん!?」

 「任せてぇ……!ちょーい!!」


 春沢が人間離れした跳躍を披露して、落下する女児を受け止めた。


 「え!?何???」

 「もう大丈夫だよ!――そんで、アンタはこう!!」


 そのまま。


 身体を回転させ聖剣で一閃。


 ワイバーンの首を落とす。


 「よい、と!」

 

 出来るだけ衝撃を押えて着地してから、春沢は女児を降ろした。


 「ママ、パパ!!」

 「ユイ!」

 「ユイちゃん!」

 「助けていただいて、ありがとうございます!」

 「お礼なんて良いしー、当然の事っしょ!?」

 「あの……、貴方は一体……?」

 「ん~?正義のミカタ?見たいなwww???――じゃなくて、もう行って!モンスターはまだまだ来るから!!」

 「――あ……、はい!!」

 「それじゃぁ。――行くぞユイ」

 「うん。――ありがとうね!カッコ良いおねーちゃん!!」

 「良いってのーw」


 春沢は返り血を浴びた顔のまま笑顔で見送った。


 数拍置いて。


 手で血を拭いながら、振り返り無言でモンスター達を睨んだ。


 ……。

 

 こんな風に。


 俺達がモンスター達と真剣に戦ている最中。


 「ギャアアアア!?」


 「キュイイイイ!?」


 コカトリスや、パーティ・リザードの断末魔。


 「うぇーいwww良いねー!最高だぜーーーー!!!」


 笠井だけは、水を得た魚の様に生き生きと戦場を駆けていた。


 魔力で地面を滑りながら、手甲の爪、鎧の肘や膝の突起した刃の様な部位、そして尻尾。


 全身の使える物を全てを駆使しては、モンスターをき殺して行く。


 「グルウウウウウウ!」


 「ガアアアアア!!」


 「ああ!?囲まれた!!?」

 「ヒーハー!うぇーいwww」

 「うわあああ!?し、死ぬぅ!!!!!!――って、あれ……???」


 「グルウウウア!?」


 「ガア!?」


 避難者がモンスターに囲まれたところを笠井がと取り過ぎていく。


 「仲間割れ……か?」

 「いや……、あれ片方は人間じゃないか???」

 「そんなはず……。――兎に角、チャンスだぞ!」

 「……ああ!」


 ……。


 俺達は奮闘をするものの中々モンスターの数は減らない。


 「どーなってんの!?全然減らんしー!」

 「流石に骨が折れる……、なぁ!」


 モンスターを千切っては投げていくも、無限に湧いてくる気がするくらいに

終わりは見えない。


 もう、一人頭2,300体は倒しているだろう。


 流石に疲れが見えてくる。


 おまけに逃げ遅れた人を庇いつつなので、迂闊うかつに大技で殲滅という訳にもいかないのだ。


 校舎や地下シェルターには、モンスターが魔力を感知しずらい施しがしてあり、万が一に備え理事長達もいるので、俺達は校庭の敵以外は気にしなくても良いのがせめてもの救いだった。


 「い、いやああ!ああああ!?」


 アングリーベアが丸太の様な太い腕が、逃げ遅れた女生徒に振り下ろされる。


 「しまっ!?」

 「ちょ!?」

 「うぇい!?」


 間に合わない――!?


 駄目だ――!


 俺も春沢も笠井も丁度モンスターを相手にしていた。


 すると。


 「せいいいいい!」


 「グワアアアア!?」 

 

 見たことのない、銀色の甲冑に身を包んだ騎士の様な人物が、女生徒とアングリーベアの間に割り込んだ。


 力強い踏み込み。


 携えた剣で太い首を切り払った。


 だが。

 

 「油断するな!もう一体いるぞ!!――はあああああ!!!」


 今度は何とか間に合って、銀色の騎士の背中を取ったアングリーベアを両断する。


 「……」


 そのまま背中を預ける形でモンスターを相手する事になった。


 「あんた、何者だ……?」


 俺は問う。


 継承者なのは間違いないだろう。


 ただ、今まで見たことのない見た目の甲冑だ。


 聖騎士とは少し違う気もする……。


 おまけに顔はヘッドギアの様な被り物で判らない。


 声から察するに女性のようだが……。


 「……。話している余裕は無い……。今はモンスターを倒すことに集中しろ」

 「あ、ああ……。分かった」


 確かに、楽しく談笑している暇もない。


 素性は知れないがここは、素直に加勢が来たと考えよう。


 折角できた反撃のチャンスなのだ。

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