皇帝の品格

 ランドバース・ラプス・フォルテシア。


 中央大陸にて、小国の反乱を抑え込み吸収、ただでさえ強大だったフォルテシア皇国の力を絶対的なものへと昇華させた。


 大陸の厳父。


 27代続いた皇帝の家系で、最も冷酷で最も国を落としたと恐れられた人物だ。


 そして。


 暗黒大陸への進行を決定した張本人でもある。


 「そんな……!?秋名さんが……。――でも、皇帝ランドバースは途轍とてつもなく魔族を恨んでいるって……。それにかなりの暴君で、気に入らなければ人間、魔族問わずにすぐに首をはねるって……」


 そうだ。


 聞いていた話と全然違う。


 これでは、俺みたいな只の小心者ではないか――。


 「あ、それ全部私が流させたプロパガンダです。――から、その人にそんな度胸ありませんから」

 「え」

 「そうなんだよぅ。フォルテシア家は女系の家系。僕なんて政略結婚で選ばれた只の婿養子だし……、すっごく肩身狭かったんだからぁ……」


 秋名さんは涙目になりながら俺の脚にすがりついた。


 「マジか……」

 「――ですので、私が陰から国を動かしていたのです。こんな皇帝では直ぐに革命を起こされますから……」

 「ちょっとは……、頑張りましたよ?」

 「誰かがもっとしっかりしていれば、モルガリアにも付け込まれなかったのですよ?」

 「それは……、おっしゃる通りです……」

 

 そんな事実を知っていれば、魔族側も強気に出ていただろう。

 

 「え……、待ってよ……。アキナーが皇帝陛下って事は……」

 「春沢……」


 ルクスフィーネの継承者の春沢も、この状況は複雑なはずだ。


 「アキナーはウチの血が繋がらないパパってこと!?」

 「その言い方はちょっと、色々勘違いされそうだからやめようね?」

 「でも、ウチの知ってる皇帝陛下も、めっちゃ怖くてキビシかったと思ったケド……」

 「彼もそれなりに少しは涙ぐましい努力はしていたのです。外面だけはどうにか取り繕えたのでしょう。なので彼の本質を知るのは、私と26代目皇帝マリアネイルと侍女ぐらいでした」


 26代目皇帝マリアネイルは、ルクスフィーネ達の母親でもある。


 ただ、身体の方が弱く皇帝でいた期間は少なかった。


 だから、表向きの皇帝としてランドバースを立てたと言うワケか。


 「僕は元々平和主義者なの!本当は魔族と戦争だってしたくなかったんだからぁ――だから、殺さないでぇ~」

 「殺すも何も前世の話ですし……、それに戦争の原因がモルガリアだってのも分かってますから……、別にそんな……」

 「――見逃してくれるの?後で、暗殺とかしない???」

 「しないですって」


 いや、待てよ……。


 ここで俺の中に黒い感情が芽生えてしまう。


 この状況はチャンスなのでは――?


 「おろろろろ……、前世デ人類軍ニ受ケタ古傷ガァ……、許サナイ、許サナイゾ……!」

 「ああ!やぱっり……、もうおしまいだぁ」

 「あ、でも、ソロモン72のライブのチケットが手に入れば、許してしまうやもしれぬ……」

 「え?そんなので良いの??」

 「鱶野あんた……」

 「はう!?」


 春沢がゴミを見るような眼で俺を見ていた。


 「い、いいだろ!?魔王たってロクな事なかったんだから、たまにはこういう美味しい思いしたってー!!」

 「12月のなら、VIP席がまだ空いてるけれど、それでも良いかな?」

 「まじで、良いんですか!?」

 「ちょっと!アキナー!!」

 「はい!?」


 春沢が睨む。


 春沢はギャルの癖に変なところが真面目である。


 それにルクスフィーネ視点で見れば、このやり取りは到底許せないのかもしれない。


 「……じゃぁ、ウチの分も。」

 「あ、はい」


 そんなことは、無かったのだ。


 ……。


 ……。……。


 ……。……。……。


 「――一応。秋名さんも我らグラウベン機関の一員という事で、紹介させていただきました」

 「あ、そういう話だったんですね」

 「まぁ、在籍しているだけで何か役割があるということも無い只の置物ですけれどね」

 「ちょっとぉ!有栖院CEOそれは酷いですてぇ」

 「「www」」


 話を聞くと、秋名さんがアイドルグループの事務所を立ち上げようとした時に、たまたま、有栖院財閥に資金援助を願い出て、そこで継承者という事が分かったらしい。


 と、言うかソロモン72のバックには有栖院財閥が付いていたのか……。


 俺にとってはそっちの方が重要だった。


 もしも、理事長が資金援助をしていなければ、ソロモン72は誕生していなかったかもしれないのだ。

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