純麗祭6

 「すいませーん!巡回中の文化祭実行委員です!!道を開けて下さーい!!」


 人の波をかき分けて。


 俺と春沢は、声のする方へと急行した。


 「お!気が強いねー!!益々スカウトしたくなってきたぞ!ちょっとで良いから僕の話聞いてよ~。先っちょだけ、先っちょだけだからさー」

 「くっそ、だからすり寄ってくんなって!殴るぞ!?」

 

 サングラスにマスクをした中年男性。


 明らかに不審者である。


 「一般の方の迷惑になるので、声かけ行為はおやめください!」

 「ちょっと、おっさん!嫌がってるっしょ!!大人しくしないとケーサツ呼ぶよ??」

 「な、なんだい、君達は?迷惑だって!?ち、違うぞ!?僕は今ダイヤの原石をだな……」

 「何がダイヤの原石だ!急に人の腕掴んできやがって!思わず“きゃぁ!”とか言っちまったじゃねぇか!?殺すぞ!」


 絡まれていたのは、小此木姐さんだった。


 こちらもこちらでサングラスにマスクをしていた。


 「って!絡まれてるの凛子じゃん!!」

 「春沢てめぇ。下の名前で呼ぶなっつたんだろ!てめぇも嫌なくせに……」


 そうなのか。


 「――で、姐さんは何故ここに?」

 「鱶野もその呼び方すんじゃねぇ……。――敵の威力偵察だ、悪いか!?」


 それで、サングラスという訳か。


 小此木もなんだかんだで、クラスの出し物に本気となのだ。


 「へぇ、君。リンコちゃんって言うのかぁ。良いね良いね。そういうギャップはキャラ付けには大事だよぅ!是非ウチに来て欲しいねぇ!!」


 中年男性は、タコの様に小此木にへばり付いている。


 「だー!もう付き合ってられっか!!鱶野こいつをどうにかしろ!」

 「承知!――ちょっと失礼します、よ!!」


 俺は、クネクネしているオッサンを背中から掴んだ。


 「のわぁ!?僕の邪魔をしないでくれ!!離せーい!」

 「わ!暴れないで下さい!!他のお客さんに迷惑ですから!」

 「くっそ、これでもくらえ!」

 「ひん!?」

 「おおう……」


 小此木は離れたすきに金的をかまして、それが見事にクリーンヒットする。


 野次馬の中の男達も釣られて股間を押えていた。


 「お、おおん……。これも試練とあらば、一興……」


 このオッサンしぶといな……。


 「オッサンさー、ここキャバクラとかと勘違いして無い?取り敢えず、警備のせんせーのところ、連れてくかんねー!」


 そして。


 「ん!?君もちょっと……、いや、すっごく良いよー!是非ウチに欲しーな!!」

 「え!?ちょい!!??」

 「あ!オッサンあんた!!」


 せっかく小此木から引きはがしたのに。


 今度は春沢の腕を掴んだのだ。


 「ちょいいー。キモいってのー!!!」

 「そんなこと言わずに、話聞いてよー」

 「ホントに大人しくしないと、こっちも少し怒りますよ!?」


 俺はまた後ろから羽交い絞めにする。


 「鱶野!手加減なんかすんな!!殺っちまえー!!!」


 それは、流石に……。


 と。


 「――こんな所に居たのですか……」


 この声は……?


 振り向くと。


 人混みの中から、有栖院理事長が現れた。


 心なしか通行人が避けて、自然と道が出来ているような気がした。


 「げ!有栖院CEO!?」

 「え……?」


 どうやら、このオッサンは理事長の知り合いらしい。



 ※※※



 俺と春沢とオッサンは、理事長室へと通されていた。


 「――秋名さんも顔が売れているのですから。スカウトするのでしたら、その様な変装などせずとも普通にしたら良かったのでは?」


 ん?秋名って何処かで聞いたことが……。


 「いえいえ。僕は彼女たちの自然な反応を見て、判断したいのです。――正直、自分まで有名になってしまったのは、この秋名徹平あきなてっぺい、一生の不覚です」


 そう言って、サングラスとマスクを外した。


 あ!?


 俺はなんて、無礼な事を……。


 さっきまで俺が不審者扱いしていた男性は、信長先生と同じぐらい崇めている、ソロモン72の総合プロデューサー、秋名徹平その人なのだ。


 「申し訳ございませんでした!」

 「ちょ!鱶野ーーーー!?」

 

 俺は速攻土下座をする。


 「俺、ソロモン72の大ファンなんです!その生みの親プロデューサーに何たるご無礼を……!!」

 「え!?ちょ!まじぃ!!?うっわwホントにアキナーじゃんwww」

 「あ!コラ、春沢失礼だろ!!」


 秋名さんは、アキナーと呼ばれタレント活動もしたりしているのだ。


 「いや、分かってくれれば良いんだよー。僕もテンション上がちゃってたし」


 なんて、心が広いんだ。聖人かな――?


 「ほら、春沢もさっきの事を謝罪しろ!」

 「は!?なんでウチが!!?」

 「謝罪なんて良いからさぁ。ハルサワちゃん?一回ウチの事務所のオーディション受けてみない?特別枠でねじ込むからー」

 「うわ、またー!?」


 先程の様に、秋名さんが春沢の手を取る。


 俺は今、新たなアイドルの誕生に立ち会っているかもしれないのだ。


 「良かったな春沢!」

 「全然良くなーい!!」

 「そこをなんとかー」


 秋名さんの執念深さが眩しいぜ。


 「あのぉ」

 「あ!?いえ、スミマセン。――明日の最終確認の話でしたよね!?」

 「それもあるのですが。――丁度良いので紹介しておきます」

 「?」

 「?」

 「?」


 紹介?


 誰の事だろう――。


 最初の方から部屋の角で家具の様に待機している助六氏……、ではないだろうし。


 この部屋に五人以外の人はいない。


 「――彼女がルクスフィーネです」

 「は……?」

 「ちょ……!?」

 「え”……?――って君、ルクスフィーネなのおおおお!!!?――嘘おおおおおおん!!!?」

 「本当ですよ」


 ルクスフィーネの名を聞くと、秋名さんは大きく後ずさりをした。


 驚き方が尋常じゃないぞ。


 一体どういうことだ――!?


 「そして、そこの男子生徒……、鱶野君は、魔王リベリアル・ルシファードです」


 って理事長、俺の事まで――!?


 「え”?」


 すると。


 秋名さんの眼から光が消えた。


 脱力して、地べたにへたり込んだ。


 「だ、大丈夫ですか!?」

 

 俺は心配になって、咄嗟に近づいた。


 「ひいいいいいいいいい!!!?こ、殺さないでえええええええええ!!!!???」

 「えええええええ!?」


 今度は秋名さんが俺に土下座をしたのだ。


 「今までの事は全部謝罪します!だから!!命だけは何卒ーーーーー!!!」

 「え?いや、止めて下さいって!俺には何の事だか……」


 え、何?俺に殺されると思ってるのか――?


 「やはり気付いていませんでしたか。まぁ、魔力の気配の消し方を教えたのは私ですが。――その方は、フォルテシア皇国第27代皇帝。ランドバース・ラプス・フォルテシアの継承者です」

 「ランドバース……」

 「……ラプス・フォルテシア」


 おいおい、冗談キツいぜ――。

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