純麗祭5

 「まさかパトロール中の自分達が問題に巻き込まれるとはな……」

 「りじちょーが宣伝とかするから、ヨケーに変なのが増えたんじゃない?」

 「まぁ、確かにそれもありそうだな」


 俺達は、身をもって巡回の重要性を確認したことで、より一層真剣にこの仕事に取り組むのだった。


よしもー『なんかさっき、一年の教室前でナンパ事件が起きたらしーぜw』

ツッキィ『マジか!?』

金色夜叉『あ、確かに教室の外が騒がしかったわ』

MOZ『文化祭っぽくて良いね~』


 純麗祭にのライブ配信は、コメント欄は半分八王子高生のSNSと化している。


 「さっきの事が早速噂で広がってるぞ」

 「ま!?うわぁ……。さいあくー……」


蛇男『現場の蛇男だ。今し方、そのナンパ事件に遭遇したかもしれん』

ナックス『へぇー。誰がナンパされてたん?』

蛇男『一般客故生徒名は分からんが……、二人の男女を六人組の男達が「※※※ー!!」と言って追いかけていたぞ!この“※※※”とはもしや、ネットで有名な※※※ではないか』

よしもー『肝心なところ伏字かよ!』

蛇男『あれ、ちゃんと※※※って打ったんだけど……』


 ん?何だこの書き込み――?


 “※※※”って“ギャル沢”って打とうとしたのか?


 確か前に、環さん達が俺達の個人情報が流出しないようにネットの書き込みを監視しているとか言ってたけど、まさかリアルタイムで――!?


 一体どんな仕組みなのだろうか。


 今度聞いてみよう。


 などと。


 考えていると。


 「今映ってるの二年生の廊下じゃん」

 「え!?」


 コメント欄に気を取られて配信画面に気が付かなかった。


 しかも、かなり近い。


 画面奥に既に映り込んでいる――!!


 「これ、ヤバくね?」

 「ああ、かなりな!」


 どうする――!?


 逆走してもドローンカメラが付いてきたら意味が無いし、二年生の教室に入ってもそれは同じだ。


 絶対にカメラが入り込まない所に逃げなければ……!


 俺は廊下脇の掃除用具用のロッカーが眼に入る。


 迷っている時間はもう無いぞ――!!


 「春沢、こっちだ!」

 「あ!?ちょい!!?」


 俺は春沢を照れて、周囲の視線を集めないように急がず着実に人の波から脱する。


 その間にもライブ配信中のドローンカメラは近づいてくる。


 「ロッカーを開けて、掃除用具を探すをしてくれ……!」

 「は!?分かったケド……?」


 緊迫した空気が伝わったか春沢は素直に俺に従った。


 そして。


 誰もこちらに視線が向いていない事を確認する。


 瞬間。


 「春沢、許せ!」

 「あ!ちょぉ……!?」


 南無三――!


 俺は勢い任せに春沢をロッカーに押し込んで、自分も入っていった。


 不安だったがギリギリで二人分すっぽり入る事が出来た。


 ロッカーの通気口から周りを見渡す。


 どうやら、気が付かれてはいないらしい。


 しかし。


 入る瞬間にひと悶着あって、向き合う形となってしまった。


 俺の体系のせいもあって完全に密着してしまっている。


 兎に角、これでカメラが過ぎるまでやり過ごすしかない。


 ……。


 ……。


 ……。


 「……」

 「……」


 な、なんだこの沈黙……?


 何か喋ろよー……。


 いや、バレるかもだし、あまりそれも良くないか……。


 しかしこれだと、こちらも余計に意識してしまう……。

 

 春沢の体温は意外と高かった。


 むぅ。


 それに何とは言わないが……。


 何とも柔らかい。


 これは、健全な男子高校生には刺激が強すぎる。


 「んん……」


 な!?意識しているのがバレたか――!?


 いや。


 こちらから見ると。


 俯く春沢の顔が紅く染まっている様に見えるように見えた。


 まさか、春沢も……。

 

 そんな風に考えながら。


 交互に漂ってくる春沢からする柑橘系の良い匂いと、掃除用具からするすえたカビの様な臭いにクラクラしていると。


 「(ちょっと……、んですケド……?)」

 「(は!?)」


 不意に声を掛けられて、我に返る。


 「(まさか、鱶野……)」

 「(ち、違うぞ……。これは……、俺の腹だ!)」

 「(ふーん?)」

 

 な!?なんだその目は――!?


 さっきまで春沢も、恥ずかしがってただろ。


 なんでこっちだけ意識しているみたいに……。


 俺は硬派なオタクで紳士なのだ。


 の配慮はしっかりしている。


 現に頭の中を今後の日本経済の事で一杯にして、ぼっ起しないように心がけていたのだ。


 寧ろ、褒めて欲しいくらいである。

 

 と。


 冗談はそのくらいにしといて。


 人通りが減ったタイミングで、俺達はロッカーの中から脱出した。


 ……。


 ……。……。


 ……。……。……。


 巡回時間もそろそろ終盤。


 三階の三年生教室前廊下。


 先程の件は、まだ尾を引いていた。


 「さっきは鱶野のお陰で大変な目に遭ったし……」

 「は!?俺のせいじゃないだろ!?」

 「えー?でもロッカーに押し込んだじゃん??」

 「あれは、仕方なくてだな……」

 「本当ー??それだけー???」


 春沢は白い歯を出してニヤニヤしている。


 く……、コイツなんのつもりだ――!?


 「後で小鈴達に報告しよーっと!どさくさに紛れて触られたってー」

 「あ、待て!それは……!!」

 「ええー!?どうしよっかなー??」


 宮越達に報告なんてされれば、それは忽ちクラスに知れ渡る事になるだろう。


 そんな事になれば、せっかく確立され始めた俺の地位(あってない様な物)が崩されかねない。


 何としても阻止せねば……!


 ハッ!?か……!!


 「……。わ……、わかった。――後で、クレープでも何でも奢るから……」

 「本当!?うわ、ラッキーwww!!」

 「くぅ……!」


 なんて悪女なのだ。


 どうしてこんな奴を俺は……。


 何だか今日はダンジョン探索より疲れた気がする。


 だが。


 「あん!?おっさんしつけーって言ってんだろ!!」

 「な!?」

 「今度は何だしー」


 最後の最期でもう一仕事ありそうである。


 

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