純麗祭4

 「な、なんだぁてめぇ!」

 「純麗祭を楽しんでいる他の方に迷惑なので、ナンパ等の声掛け行為は止めて下さい」


 出来るだけ穏便にしたいが、相手も数の力で押そうとしている。


 「鱶野……」


 春沢が俺の制服の袖を掴んだ。


 こちらも少しは強気な態度を示すべきだろう。


 それに、危害を加えようとする相手に気を遣う必要も無いのだ。


 幸い。


 俺は体格のお陰でキョドらなければ、そこそこの威圧感はある。


 これで納まると良いのだが……。


 「ちぃ……。ん……。コイツ……、ネットで有名なあの“ギャル沢”に似てないか!?」

 「は!?――いや……、たしかに!そうかもw」


 男達は注意深く春沢の顔を観察する。


 な!?しまった!今度はか……!!


 「は……はぁ!?な、何の事か分からないんですけどぉ……!?」

 「写真撮ってネットに上げてみよーぜwww」

 「お!イイネwバズるんじゃね!?」


 男達がスマホを向ける。


 「え……?や、やめ……!!!」

 「止めろ!アンタら!!」


 春沢を覆うように、カメラを背にして射線を遮る。

 

 そして。


 「……仕方ない!戦略的撤退をするぞ!!春沢!!!」

 「え!?ちょぉ!!??」


 走る。


 俺は春沢の手を引き、人混みに紛れていく。


 何事かと、周囲の来場者の注目が集まってしまう。


 最悪だ……。


 「あ!?おい!!ちょっと待ってって!!!」


 ナンパ男達も負けじと追いかけてくる。


 ……。


 ……。……。


 ……。……。……。


 「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……。――もう、追ってきてないか……」

 「うう……。吐きそ……」

 「これで、分かっただろ……。身バレの危険性が……!」

 「肝に銘じマス……」


 必死に撒いていたら二年生の教室がある二階の廊下まで来ていた。


 廊下の突き当たり。


 調理室まえの廊下で休む事にした。


 ここなら人通りもほぼ無いのでゆっくりできる。


 二人とも全力疾走をしたので膝に手をつき、肩で息をしていた。


 すると。


 「実行委員様じゃねぇか。どうした?そんなに疲れて??」

 「鱶野君と春沢さん!?どうしたの!!?」


 二人の男女に声を掛けられる。


 ――!?


 「――って玄内か……。――あ、いや……、ちょっとな……」

 「ナンパ男から……、逃げてきたん……」

 「マジかよwww!?へへ。そいつは、災難だったなw」


 声の主の一人は、鍋奉行のゲンナイ……、もとい、相撲部の玄内信男げんないのぶお


 ドレットヘアがトレードマークで、俺の更に二回りくらいデカい巨漢の持ち主だ。


 両手に屋台で買ったであろう、たこ焼きやクレープを持っている。


 それと。


 「え……?誰……??」

 「ひど!?」


 大人びた綺麗な顔立ちに、胸の辺りまである長い黒髪。


 俺達の事を知っている様だが心当たりがない。


 「私よ!わ・た・し!!」

 「え……!?」

 「ちょ……!?」


 そう言って、彼女は芋っぽい眼鏡を掛け。


 ヘアゴムで髪を束ねた。


 「調理班の谷田千代梨よ!」

 「マジか!?」

 「うっそぉ!?」

 「詐欺だよなぁ、これ?」

 「うるさいわねぇ。敵陣を視察してたんだから、変装は基本でしょ!?」


 変装だったのか………、それ。


 如何やら二人は、ライバルクラスの出し物を調査して回っていたみたいだ。


 しかし、あの谷田がこのような逸材だったとは。


 「ええー。いつもコンタクトでいれば良いのにー」

 「嫌よ、めんどうくさい」

 「あ!!こっちにいたぞーーーーー!!!!」

 「またかよ!」

 「もー!しつこい!!」


 まだ、巻ききっていなかったみたいだ。


 「おう?あれか??春沢を狙うナンパ野郎ってのは???」

 「そうだが……」

 「……っへへ!食後の運動には丁度良さそうだぜ!!」


 玄内はそう言って、持っていた食べ物を一瞬で平らげた。


 コイツ、何をする気だ……!?


 「いや、待てお前、何するつもりだ!?」

 「へへwwwまぁ見てなって!」

 「なぁ!?デブが二人に!?」

 「構わねぇ!数はこっちが上だ!!」


 ナンパ男たちがこちらに向かってくる。


 「一丁、稽古でもつけてやるかwはっけよーい……」

 

 玄内が右脚を振り上げる。


 この男見た目以上に身体が柔らかい。


 I字バランスくらい脚が開かれている。


 「のこったぁ!!」


 ズシンっと。


 思い切り踏み込むと落雷の如く、床が振動すた。


 「はうわ!?」

 「の!?」

 「ぎゃ!?」

 「あ!?」

 「ちょ!?」

 「なぁ!?」


 それに驚いたのかなんなのかは知らんが、男たちは一斉にその場に転んだ。


 「いってぇ!」

 「あいたぁ!」

 「っつぅ……」


 後頭部を床に打って見悶えていた。


 「マジか……」


 まさか衝撃波とか出て無いよな……?


 「おいおいwまだ準備運動だってのwww!――タニチヨ!出番だぜぇ!!」

 「仕方ないわねぇ!」


 と。


 今度は谷田が制服のポケットから調理用の小瓶を取り出し、近づいていく。


 「これでも味わいなさい!」


 サーっと、中からは白い粉。


 順々に男達の口へと流し込まれる。


 「てめぇ、何!?ん??旨ぁ!!????」

 「は!?なぁ!?うんめぇ!????」

 「やめろ!なにすん……。!?お"!?」


 白い粉を口にしたとたんに身体がビクンビクンと跳ね出した。


 「お"?お"お"🖤!?」

 「んんん🖤???」

 「あひぃぃん🖤」

 「キモ…」

 「おおう……。大丈夫なのか?これ……??」

 「私の裏ビストロ・アーツで作り出した、濃縮旨味調味料よ。――数分は、脳が旨味成分で混乱するくらいで人体に害はないわ」


 こっわ――!


 と言うか、なんだ裏って――。


 「すっご!――でビストロ?なんちゃらって何……?」

 「俺も知らん……」

 「後は俺達に任せて、鱶野達は実行委員の仕事に戻りな」

 「あ……、ああ。助かる……」


 俺と春沢は、ヤバい絵面のナンパ男達を残して仕事に戻った。

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