純麗祭3

 巡回中。


 もうすぐ昼近くなる。


 いつもなら十分な広さが確保されている廊下も、今は空いているスペースを見つけながらでないと、まともに通れない。


 理事長による事前宣伝の甲斐もあってか、例年よりも来場者は多かった。


 今日は午後から、本来純麗祭の目玉であるはずだった、実行委員会側で招致したお笑い芸人のライブが開催される予定だ。


 それ目当ての人もいるだろう。


 「うひゃぁー。すんごい人いるねー!夏のコミックパレード?くらいいるんじゃね??」


 春沢が眼を丸くする。


 「流石にそこまでは居ないだろうが。――確かに、移動する分には近いものがあるな」

 「でっしょー!?」


 二人とも腕には“文化祭実行委員巡回中”と書かれた腕章。


 人の波をかき分け進んでいく。


 ……。


 時々、すれ違う人が俺と春沢の顔をジロジロと見てくる気がする。


 春沢はまぁ分かるが……、何故俺まで――?


 カップルに見えているとか……。


 嫉妬の眼を向けられている――!?


 いや。


 自意識過剰が過ぎるか……。


 俺も文化祭で浮かれている様だ。


 それよりも、警戒しなければならないのが身バレだ。


 ライブ配信だけでなく、普通に来場者の中に俺達の事を知っている奴がいたっておかしくないのだ。


 出来るだけ目立たないようにせなばならん――。


 メイド・執事喫茶にお化け屋敷、焼きそばやたこ焼きの出店に脱出ゲーム。


 道中の誘惑に惑わされる。


 それだけ、どのクラスも力が入っている証拠でもあった。


 「あー、クレープ……。おいしそー……」

 「今は巡回中だから、駄目だぞ?」


 自然と、クレープの屋台に吸い込まれていく春沢を引き留める。


 「ええー?少しくらい良ーじゃーん!」

 「明日は空き時間が少しあるんだから、その時にしろ」

 「むーーー。クレープ……」

 「……。たくっ」

 

 俺は、春沢が暴走しないように見張りながら巡回していく。


おやさいさん『お、結構人いんじゃんw』

戯言『文化祭かー、懐かしいな……』

ざっくん『お!今映った子、かわいくね???』

プリティ♡りりぃ『2年3組ダンジョン喫茶、ぜひ着て下さーい♡』

熊『明日ソロモン72が来るらしーじゃん』

マージル『マ??』

ルバンダ『うわwどうしよー。行こっかな……』


 「何に見てるし?」

 「純麗祭のライブ配信」

 「へー。――って3万人も見てんじゃん!?鱶野のチャンネルより人いるし……」

 「う、うるさいわい!」 


 敢えて気にしないようにしていたのに……。


 俺は、巡回しながらスマホで文化祭のライブ配信を見ていた。


 こうすればドローンカメラが何処にいるのか把握できるからだ。


 「春沢もライブ配信には写りこまないように気をつけろよ?」

 「ええー、めんどくない??」

 「おまえなぁ……。ネット上のファンにストーカーとかされても良いのか?」

 「ちょwwwファンとかwあり得ないしー」

 「……」


 どうやら春沢は自分のネット人気に気付いていないらしい。


 ここは俺がしっかりせねば……。


 「ちょw今すれ違った子可愛くねwww?ナンパしよっかな」

 「お!いけいけ~www」

 「む……」


 などと考えているそばから早速。


 「ねぇねぇ、ちょっとぉ。お姉さん、僕達と話そうよーwww」

 「……」


 うわ、来やがった――。


 春沢は無視をしている。


 「ち、ねえー、ちょっとで良いからさー」

 「実行委員会の腕章付けてる君だよ?」


 周りにナンパ男の仲間が集まってくる、6人くらいに囲まれる。


 顔はまだ幼い。


 同年代くらいか?


 「ちょっとさ~、文化祭の案内してよwww」


 一人が春沢の肩を掴んだ。


 「ウザいっての!触んな!!」


 キレて腕を振り払う。


 「あ!暴力!!この人暴力を振るいましたwww」


 輩は大声で事を大きくしようとした。


 不味いな――。


 「ちょっとそのくらいにしてくれないスカ?」


 俺は男達と春沢の間にズイっと割り込んだ。

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