純麗祭2

 「――ってな感じでー、準備の方も万端なようなんで……、お前らー、しっかり純麗祭を楽しめよ!」


 最終確認を終え、今市が珍しく教師っぽい事を言ってミーティングが終わろうとする。


 「と、」


 ん――?


 「せっかくなんで、実行委員から景気付けに盛り上げて貰って終わるかー。――じゃ、鱶野からな」

 「な……!?」


 は!?お前はそーいう青春っぽいノリを奨励するタイプじゃないだろう――!?


 前世ならまだしも、今の俺はそーいうのが一番苦手なのだ。


 さては今市貴様、昨日学園ドラマとか見て影響されたな?


 クラスの連中の視線が一気に集まる。


 責任重大だぞ……。


 ただでさえ人前で緊張しているのに……。


 このまま終わるものだと思って完全に油断していた。


 皆、静かに俺の事を見つめている。


 これは、失敗できない……。


 場を萎えさせるような事があっては、彼らの今日明日のパフォーマンスに影響し兼ねないのだ。


 この数週間で俺に培われた、陽キャのテンションに合わせるスキル空気を読む力が試されていた。

 

 良いぜ、やってやる――!


 行くぞ!!


 「よっひゃー……」

 

 あ……、噛んだ。


 「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」


 しくった……!!


 心なしか皆の目線が冷たい。


 「あ、や……。今のは、ふざけた訳じゃ無くて……」

 「ぷふw」

 「――て、え???」


 横にいた春沢が急に吹き出す。


 「ふwww」

 「ちょw」

 「うっわやりやがったw」


 それに釣られて、他からも声が上がる。


 「――何だし今の?もしかして皆の緊張を解こうとしたん??」

 「あ、いや……」

 「生意気だぞ、鱶野ー」

 「www」


 そうか、こいつらも緊張していたのだ――。


 それもそうだな――。


 この一か月、皆本気で準備に取り組んでいるのを俺は見てきた。


 不安なのは――!

 

 「んん!!!では気を取り直しましてー。――よっしゃー!準備の方も完璧だしダンジョン喫茶、成功させっぞー!!!」

 「「「「「「「「「おー!!!!!」」」」」」」」」」

 「そんで、純麗祭イベントランキングで優勝するっしょー!!!」

 「「「「「「「「「おー!!!!!」」」」」」」」」」


 クラスも一丸となって、いよいよ俺達の純麗祭が始まった。


 ……。


 ……。……。


 ……。……。……。


 一般入場が開始してから一時間ほど。


 客の入りはまずまずと言った所だ。


 喫茶店だけあってモーニングセットなんかもあるので、それ目当ての客が多かった。


 特にマンドラゴラのコーヒーは人気である。


 また、調理室ではかき入れ時の昼に備えて、仕込みが行われていた。


 「……」

 「おるぁ!てめーら手を動かせー!!次の次の行動まで考えて行動しろー!?」

 「「「「「「「「イエス!シェフ!!」」」」」」」


 凄い。


 右手と左手で別の料理の調理をしている……。


 調理班のメンバーは、既に人間を辞めていた。


 そのお陰で、豊富なメニューにもこうして対応できているのだが。


 因みにメニューの方は、クラス全体でちゃんと決めた。


 笠井達に任せるとコース料理とか出すからである。


 しかし。


 「まさか、笠井がラーメン以外も作れるとはな……」


 俺はコカトリスを捌いている笠井に話掛けた。


 「うぇーい。クックレシピ(料理のレシピが投稿されるSNS)ってのを見れば一発よwww」

 「マジか……!?」


 確かに調理法はそれでも十分かもしれないが、完成した料理は明らかにその域を越えていた。


 流石、天空魔将ギルバトスの継承者。


 前世のアイツも1教えれば、10こなすような奴だった。


 なので、当然といえば当然か――。


 「あ!鱶野!!こんなとこにいたし!もー、メッセみろよー」

 「ん?春沢か」


 一体なんの様だろう?


 わざわざ、俺を探しに来たようだ。


 スマホにはメッセの通知が溜まっていた。


 「もうすぐ。ウチらのの番だよ!?」

 「あ!」


 すっかり忘れていた。


 実行委員長は、交代で純麗祭の巡回パトロールをしなければいけないのだ。


 正直。


 実行委員会の仕事が忙しくて、文化祭をゆっくり見られるのは、この時くらいしか無いのだ。


 俺は交代の引き継ぎをしてから、春沢と一年のクラスから見て回る事にした。


 

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