純麗祭

 純麗祭当日。


 外はまだ薄暗い。


 太陽は顔を出したばかり、やっと朝焼けが空を照らしはじめたというところ。


 普段は都市を動かすために、血管の様に張り巡らされた道を行き交う車たちも、今はなりを潜めて数も少ない。


 寒い――。


 秋の半ばの早朝に吐く息は白かった。


 校舎玄関にて春沢と一緒になる。


 「はよう。春沢ー」

 「おはよ、鱶野!昨日はちゃんと寝れたかー!?」


 俺達は昨日も遅くまで残って純麗祭の準備をしていた。


 「おいおい、ガキじゃないんだぞ……」

 「ええ!?ウチなんて、楽しみ過ぎて全然寝れなかったんですけど??」


 春沢は、その熱が冷めていないのだろう。


 朝っぱらからハイテンションだ。


 「子供か」

 「ちょい!鱶野ってば生意気だぞーーー!」


 腹の肉をワシワシされる。


 ……。 


 実の所は、俺も三時間くらいしか寝れていなかった。


 楽しみにしていたに決まっている――。


 なんせ、あのソロモン72のライブだってあるのだから。


 まぁ、それは明日の最終日の眼玉なのだけれど。


 それにはまず、今日をきっちり乗り切らねばならんのだ。


 純麗祭当日も実行委員の俺達はやることが目白押しだ。


 その為に今日も普段より早く登校してきていた。


 グラウンドで行われるメインステージの手伝い、ダンジョン喫茶の運営、校内の見回り。


 そして、……。


 不安要素も無くは無いが、取り敢えずやるべきことからこなしていこう――。


 ……。


 ……。……。


 ……。……。……。



 校庭グラウンド。


 メインステージに全校生徒が集まっている。


 「――それでは!!これより、第25回純麗祭~八高魂アゲアゲ!ウェーイwww~を開催します!!!」


 少し長めの前口上の後に、


 ステージ上の文化祭実行委員長が盛大に開催宣言をした。


 スローガンには苦言を呈したいところだが、今はスルーしておこう。


 陽キャなBGMと花火の演出。


 バックのスクリーンには、プロジェクションマッピングでなんか良い感じにデコレーションされている。


 当初はここまで派手では無かった。


 有栖院理事長の計略だ。


 「「「「「「「「「「「ウェーイ!!!!!!」」」」」」」」」」」


 それを知ってか知らずか。


 会場は大盛り上がり、バイブスぶち上がりの縦ノリである。


 ドローンカメラがその風景を俯瞰ふかんで撮影していた。


 純麗祭の様子をネットでライブ配信しているのだ。


 これも理事長の提案だ。


 これで宣伝して、集客率を上げようという目論見である。


 「マズい……!」


 カメラが生徒側を向いたので俺は急いでしゃがんでやり過ごす。


 「ん……?鱶野、腹でも痛いか??」


 後ろにいた水道橋が心配する。


 「……。くくく……。古傷が疼いてな……、気にするな……!」

 「なんだそりゃ???」


 流石にのだ。


 である。


 この危険性は分かっていたことで、帝さんや環さんも反対していたのだが……。


 “映り込まなければ良いではないですか”と一脚された。


 最早、彼女は鳳凰院氏との対決の事しか頭になかった。


 なのでこうして、隠れる必要があったのだ。


 「――これにて、純麗祭の開催式を終わります」


 30分程で開会式は終了する。


 閉式のアナウンスが流れると、各々教室に戻っていった。


 ……。


 ……。


 ……。


 午前9時00分。


 教室の飾り付けは完璧だ。


 ダンジョンの中に喫茶店を作ったという設定で、机や椅子は、ウォーキングツリー(木の様な見た目のモンスター)の切り株をイメージしたデザインになっている。


 少し暗めの照明に、危なくないように足元には、ダンジョンに自生する光源植物をモチーフとしたランプがまばらに設置されている。


 他にも、モンスターを型どった人形が至るところに置かれていて、ダンジョンっぽさ満点だ。


 その中で俺達は、最終ミーティングを行っていた。


 いよいよ、一般入場開始まで残り30分を切った。

 

 


 


 

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