文化祭戦争
純麗祭まで残すところ、あと五日。
栄光の11人が一般生徒を拉致して、メニュー開発の試食役にしていたり。
それのせいで、家で出てくる料理が喉を通らなくなったと苦情が来たり。
家庭科の先生が、彼らによって精神を病み、保健室で環さんによるメンタルケアを受けるようになったり。
校内の不良グループが二つほど解体され、笠井組となったりしたが。
概ね順調にクラスの出し物の準備は進んでいる。
と言うか、この辺りになって俺達も生徒会も、栄光の11人をコントロールする事を諦めていた。
治外法権を得たのだ。
まぁ。
俺にとってそんな事は、最早どうでも良くなっていた。
それらを越える重大なニュースが舞い込んできたからだ。
放課後。
俺は居ても立ってもいられず、事の爆心地であろう理事長室に春沢と乗り込んでいた。
「失礼します!理事長先生!!あの話は理事長先生が持って来たって本当ですか!?」
ノックと同時くらいに扉を開けて、部屋に入る。
「ちょ。鱶野興奮しすぎw」
「――おや、鱶野君に春沢さん……、今は来客中ですよ?――と言うよりも、事前連絡も無しに来られては困りますが……」
自分だって人の予定なんか気にしないで、用があるときは呼びつける癖に……。
しかし、今日はそんな事は良いっこなしだ。
それよりも。
「だって仕方ないですよ!あのソロモン72が純麗祭に急遽やってくる事になったんですよ!?そんなの聞いたら、どういう経緯でとか知りたくなるに決まってるじゃないですか!」
そう。
純麗祭開催五日前にして、いきなりソロモン72がこの八王子高校にやってくる事が発表されたのだ。
今や、年末の紅白歌合戦に呼ばれる程にまで成長した彼女たちが、こんな名門でも無い高校にポンと来るなんてどう考えたっておかしい。
しかも、噂によれば有栖院理事長が直々に招致したという話ではないか。
ここは、ソロモン72
なので、こうして乗り込んだというワケである。
「鱶野君の様な人もあの方達を知っているのですか?」
それはどういう意味だろう?
ソロモン72は元々オタク界隈発祥のブームなんですけど――!?
理事長とは後で深く話し合いをした方が良いみたいだ。
ただ。
今はそんな厄介オタクムーブをしている暇はない。
どの様な経緯か聞きたいのだ。
そして、あわよくばそのコネを利用して、ライブチケットとかをを回して欲しい!!(本題)
「知ってるに決まってるじゃないですか!」
「……。そうですか。――思ったよりも有名な人達みたいですよ?これはもう、私の勝ちで良いのではありませんか??」
「え……?――誰??」
理事長は俺との会話の内容のながれで、そのまま来客用のソファに座っている女性へと話しかけていた。
そう言えば、来客中と言っていたっけ……。
プラチナブロンドの髪をした美人な女性だ。
北欧系の外国人?
いや、ハーフだろうか。
理事長に負けず劣らずの高級そうなスーツに身を包んでいた。
「あら、嫌だ。今のはもしかして、この私に言っているのかしら?」
「私に愚かにも勝負を挑むなんて、貴方以外に居るワケが無いじゃないですか。――鳳凰院財閥の御令嬢さん」
「鳳凰院って……、有栖院に並ぶ、有名財閥の!?」
「失礼な!」「失礼ですわね!」
「有栖院が上です!!」「鳳凰院が上ですのよ!!」
「ア、ハイ」
息ぴったりだ。
「こほん。――まぁ、仕方ないので一から説明しましょうか……」
……。
……。
……。
「つまり……。鳳凰院さんは理事長先生の御友人で、同じように学校を経営していて、奇しくも同じ開催日だったから、ついでに来場者数を競い合って、両財閥の因縁に決着を付けようという事ですか?」
「いえ、違います。まず、私はこの女と友達ではありません」
「なぁ!?い、いえ……。その通りですわ!!――私達はあくまでもライバル関係、敵同士、これはその代理戦争なのです!」
「あんたら……」
「それって、文化祭を私的りよーしてるって事じゃん……」
ろくでもない大人達である。
まさか自分たちの喧嘩に、学校を巻き込むなんて……。
「む……」
「そ……、それもこれも。聖華が悪いのですわ!よりによって私の学園と同じ日にちにするのだから……!」
「別に私が決めた訳ではありませんよ。文化祭の運営実行は全て生徒に委ねていますから。――そもそも、勝負の話を持ち掛けてきたのはイヴの方です。しかもこの女、自分の方は海外の有名歌手の招致を決定してから……、この勝負の話は二日前にいきなりですよ?こちらに対抗策を撃たれないように奇襲まがいの事までして……、始めから恥も外聞もあったものではありませんよ」
「ぐぬぬぬぬ……」
「でも、如何やら勝負はあったみたいですね!私の呼んだソロモン72?は中々の客寄せパンダになってくれるみたいですよ?」
言い方ぁ――!!
今の発言は、信奉者に背中から刺されても文句は言えないぞ――!
と、ここは抑えて……。
「知らないで呼んでたんですか……?」
「私もそこまで庶民の暮らしに疎いワケではありません。年末の大型歌番組に出演するくらいは有名なのでしょう?しかも、鱶野君でも知っているくらいに有名だなんて、この国で知らない人は居ないくらい有名という事ではないですか」
「良かったじゃんw鱶野www」
春沢がここぞとばかりにいじってくる。
「……」
理事長は俺をなんだと思っているのだろうか……。
「でも、どうやって?」
「……?そのグループのプロデューサーが知り合いだったので、ここに呼びつけて首を縦に振るまで帰さなかっただけですが??」
マジか――!
「ヤクザのやり方じゃないですか……」
「どのみち、有栖院に足を向けて寝られる人間なんて、この国には殆ど居ないと思いますが」
そうかもしれんが。
ともかく。
ソロモン72の総合プロデューサー秋名徹平氏と知り合いなんて羨ましすぎる――。
ん!?
鳳凰院氏の方からプレッシャーを感じ取る。
これは、自分にも聞けという事だろうか?
「で……、では、鳳凰院さんの学校は誰を呼ぶんですか?」
「ふふん♪庶民にしては良い質問です!――良いですわ!聞いて驚きなさい!!我が鳳凰院女学院は、歌姫ビクトリカ・エスタ・エストリカを招致いたしますのよ!!!」
「えええええ!!?ビクトリカって超有名じゃん!!!」
「そ、そうなのですか!?」
「ち、因みに俺も分かります……」
歌姫ビクトリカと言えば、最近若者を中心にネット界隈で有名になった新進気鋭の海外のシンガーだ。
しかもライブチャンネルを持っていて、登録者数は1000万人もいる。
Dライバーでは無いが、俺でも知っている。
正直、ソロモン72の相手としては、十分すぎる相手だ。
「おや、勝負は分からないみたいですわよ?それとも負けるのが嫌でしたら、ここで土下座をすれば引き分けにしても良いですが……」
「く……。――いえ。この勝負今一度正式にお受けします……!そして、完膚なきまで叩きのめして差し上げましょう!!」
「それは、良い返事を聞けました。――では、私はこれで失礼しますわ」
こうして、水面下で文化祭戦争の火蓋は切って落とされたのだった。
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