ダンジョンの中心で正義を叫ぶ

 「そこの魔王よ」


 ローパー・キングは俺を見下ろす。


 「な、なんだよ?」

 「うぬはもう帰って良いぞ?我はデブには興味が無い」

 「あ”?」


 ブチッ――。


 「……。貴様、死んだぞ……?」


 俺は冷たく睨みつける。


 コイツは越えてはいけないラインを越えてしまったのだ。


 どの道、ここで倒すことは決まっていたのだ。


 だが、この愚か者には完膚無き敗北をくれてやろう――。


 「処す!」


 俺は軽く地面を蹴ると、それだけで30メートルは跳躍した。


 一挙手一投足に殺意が込められているのだ。


すたみな次郎『あーあ、タツミがキレちまったよ……』

吉良りん革命『死・に・た・い・の・か?』

みぎよりレッドロード『このローパー死んだなw』

浴びるごはん『……、ぞ?』

殺戮竜『可哀想』

暗黒☩騎士ざまぁん『俺キレたら記憶無くすタイプなんだよねw』

皇帝のあとりえ『タツミさんは、キレたらなにすんのかわかんねえぞ……?』

鶏でも食べる獣『これが“怒り”……?』

よぎぼぅ『キレたら、人格変わるタイプだからなwww』

名無しの騎士君『力で……、行くか……』

いい出汁DETEいる『コメント欄までイキリだして草』


 地面と平行に飛行しながら、低空飛行でローパー・キングの懐へ近づいていく。


 上空からは触手の雨が襲い掛かった。


 バレルロールで回避、衝撃波で触手を斬り刻む。


 「ほぉ。人間風情が楽しませてくれる」


 「それは、こちらの台詞だ!」


 追撃に飛んでくる触手を魔力の対空砲火で迎撃していく。


 もうすぐ、奴の足元。


 下から真っ二つにしてくれる――!


 「鱶野!」

 「春沢!すぐに開放してやる!!もらったぁー……」

 「甘い!」

 「なぁ!?」


 地面から無数の触手が突き上げられる。


 それをもろに喰らってしまった。


 制御を失い投げ出された俺を透かさず奴の触手が捕らえた。


 「……勝負あり、と言ったところかのう?」

 「ぐうう!?」


 ギチギチと甲冑の上から締め付けられていく。


 「安心せい。殺しはしない。ただ、我の楽しみを邪魔できないように魔力は吸わせてもらうぞ」

 「何を!舐めおって……、ぐぬぅ!?」

 「おっと、すまん。力加減を間違えた」


 こんな触手、普段ならば簡単に解けるのだが。


 こいつの魔力吸収はそれよりも速い――!


 くそぅ!何か手は――!?


 「終わりだ、魔王……!」

 「そこまでだ!」

 「何!?」

 「な、なんだよ今度は!?」


 唐突な横やりと共に、一筋の人影が地上にポツンと立っていた。


オシャレ侍『……!?』

xcyuddfd『……?』

空中ブランコ『!?』

駄菓子二等兵『!』

一級吊り師『……!!?』


 「うぬは……、何者だ!?」

 「お前……、まさか!」

 「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ!ダンジョンの平和乱す悪党あらば、呼ばれずとも則参上!!愛と触手の正義の味方!!!ローパーマン・プライマルレッド、ここに推参!!!!!」

 「自己進化超生体!」


 腕を組んで佇む、赤い全身タイツの様な人型。


 ただ、人間と決定的に違うのは背中から触手が生えている点だ。


 「――貴様、今までどこにいた!?」

 「今のワタシはローパーマン、ダ!――登場するのに良い感じになるまで、天井に張り付いてい待ってタ」

 「お、おう……」


 また、こいつ何かに影響されたな……。


 こいつらの考える事は人間には理解できないのだ。


 まぁ、そこはもう諦めるとして……。


 「ロ、ローパーマンだとぅ!?」

 「如何にモ!やいローパー・キング、貴様の悪事は見過ごせなイ。故にここで成敗いたス!!」

 「成敗か!フハハハハハ!!面白い。――小さき我が同胞よ。うぬがどうやって我を倒せるのか、見せて貰おうではないか!!」

 「何の事は無イ。ワタシなら、お前相手に触手一本使わずとも十分ダ」

 「何を!?」


 触手一本使わないだと――?


 こいつら、一体いつの間にそんなに強くなったんだ――?


 「当たり前ダ。ローパーとしての美学を失ったお前に、ワタシが負けるはずが無イ」

 「美学だと!?」

 「ああ、やはり気付いていないようだナ……。見てみろ、お前が服を溶かした乙女たちの姿ヲ!」

 「……。これがどうしたというのだ?」

 「ちょおおお!?急に揺らすなーーーーー!」


 春沢の上下の桃がプルンと跳ねた。


 着ていたスーツは七割ぐらい溶かされてしまっている。


 「まだ、分からないのカ!お前はのダ。――こういうのは馬鹿の一つ覚えで闇雲に溶かせば良いというものでは無イ。下着まで溶かしおっテ……。敢えて下着は残すことによってよりエロスが倍増されるのが分からないのカ!!??」

 「な、何ーーーーー!!!!?」

 「え……?」


 ナニコレ――。


 こいつは何の話を始めてんだ――?


 「下着は言わばエロスを演出する一つの小道具、部屋に飾る花、たこ焼きにとっての紅ショウガ、それをお前は自ら排除したのダ。これはAVでも同じことが言える、だろうガ!!!!!!」

 「……!」


 やたらと人間の文化に染まってる様だ。


 後、主語がデカい……。


 「この程度のでローパーの王を名乗るとは情けなイ……。魔王様もそう思うだロ?」


 え!?俺に振るな――!


 陰キャは基本ムッツリなのだ。


 人前で堂々と答えられる訳が無いだろうが――!!


 しかし、ローパーマンの言葉には得体の知れない説得力があった。


 AVの件は未成年故分からんが(建前)、こいつの言う事には一理ある様な気がしてくる。


 「く……、我の完敗だ……!」

 「はぁ?」


 ローパー・キングはそう呟くと、次々に捕らえた人を開放していった。


 そして、見る見るうちに身体を小さく、通常サイズのローパーのようになっていく。


 「お前……。俺達が勝ったのか……?」

 「違う。


 いや、違いが分かんないんだけど。


 「小さき我同胞……、いや、ローパーマンよ。我の眼を覚まさせてくれた事、感謝する」

 「ふん。分かってくれればいいのダ。誰しも道は踏み外す、大切なのはそれを認め向き合う事なのダ……!」


 ローパーマンとローパー・キングの熱い友情の触手握手。


 イイハナシダナ――。


 なんか凄く真面目な事でダンジョンに来たような気もするが。


 最後は、それがどうでも良くなるくらいの馬鹿馬鹿しい結末で幕を閉じた。


 「――。では、我は一からエロスを学び直す為の修行に出る」

 「ああ!達者でナ!」

 「なーに、良い感じに終わらそうとしてんの……」

 「あわわわわわ……」


 そこには姫騎士姿の春沢がいた。


 全国ネットで痴態を配信されて怒髪天だ。


 「悪即ざあああああん!!!」

 「ぬぉおおおおお!命だけはどうかーーーーーー!」

 「何故、ワタシまデ!?」

 「逃がすなら、アンタも同罪っしょ!」

 「理不尽ダ!」


 春沢が聖剣を振り回しローパー達を追い回す映像が、暫くカメラに映されていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る