過剰期

 過剰期。


 ダンジョン内のモンスターが活発的に繁殖をして個体数を増やす繁殖期の様な物である。


 そして、特筆すべき点は、その現象は一度始まるとダンジョン内のモンスター全体へ伝染していくということだ。


 なので基本的に、各ダンジョン単位で過剰期に入ったかどうかは観測されている。


 そもそも、アリスヘイムの殆どの種のモンスターには決まった季節毎の繫殖期は存在しない。


 一年を通して、繁殖が可能なのだ。


 ならば何故、過剰期などというものがあるのかと言うと、ダンジョンの過酷な生態系が起因していた。


 まず、モンスターは基本。


 繫殖能力・成長速度がで見ると異常なまでに発達している。


 これは、弱肉強食の世界で外敵に襲われないように対応してきた、生存戦略の結果でもある。


 一度に大量に子を産み、その中で弱い個体は淘汰され、結果的に強い個体のみとなり種として強くなっていく、そういう生存方法を取っていた。


 なので、戦える身体にすぐ成る必要があり、成長速度も異常なまでに速くなったのだ。


 中には、一週間で成体に成長するなんて種類のモンスターもいる。


 加えて、周囲の環境で食料になる獲物の数が増えると、本能的に繫殖能力が高まるという習性もあった。


 安定して餌が確保できるうちに、沢山子を産むように進化した訳だ。


 それにより、ただでさえ年中繁殖し一定数いるダンジョン内のモンスターが、些細なきっかけで過剰に数を増やすという事が起こった。


 それが過剰期なのだ。


 ダンジョン内での過剰期は、先ず。


 バイオスフィアの異常よって、生息する植物が大量発生する。


 そして、草食性のモンスター、肉食性のモンスターの順に生息数が爆発的に増えていく。


 放っておくと、スタンピードにも繋がりかねないので、どの道対処しなければならない案件でもあるのだ。


 過剰期に入ったダンジョンには、ギルド協会から特例で報奨金を出して探索者が集められたりもした。



 ***



 そんな訳で。


 今回は、過剰期のダンジョンを納めるべく。


 八王子第三ダンジョンへとやって来ていた。


 Cランクダンジョンという事もあり、難易度は低く安全に狩りが出来るので、採取目的の探索者にとっては人気のダンジョンなのだ。


 ダンジョン内は広く、生息するモンスターの種類も多い。


 よって“八王子の台所”などとも呼ばれていたりする。


 まぁ、実際の所。


 まだ、各家庭の食卓に毎日並ぶレベルにまでダンジョン産の食材を使用した料理は浸透していないのだが……。


 価格が高いうえに下処理が難しいのだ。


 ……。


 ……。


 ……。


 ダンジョン内には、ギルド協会が必死に探索者をかき集めた甲斐もあり、見渡せばあちこちでモンスターを狩っているのを確認できる程には人が入っていた。


 攻撃の流れ弾がいかないようにだけは注意せねば――。


 全体で200~300人は居そうだった。


 因みにこれは、結構混んでいる方である。


 これだけ探索者が集まれば、スタンピードも起こらないだろう――。


 俺は安堵する。


 だが、問題はまだあった……。


 「皆ー!盛り上がっているかー!?」


 盛り上がるも何も、まだタイトルコールだろうが――。


 「今日は過剰期に入った八王子第二ダンジョンから配信していくからな!!」


ぺんぎん『“¥5000”よっすー!待ってたー(笑)てか、過剰期って危なくない?心配』

ステップ大鳳『うお!楽しみーーーーw』

OKOGE『Yhaaaaaaaa!!!』

おのぎり『うっす!』

チョコレートマニア『しゃあああ!今日も盛り上がるぜ!!』

銀二『こんちー!』

上ゲ専『過剰期かー、危なくね?』

キ811『いや、リューイチならいけっしょ?』

のあ『“¥3000”わくわく』

USB タイプAを許すな『最初からとばそーぜw』

おろろん『初見』

おのぎり『あれ、今日メンバー多くない?』

焼きくま『なんだ?あの黒いの……』


 相変わらず、豊徳院の配信は凄まじい速度でコメントが流れていく。


 既に同接は20万人だ。


 俺のライブチャンネル登録者よりいるじゃん……。


 「因みにいつもの4人に加えて、コラボゲスト!魔王系?Ⅾライブチャンネル“魔王タツミの真ダンジョン無双録。”のタツミと春沢が今日は来ているぞ!!皆拍手!!!」


カルマ山親方『えっっっっ!?』

ロック海埼『ギャル沢ァ!?』

ゴシップバット『マジか!』


 そう。今回は紆余曲折あって、豊徳院とのコラボ配信となってしまったのだ。


 「魔王のタツミだ、今日はよろしく頼む!」

 「春沢でーす!ギャル沢って呼んだ奴ぶっ飛ばすから☆」


おのぎり『ちょw魔王ってwww!?』

チョコレートマニア『おい、リューイチこんな際物連れてくんなよ!』

銀二『しかも、なんか引いてるぞ!』

酒断ち『え?リアカー??なんで……???』

俺の親父の息子の話『ダッサw』

唐揚げさん『ギャル沢だけ置いて帰れ!』


 散々な言われようである。


 そして更に……。

 

 「なぁ、君達。そういった乱暴なコメントは感心しないぞ?」

 「餓鬼共がもっと行儀よく出来ねえのか!?」

 「うふふ。皆、元気ですねー」


若輩者『あ!レーナ様だ!!』

ステップ大鳳『すいません!レーナ様!!』

USB タイプAを許すな『以後きをつけまっすw』

マジ落ちくん『こっちゃんメンゴw』

スティックのり3号『みゆきん今日もカアイイヨ!』


 生徒会の面々も同行しているのだ。


 こうして、波乱のダンジョン探索は幕を開けた。

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