八王子商店街

 会議が終わると。


 豊徳院がクラスの出し物も決まった事だし、決起集会を開かないかと誘ってきた。


 何の事は無い、運営会議に出たこの四人でお茶でもどうだ、という事だ。


 陽キャの好きそうな事である。


 いまいち気は進まなかった。


 それに、俺には用事だ有るのだ。


 「悪いこれから用事で寄る所がある」

 「え?ちょっ、鱶野!?」


 丁重に断ると、急いで駐輪場に向かっていった。



 ※※※



 八王子商店街。


 八王子駅北口から甲州街道に向かって続く歩行者専用道路に面した、歴史ある商店街である。


 と、言っても。


 古くからの老舗は半分以上数を減らしてしまい。


 空いた店舗には、居酒屋やカラオケ店、ファーストフードのチェーン店など目新しいものがどんどん入ってきていて、今では飲み屋街というイメージの方が強くなっている。


 中にはアニメグッズのショップもあったりして、オタ活をする点で言えば、かなり助かっていたりもするのだが。

 

 駅中の大型複合ショッピングモールの台頭によって、飲み目的以外の商店街へ流れる客の数は減る一方で、ここで昔から商いをしている店舗は苦戦を強いられていた。


 定期的にイベントを開いたりして対抗策を講じてはいるのだが、商店街たる所以でもある古き良き老舗たちは、時の流れに合わせて徐々に寂れていくのだった。


 そんな、新旧入り混じるカオスの中に“ことぶき青果店”はあった。


 ここは、聖騎士プラムローズの継承者、緋音氏の職場でもある。


 俺は、運営会議でぶっこんでしまったハッタリのをする為、渋々足を運んだのだ。


 ……。


 ……。


 ……。


 だが、しかし。


 直前で尻込みしてしまい、こうして店の前をウロウロしているのだった。


 よく考えれば、会ったのもあの時だけだったし、上手く交渉する自信が無かった。


 後、単純に緋音氏のヤンキー感が怖い……。


 春沢だけにでも相談すれば良かったか――?


 少しだけ後悔する。


 いや、駄目だ。


 これは俺が勝手に言った事……、一人でケジメを付けるのだ――。


 俺は、意を決して特攻する覚悟を決めた。


 良し、行くぞ――!

 

 「え……?鱶野何してんの??」

 「へ……?」

 

 何という事か。


 こんな所で春沢と遭遇するとは……。


 となると。


 「あれぇ、鱶野君!?」

 「ん?鱶野じゃないか??」


 豊徳院と立木。


 当然、こいつらもいるわけだ。


 「寄る所って、商店街だったんだぁ」

 「ま、まぁな……、偶然だな……!あはははは……」

 「じーーーー」


 春沢は、擬音を口にしながら俺の顔を覗き込んだ。


 「な、なんだよ……」

 「用事って、何なん?」

 

 ん?なんか詰問されている……!?


 「あ、いや……。あ!今日出た漫画の限定版を買いに来たんだよ」

 「なんか、怪しいし」

 「ア、アヤシクナイヨ!」

 「本当に?さっきからここで、ウロウロしてるの見えたんですけど??」

 「ぎくっ……」


 見られていたか――。


 「……なんか隠してることあるっしょ?」

 「はい」


 俺は観念して全てを話した。


 「――と、いう訳です……」

 「もー!なんでそうゆー大事な事はいつも言わないワケ??まず相談するでしょー!?」

 「はい、ごもっともです」


 春沢は、カンカンである。


 「その辺にしといてやれって。鱶野だって良かれと思ってやったんだろ?」

 「ああ」

 「でもぉ、本当に安く売って貰えるのぉ?」

 「それは……、多分行けると思う」


 この前貰ったチラシを見る限り、スーパーやデパートで売られている値段より三割くらいは安かったのだ。


 恐らく、仲介する行程が前者に比べて少ないのだろう。


 加えてまとめて大口注文すれば、更に安くして貰えるかもしれない。


 交渉次第ではあるが……。


 「じゃぁ、ちゃっちゃと済ませるし」

 「え?」

 「当たり前っしょ?クラスの代表はウチら四人なんだし」

 「それはそうだが」

 「ごめんくださーい!」

 「あ!おい、春沢!?」


 春沢は躊躇することなく店の中に入っていく。


 緋音氏は店の奥で、棒付きキャンディーを咥えながら店番をしていた。


 「よっすー!緋音ちゃーん!!」

 「おう!姫様……、じゃなくて。真瑠璃じゃねぇーか、今日は何が欲しいんだ?」


 常連になってるし……。


 本当にコイツはすぐ、他人と仲良くなれるな。


 「ん?なんだそいつらは。ダチかぁ??」

 「そー、友達ー。後、コイツ鱶野だし」


 春沢は俺の事を引っ張り出した。


 「鱶野って……。あ!てめぇ糞魔王か!!――お前、こんな太った熊みてぇのが中身だったのかよw」


 太った熊って……、一応客ですよ?俺――。


 緋音さんは、豪快に俺の腹を叩く。


 思ったよりフレンドリーな人だった。


 怖いけど。


 「え?どういう関係ぇ??」

 「まぁ、色々とな……」


 成り行きを知らない豊徳院と立木には後で説明しておこう。


 伝わるかは知らんが。

 

 ……。


 ……。


 ……。


 バックヤード裏の事務所に通されて、そこで緋音さんに俺達の事情を話した。


 「ナルホドなぁ。それでウチに来たってわけか」

 「はい。どうか協力して貰えると助かるのですが……」


 交渉は結局。


 弁が立つ豊徳院が担当した。


 それと商店街ネットワークで、肉屋と魚屋も巻き込めないかも相談してみる。


 「話は分かった。こっちも少しは宣伝になるし、悪い話じゃねぇよな。――肉屋と魚屋にもアタシが話しといてやるよ」

 「まじ!?良いの!!?」

 「ああ。この前、迷惑もかけたからな……。――だが、一つ条件がある」

 「え?」


 おっと、なんか雲行きが怪しぞ――。


 「最近、八王子の探索者協会ギルドから、モンスターがに入って、安全に狩りが出来ねぇとかでダンジョン産の野菜が入らなくなってんだよ。――これが、どうにもならない限りは、ウチもそっちに売るモンが用意出来ねぇって訳だ」

 「つまり……?」

 「あ?魔王ならどうにか出来るだろうがよ??」

 

 やっぱりか――!


 その問題を、俺達が解決しろという事なのだ。


 一難去ってまた一難である。

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