問うものと、答える者

 会長は整った顔で俺の事を見ている。 


 大体。


 何故、俺だけ名指しなのか……?


 まさか、モルガリアの差し金――?


 俺をこの場で精神的に殺すつもりかぁっ――!?

 

 そうであれば、生徒会役員もモルガリアの仲間である説の裏付けにもなるのだ。


 豊徳院の方を睨むと目が合った。


 奴は無言で頷く。


 やはり、貴様ら――……。


 ん?


 “ガンバレ!”とノートに書いて見せてきた。


 くっそ、本当にいい奴だなお前!そういうところがムカつくんだけど……!!


 自分が惨めに思えるからだ。


 ともかく、今は目の前の敵に集中である。


 他の生徒の目線が俺に集まっている。


 いっその事、デュミナスリングで魔王に変身してしまいたい……。


 心臓が早鐘を打つ。


 「え、ええと……。ダンジョン喫茶とは……、昨今急激に世間に注目を浴び始めたⅮライバーにヒントを得た……、ダンジョン内を再現した教室内で食事を提供する、コンセプト喫茶の事です」


 カンペのお陰でなんとかまともに答えられた。


 「成程、了解した。――では、いくつか質問をさせて貰おう。先ずは、ダンジョンに関連するコスプレをした生徒が食事を提供するとあるが、この衣装はどうやって調達するんだ?」


 来た――。


 これは、俺も水道橋に聞いたことだ。


 「あ、ええ……。それは……、の家庭から使わない古着を持ち寄って、それを材料に作成します」


 一組とのやり取りを踏まえ。


 生徒一人一人関わり、を意識した文言にして答える。


 緊張はしているが、アドリブを入れられるほどには冴えているのだ。


 “心を乱されても、頭は乱すな”


 これは、エクセリアの教えである。


 「ほう。それは、良い案だ。予算も節約できるうえにSDGsを意識した活動にもなっていているな」

 「は……、はぁ、ありがとうございます……」

 

 こ、怖え……。


 なんかこちらが思っていた以上の深読みをされ、評価された。


 これが、“勘違い系”と言う奴か――!?


 違うか。

 

 兎に角、生きた心地はしなかった。


 「それと、料理にダンジョン産の食材を使うと企画書には書いてあるが、ダンジョン産は少々値が張るのではないか?」

 「えっと……」


 うわ……、しまった……。


 クラスでは俺と春沢で食材を調達すればタダじゃねwww?とかそうゆう流れになっていたのだ。


 しかし、先程の会長の問答を見ればわかるように、では絶対に通らない。


 この質問は、水道橋のカンペにも無いぞ――!


 「鱶野君は探索者らしいが。まさか、自分達で採取するなどとは考えていないだろうな?」

 「あ……、それはその……」


 春沢達を見る。


 春沢と立木は、てへぺろしていた。


 春沢が言い出して、コスプレに予算が回せるからと立木がそれに乗ったのだ。


 それでクラスの奴らも同調していった。


 豊徳院は眉間を指でつまんで、やっぱりか、と言う感じだ。


 その時、豊徳院は反対していたのだ。


 今回ばかりは、コイツに従っておけば良かった――。


 「どうなんだ?」


 う……、何か言わなければ……。


 そもそも、ダンジョンの食材のなんぞ二束三文で買い叩かれる。


 それを仲介する連中が不当に値段を釣り上げているに過ぎない。


 駄菓子の値段位安く買い取られる薬草も、スーパーに並べば高級食材である。


 俺達は命がけなのに、命を賭けていない奴らの方が儲けているのだ。


 良心的な店から買い取れればそんなに値は張らないはずだ……。


 そうだ!これだ!!


 「ギルドから……」

 「ん?ギルドから、なんだ??」

 「……八王子商店街と交渉して、安く仕入れる予定です」

 「……ふむ。商店街と連携して地域貢献も出来るという訳か。――その交渉はどうなっているんだ?」

 「ま……」

 「ま?」


 わざわざ、交渉の進捗を聞いて来るという事は、その内容によっては、企画の再提出になるという事だろう。

 

 やむなしか――。


 「ま……、前向きに検討して貰っています……!」

 「そうか」


 ハッタリで大事なのは、何事も言い切ってしまう事だ。


 虚栄の自信で話に説得力を持たせるのだ。


 だが、勝算はある。


 昨日の敵は、今日の友作戦だ。


 「では、最後に。鱶野君はダンジョンがこの世界に現れて良かったと思っているか?」


 ん?なんだその質問は――??


 クラスの出し物とは、直接関係ないようにも思えるが。


 「ど……、どうでしょうか……。俺も小さい頃、神隠しに遭ったりしてるし……、スタンピードで被害に遭っている人がいるのも知ってますが……。滅茶苦茶危ないし。それでも、何というかその……、せっかく現れたのだから楽しまないと損する……。みたいな?」


 “ダンジョンがこの世界に現れて良かったと思っているか?”


 そんな事を今まで考えたことも無かった。


 別に俺が望んで現れたわけでもないし、物心付いた時からそこにあったのだ。


 こんな事聞いて来るからには。


 燕子花会長は、ダンジョンの事が嫌いなのか――?


 駄目だ、この質問の意図が全然わからん。


 「……そうか。まぁ、良いだろう。――君達のダンジョン喫茶の企画だが……」

 「「「「……。……。……。……。」」」」

 「承認する。このまま準備を続けてくれ」

 「よ、良かった……」


 力が抜けて椅子に座り込んだ。


 「凄いじゃーん!鱶野ー!!」

 「鱶野君ないすー!」

 「お……、おう」


 何と、ここまでで一発合格が出たのは俺達のクラスだけなのだ。


 「凄いな、鱶野……。いつの間に交渉なんてしていたんだ?」

 「ま、まあな……」


 そこはあまり掘り下げないで欲しい。


 きっと、これから地獄を見る事になるのだから……。


 ……。


 ……。……。


 ……。……。……。


 そんなこんなで濃密な、第一回純麗祭運営会議は終了した。


 退室際に。


 「鱶野君」

 「ひゅぃ!?」


 急に会長に名前を呼ばれた。


 今度はなんだ……?


 「呼び止めて済まない。――君には大いに期待している。お手並み拝見させていただくよ」

 「は……、はあ……」


 そう言って不敵に笑った。


 全く思考が読めない人だ。


 只、何かを試されているようで落ち着かなかった。

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