対峙

 そうして。


 自己紹介が終了した。


 タブレット端末とプロジェクターを用いて、運営会議は進行されていく。


 流石は段取りの良い。


 運営会議が滞りなく進んでいく。


 文化祭は実行委員とクラス委員が連携して運営する。


 俺と春沢の主な仕事は、クラスの出し物関連である。


 ステージ企画やその他裏方作業もあるが、そちらはクラス委員が主体で、俺達はその補佐と言った感じである。


 「――次に、クラス毎の企画についての議題に移る。園美原、次のスライドを頼む」

 「はい」


 園美原書記の操作により、視聴覚室のスクリーンに映し出されているプレゼンテーション映像が切り替わる。


 今回の会議のメインディッシュだ。


 予め企画書を提出しておいた各クラス毎の出し物について、それぞれ議論がされる。


 それにより、企画が通るか再提出になるかが決まるのだ。


 出来れば一発通過が好ましい。


 ここでは、内容は勿論。


 我々のプレゼンテーションスキルが重要となってくる。


 腕の見せ所だ!


 頼んだぞ!春沢――!!


 「――それでは一年六組の自主製作映画は、企画書の再提出を頼む。――では、次。二年一組……、出し物はコスプレ喫茶と……、コスプレ衣装はどう調達するんだ?」

 

 もう直ぐウチのクラスか。


 丁度、我々も候補に挙げていたコスプレ喫茶を企画している、一組がプレゼンをする番だった。


 「はい。クラスにコスプレが趣味の生徒がいるので、その子の私物を借りて使う予定です」

 「成程。それ以外からは?」

 「え……?あ、いや。その子の私物だけで行こうかと……」

 「却下。再提出を頼む」

 

 燕子花生徒会長は毅然として宣告する。


 そこに感情の起伏は無いが、こちらは従わざる負えない様な凄味があった。


 おお……、こっわ――!


 「――衣装を貸し出してくれる生徒の負担が大きい。他の方法を検討してくれ」

 「え!?でも……、その子は是非使って欲しいって……」


 そうだ――。


 確かに、そのコスプレ趣味の生徒依存の企画ではあるが、予算などその他の問題はクリアしている。


 はずだ。


 「駄目だ。純麗祭は生徒全員が一丸となり作り上げていく事が好ましい。――クラスの生徒一人一人が深く関わり成長出来るような内容で、企画に洗い直して、来週末までに再提出を頼してくれ」

 「わかりました……」


 生徒一人一人関わり……、意義のある、か――。


 単に企画として成立させるのではなく、それを通して個人個人、成長を得られるようなものにしたいという事だ。


 学校の行事という視点で見れば、会長の理想は正しい。


 が、それだけにとても困難な道なのも確かである。


 文化祭に掛ける熱量なんて個人ごと違うだろう。


 会長はそれを合わせろと言っているようなもの。


 ある意味、個人の感情を度返した横暴な理想でもあるのだ。


 俺には出来ない、全体の痛みを許容する考え方だ――。


 ……。


 ともかく。


 どうであれ、会長を頷かせなくては企画は通らないのだ。


 「――次は、二年三組」

 「……ッ!?」


 いかん、自分の世界に入り込んでいた。もう俺達か――!


 ビクッと、居眠りをしていた生徒が急に名前を呼ばれて様な感じになる。


 「ダンジョン喫茶……。中々面白そうな試みだな。一体どういうものか説明して欲しい……」

 「任せたぞ……、春沢……!」

 「いっちょかましてやるっしょ」


 俺はサムズアップして、春沢を送り出す。


 「では頼んだ、鱶野辰海君」

 「へぁ!?」


 何故ぇ――!?


 今まで名指しじゃなかっただろうが――!


 しかも、よりによって俺の方に振りやがった!


 「お……、俺ですか……!?」


 念のため、聞き間違いかもと確認する。


 「ああ」


 ですよねぇ――!


 仕方がないので、俺は、おずおずと立ち上がった。


 こんなこともあろうかと。


 俺と春沢は、水道橋に虎の巻カンペが渡されていた。


 水道橋の前情報により、生徒会長の難攻不落っぷりは分かっていたので、先んじて、問答集を作っておいたのだ。


 これなら、俺でも多少は戦える。


 燕子花会長の方を向き対峙した。


 「鱶野……」


 春沢が不安そうにする。


 ふん、なんて顔してやがる――。


 俺の骨は頼んだぜ――?


 

 


 


 

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