魔王と文化祭の出し物

 文化祭の出し物。


 一番代表的なもので言えば、飲食系だろうか。


 焼きそばやたこ焼き、クレープといった屋台風。


 はたまた、メイド喫茶みたいな、教室を装飾したりスタッフがコスプレしたりする、コンセプトカフェ風のものか。


 どちらともに言えるのは、準備が簡単で比較的学生に取っ付きやすく、それでいてある程度の集客が見込める安定性があるという点だ。


 陽キャが接客で陰キャが調理と明確な役割分担が出来、クラス全体で参加してる感が出るというのもポイントが高い。


 因みに去年はパリピ喫茶だった。


 「なー、笠井。お前んちラーメン屋なんだろw?ウチらもそれでラーメンの屋台出そうぜwww」


 お調子者の猪原いのはらが、実家がラーメン屋の笠井をイジりながら提案する。


 「お、イノッチ。いーじゃんそれー!」


 春沢は、すかさずそれを拾った。 


 成程。


 飲食系でラーメンは攻守共に最強である。


 誰でも簡単に作れて、それなりに食べられる。


 そこへ更に、ノウハウを知る人間の知識を合わせれば学生でもワンランク上の物が提供できるのだ。


 一見、身内イジりから派生しただけの提案に見えるが、堅実かつ挑戦的なものにも見えなくは無い。


 しかも、笠井のカースト上位のネームバリューだ。


 いきなり有力候補の台頭か――?


 実現性:A

 意外性:C

 集客性:A


 俺は黒板に“ラーメン屋台”と書く。


 「うぇーいwイノよー、分かってんじゃんw」

 「だろwww」

 「……。……。ラーメンはよぉ、餓鬼の遊びじゃねぇんだよ……。やるなら、勿論。たまぁ、賭けろよ……?」

 「お……、おう。なんかスマン」


 只、当の笠井の意識の高さにクラスが付いていけるかと言う懸念事項はあった。


 「……。えー、じゃー。ほかー!」

 「はい!はぁーい!コスプレ喫茶やりたぁーい」


 次は立木か。


 「それー、ホタルがやりたいだけじゃんw」


 宮越がチャチャを入れる。


 「えー、良いじゃぁん。絶対たのしーよ?」

 「じゃー、コスプレ喫茶ね」


 コスプレ喫茶は、去年も候補に挙がってはいた。


 前回は、衣装の予算の関係で実現には至らなかったのだ。


 今回も立木が何処までこだわるのかが注目のポイントになるだろう。


 だがしかし、学校内でも人気の高い“三えっっ人”のコスプレ姿となれば、その破壊力は絶大なのは間違いなしだ。


 まさにチート級。


 実現できれば他の追随は許さないだろう。


 実現性:C

 意外性:C

 集客性:SSS


 俺は黒板に“コスプレ喫茶”と書く。


 ……。


 ……。


 ……。


 「おっけー!皆、それなりに案は出し尽くしたって感じー!?」


 ・ラーメン屋台

 ・コスプレ喫茶

 ・お好み焼き屋

 ・バンド喫茶

 ・お化け屋敷


 「うーん……。なんか面白そーだけど……。どれもインパクトがなぁ……」


 誰かが言う。


 「やっぱ、やるなら狙いたいっしょw」


 純麗祭では後夜祭のステージで、一番盛り上がった出し物を表彰するのだ。


 無論、この二年三組の連中もを狙っていた。


 「おい、五組はお化け屋敷に決まったてよ!」

 「じゃー、お化け屋敷は無しか……」

 「一組、コスプレ喫茶に決まったてー」

 「ええー、それぇまじぃ!?」


 如何やら、他のクラスの奴とのメッセのやり取りによる情報戦が始まっている様だ。


 「六組は、ロックバンド喫茶らしいぞ」

 「うーわ、バンド喫茶も被りかー」


 別に被っても問題は無いが、やはり優勝を狙うのであれば好ましくはない。


 ここに来て、取集が付かなくなる。


 「ちょっとマズくなってきた?どうする鱶野ー??」

 「いや……、俺に聞かれても……」


 クラスの真ん前で意見を言うなど、陰キャにはハードルが高すぎるぞ――。 


 しかも、だんだんと皆もヒートアップして、本気になって来た。


 最早、気軽に発言できる空気では無いのだ。


 俺は、今市を見る。


 居眠りをしていた。


 コイツ――。

 

 そこへ。


 スーッと行儀よく右手で挙手をする男が一人。


 「意見、宜しいかな……?」


 陽キャ主体で展開される討論に、物怖じすることなく不敵な笑みを浮かべながら斬り込んだ。 


 水道橋今日也である。


 「お!バッシー、何かいい案あるん!?」

 「“ダンジョン喫茶”を提案させて頂きたい……!」


 水道橋は陰キャながらも陽キャとも一定の交流があり、ある意味に近かった。


 なので、こういう場にもチョイチョイ存在感を出してくるのだ。


 しかし。


 「却下」


 俺は問答無用で跳ねのけた。


 水道橋の提案からは危険な匂いがプンプンしたからである。


 きっと、俺を巻き込んでやろうという魂胆なのだ。


 悪目立ちは余りしたくない、ロクな事にならない気がした。


 それに、これ以上俺の仕事を増やすでない――!


 「……まぁ、焦るな。少しくらい聞いてくれても損はないと思うぞ?」


 あくまで冷静である。


 「おお?なんだよ??そのダンジョン喫茶ってのはー」

 「バッシー、説明しろし」


 マズい、陽キャが興味を持ってしまった――。


 「皆さんご存知の通り、今や世間では空前のⅮライバーブーム!今回提案するのは、そのダンジョンをイメージしたコンセプト喫茶だ。――幸い我がクラスには、鱶野と豊徳院というⅮライバーが二人もいる。これを利用する手はないんじゃないか!?」


 くっそ!やはり、俺頼みの企画じゃないか――!


 しかも、豊徳院まで巻き込むのか……。


 「更に教室内をダンジョン風装飾すれば、お化け屋敷的な要素も盛り込めるし、スタッフは探索者のコスプレなんかも出来るんじゃないか」

 「ちょぉ……、水道橋君って天才?」

 「確かに……、インパクトもあるし、あり寄りのありか!?」


 ぐぬぬぬ……。中々の策略家――。


 他の出し物の勢力をも吸収し、クラス奴らは完全に水道橋の話術にハマってしまった。


 「だが、コスプレの衣装はどうするんだ?前回は、それで頓挫とんざしてるんだぞ??」


 そうなのだ。


 ウチには立木というコスプレの鬼がいる。


 彼女の納得する領域に達するには、予算が足りないのである。


 「そこは、各々の家から着なくなった服をカンパして貰えばいい。――それを材料にすれば、予算の問題もクリア出来るんじゃないか?」


 く……、考えていたか……。


 「豊徳院はどうだ?」

 「俺は……。……、鱶野が良いって言うなら構わないぞ」


 な、卑怯だぞ!豊徳院――!!


 最終的な責任を俺に丸投げしやがって……。


 一斉にクラス連中の眼が俺に向けられる。


 これでは、首を横には触れない。


 「し、仕方ない!やるなら徹底的に行くからな!!」

 「「「「おおー!流石、魔王」」」」

 「よっしゃ!じゃー!二年三組の出し物は、ダンジョン喫茶でけってーい!!!」


 実現性:G?

 意外性:SSS

 集客性:SSS?


 困難な道は、栄光への道しるべか。


 こうして、我がクラスの出し物は、ダンジョン喫茶に決まったのだ。

 



 

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