新たなる敵

 リベレイター。


 解放者という事らしいが、全然心当たりが無かった。


 大体何から何を解放するというのか?


 また一つ謎が生まれてしまう。


 「何だそれは!?――何故、オーナーがそんな事を知っているんだ?」

 「彼らから僕の所に一通の手紙が来たんですよ。一か月ほど前でしょうか。『我々は解放者。共に魔王と戦ってくれないか』と、待ち合わせの場所と時間が書かれていました。何分怪しかったので、その時は無視していたのですが……」

 「鱶野辰海達がダンジョン探索中にモンスターの変異体に遭遇し、その場に聖騎士が居たのを聞いて、と思ったと……」


 ん?それって……。


 「どうゆう事だし……?」

 「そののが、辰海と春沢を襲わせる為に変異体ってのを使たって事っしょ?」

 「確かに、辻褄つじつまは合うが……」


 ネット上にも変異体の目撃例は無かったのだ。


 つまり、変異体を目撃しているのは、俺と春沢だけ。


 俺の命を狙う輩が、に手引きした可能性は十分にある。


 「帝さんは知ってたのか!?」

 「あくまで可能性の一つとしては推測していた。だが、確証には今も至っていない。――当面は要警戒で良いと考えていた」

 「そんな中でダンジョン探索なんて続けても大丈夫でしょうか?」


 確かに危険だ……。


 だが、そもそもダンジョン探索自体が危険なのだ。


 俺は、今更そんなわけわからん奴らの脅威などに屈するつもりは無い――。


 だが、注意はしておこう。


 いざとなれば、返り討ちにしてくれる。


 「そこは我々の監視でカバーしよう。それに、こちらの動きが変わる事によってモルガリアの動きが読めなくなるのは困る」

 「モルガリア?聖女モルガリアも此方にいるのですか!?」

 「ちっ、失念していた……。仕方ない。オーナーには後で詳しい事を……」


 プルルルル。


 帝さんのスマホが鳴っている。


 「ちっ、あの女か……。先程の配信を見ていたな。――オーナー、ウチの雇い主から、アンタに電話だ」

 

 相手は理事長みたいだ。


 帝さんは滅茶苦茶嫌そうな顔をしていた。


 「僕に……、ですか……?――はい、代わりました。吉乃と申します……、え……!?第一皇女殿下!?」


 吉乃さんの背筋がピンと伸びる。


 「はい……、はい……、成程……、はい……、分かりました。では」


 そうして通話を終える。


 「今度、食事にもと誘われました」

 「それは良かったすっね……」

 「おほん……。では無くて。――君達の事情は分かりました」

 「ヨッシーも、フローズン?機関の仲間になるの!?」

 「グラウベンだ」

 「そうそれ!――あ、それとも新魔王軍?」

 「申し訳ないのですが、僕はそのどちらにも入りません。――こんな老いぼれでは足手まといでしょう」


 いや、そんなことは――。と言おうとしたが、継承者だからと言って無理に巻き込むのも良くないか。


 これは、これで吉乃さんの選択なのだ。


 「僕には、せいぜい商店街の平和を守るくらいしかできません。力になれなくてすみません、春沢さん」

 「そんなつもりじゃなかったし……、ウチもごめん、昔の知り合いに会って浮かれてたし……」


 前世とは言え、吉乃さんは春沢の親衛隊だったらしい。


 過ごした時間はそれなりに長いはずだ。


 春沢は少し寂しそうだった。


 「ですが……、として。もし、商店街にも危険が及ぶ場合には、微力ながら協力させて下さい」

 「……。……。ヨッシー!!」


 春沢は飛びついた。


 「あ……」

 「のおおおおおん!?」

 「うぇーいwww」

 「ふん……」

 「ちょぉ!?ごめーん!!!」


 ぎっくり腰。


 魔女の一撃とも呼ばれる人類の天敵は、想像を絶する痛みらしい。


 ウチの父さんも、数日間は匍匐ほふく前進しか出来なかった。


 暫くは絶対安静が基本なのだ。

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