骨折り損のくたびれ儲け

 その後も笠井と吉乃さんの死闘は30分ほど続いた。


 「もーまだ、決着つかないのー?」

 「私もそろそろ帰って野球の中継が見たいのだが」


 春沢と帝さんは既に飽きてきているみたいだ。

 

 笠井はいつの間にか龍騎士モードになっている。


 目の前では洗練された技と技の応酬が展開されていた。


 吉乃さんは聖剣を片手持ちに切り替えて、腕を伸ばしながら斬撃を撃ち込む。


 そうすることでより間合いを広くでき、素手で戦う笠井のキルゾーンに入りにくくなる。


 それを笠井は敢えて腕で受けた。


 刃先を逸らすことで被害を最小限にして、避けることなく前進し続け肉薄するのだ。


 容赦なく貫き手。


 吉乃さんもサイドステップで対応する。


 空中戦、地上戦と切り替わりながら絶えることなく殺気が交差している。


 巻き込まれると危険なので俺達はそれを見守る事しかできなかった。


 「笠井ーーー!もうその辺にしておけよーーー!!」


 頃合いだろうと声を掛ける。


 「何言ってやがる!どっちか倒れるまでやるに決まってんだろ!!」

 「その通り。私も先程のでは不完全燃焼だったので、ここはとことんやらせていただきますよ!」


 こいつら……。


 ――と言うか吉乃さんも、最初っからただ戦いたかっただけなのでは……?


 完全に戦いを楽しんでいる。


 「やっぱ、と殴り合うより、じーさんみてぇなのとヤり合う方が楽しーぜwww」

 「おや、汪理君とは気が合いますね。――ああ!なんと素晴らしい!魔族とはくあるべきもの………!鱶野君にも見習って欲しいものですね!!」

 「はああああ!?」


 おい!じーさん、さては猫被っていやがったな――!


 俺はアンタらと違って硬派で繊細なのだ。


 何も考えずにスナック感覚で暴力を振るうなどサルにでも出来る。


 色々気にして戦っているこっちが馬鹿みたいじゃないか――。


 「ああ……、そうかい……」

 「え、ちょ!?鱶野!!!?」


 だったらこっちも遠慮はしないぞ――?


 俺は大きく踏み込み地面深くに足を埋める。


 これで反動を気にせず全力で撃てるのだ。


 「おい馬鹿、鱶野辰海!何を考えている!?」

 「大丈夫だって、帝さん。だから……」


 俺は構える。


 「貴様らには、少し灸を据えてくれる……、魔王のメガセリヲン……!!!」


 掌の中で魔力の流体を加速させ発電所並みの電力を生み出す。


 俺は前世から魔術・剣術の才能は凡人の域を出なかったが、魔力操作技術においては、世界一を名乗ってもお釣りがくるくらいなのだ。


 周囲の大気まで帯電し始め、バチバチと音を立てた。


 魔力の流体内でマナの粒子は亜高速に到達する。


 「一撃バスター!!!!!!!!」

 「おん?」

 「あ?」


 ティウンッと控えめな発射音と共に、そこからは想像できないほどの絶大な威力の荷電粒子が放たれた。


 ……。


 ……。……。


 ……。……。……。


 「面白かったぜ吉乃のじーさん……!一切の妥協の無い剣撃、撃ち込まれるたびに続々したぜぇ!」

 「いえいえ……。汪理君も。この剣聖相手に一歩も引かないあの戦闘スタイルは、中々できませんよ。敵ながら賞賛に値します」

 「へへ……」

 「また、機会があればよろしくお願いいたします」

 「うぇーいwww」


 如何やら二人は生きているみたいだ。


 変身は解けていた。


 身体中、煤で黒くなっているが、地面に大の字になって互いの健闘を讃え合うくらいには元気だ。


 「随分と堪能できたようですな、ご老体……。――もう一戦いかがかな?」


 俺は魔力の剣を、吉乃さんの顔に向けた。


 「おや、鱶野君……。こんな老いぼれに物騒な物を向けて怖いですねぇ……」

 「怖いですねぇじゃないわ!そこに居直れーーーーーい!」


 吉乃さんは、その場で正座をした。


 「アンタ最初っから暴れるのが目的だっただろ!?」

 「いや……、そのですねぇ……、元聖騎士として一応、魔王が無害なのか確かめないとってのは本当なんですよ?――それはそれとして、魔王なんて聞いたら手合わせして見たくなるじゃないですか?しかも、天空魔将ギルバトスまで。前世では魔王軍幹部全員とは剣を交えられなかったので、些か年甲斐もなくハッスルしてしまいました(てへぺろ)」


 まさか、人類側の英雄の一人がこんな戦闘狂だとは……。


 「ったく、とんだ無駄足だ……。それじゃ、皆共、撤収ーーー!」

 「あのぉ……」

 「なんすか?」

 「申し訳ないのですが……、家まで送ってくれませんか?」

 「へ???」


 立ち上がる事が出来ず、生まれたての小鹿のように四つん這いでピクピクと小刻みに震えていた。


 「オーナー、あんた」

 「ぎっくり腰です……」

 「おおう……」


 先程言っていたとはこういう事なのか……。


 吉乃さんは、採取用に引いてきたリヤカーに乗せて運ぶことにした。


 ついでにサンダーバードの素材も持てるだけ持ち帰ろう。

 

 「何で俺が引かされんだよー!?」

 「あんた、鱶野意外とバトったじゃん。その罰っしょ」

 「うぇーい……」


 そう言えば、そんな事きめてたっけ。


 「うう、チクチクします……」

 「ヨッシーも文句言わない!そんなんなるまで暴れたのが悪いんだからね?」

 「……ごもっともです」


 何だか今日一日無駄にした気がしてくる。


 「今日一日、ロクでもない事に巻き込まれた……。――オーナー、来月分も家賃滞納するからな!」


 帝さんはこれにかこつけて、良く分からない事を言い出す始末だ。


 「帝君それはちょっと違いませんか?」

 「聖騎士の情報だって、アンタらの事だったろうが」


 笠井のスクーターは、帝さんが乗って並走していた。


 「それは、少し違いますよ?」

 「そうなんですか?」

 「ええ、そうですねこれだけは、鱶野君に伝えておかなくては。――貴方の……、魔王の存在を快く思っていない人達は、此方の世界にも確かに存在をしているのですから……。彼らは自分たちの事を“解放者リベレイター”と名乗っています」

 「!?」

 「君は命を狙われているのです」


 なんだって――!?


 急に背中がうすら寒く感じるのだった。



  


 

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