共闘

 「天空魔将ギルバトス!?こんなイカレた奴が商店街に野放しだったのかよ!!??」


 人類軍側でもそういう扱いなのか……。


 「ち、クソが!――ちゃんと、首輪とかしとけよな!クソ、魔王!!」


 緋音さんは、俺を睨んだ。


 「俺の責任なの!?」


 ペットかよ――!


 しかし、困った。


 この世界の魔族は人類に無害だという事を証明せにゃならんのに、こんな戦闘狂に出てこられては、話が余計にこじれてしまう――。


 「笠井ーーー!魔王以外に喧嘩吹っ掛けんなっていったじゃん!!」

 「俺も溜まってたんだからしょうがねーだろうよー!一発発散したら納まるから、ヤらせてくれよー」


 誤解を招く発言はやめろ――!


 「汪理君、やはり継承者でしたか……。しかも凄いやる気ですねぇ……。そんなにラブコールを送られると答えたくなってしまうではありませんか。――どうでしょう、鱶野君。ここは一時休戦ということで」

 「え?あ……、ああ、良いですけど」


 そもそもこちらには戦闘の意思がはなっから無いのだ。


 二つ返事で了承する。


 「でも……、できれば命だけは……。あいつアホだけど悪い奴じゃないんです。アホだけど……。ゲンコツとかで済ましてくれません?」


 吉乃さんは俺をまじまじと見た。


 「?」

 「ふふ……、いえ、失礼。思った通り魔王には向いていない人だと思いまして」

 「え……、それって……」

 「では、行きますよ!汪理君!!剣聖イングラム・フリーデン……、いえ、吉乃菊次郎がお相手します!」

 「うぇーいwじーさんがあの剣聖かよお!!!棚から牡丹餅ったぁこのことかぁ!」


 笠井は喜々として、此方を目掛け滑空してくる。


 「グラディオン・ボルト!」


 吉乃さんは、空中に岩の弾幕を張り巡らす。


 そして、その岩が落下する前に飛び乗り足場にして、ずんずんと上空に登っていった。


 「おいおい……、マジかよ。ご老体……」


 さながら義経の八艘飛はっそうとび。


 いや、見たことはないけど――。


 なんの不自由もなく天を駆ける光景に目を奪われた。


 「俺ぁ……、アンタとヤりあうのが夢だったんだよぉ!」

 「それは、光栄の極み!」


 笠井の爪をするりと交わして、指の上に降り立った。


 「思う存分ヤり合いましょうか」

 「うぇーい……!」


 ……。


 ……。


 ……。


 「あーあ。吉乃のじーさん始めやがった……。――こっちはどうする?静流先輩??」


 緋音さんは、身体にまとわりつく氷を振り払っていた。


 「そうね~、どうしましょうか?――ああ!!!!!」

 「なんだ!?急に!!?」

 「そこのー!アレスリゴールの継承者さーん!!今何時ですーーー!?」


 静流さんは帝さんに話しかけた。


 「は………?あ、いや。18時30分だが……」

 「噓!もうそんな時間!?私お夕飯の買い物の途中だったの~。――……だから、緋音ちゃん、ごめんなさい!後はお願いね~」


 そそくさと出口の方に向かって走っていった。


 荒野をかける主婦。


 変な絵面である。


 「え!?ちょ!はぁ!!?」

 「スーパーの特売の玉葱買って帰らなきゃーーー!」

 「そこは、で買ってけよーーーー!!!!」

 

 緋音さんは、置いていかれて立ち呆けている。


 「で……、アンタはどうするわけ?」

 

 春沢は、聖剣を構える。

 

 「ったく……。アホらしくなってきた……。アタシも帰るわ」

 「え!?」

 「はぁ!?」


 そう言って変身を解いた。


 「だってお前ら悪さする様な奴らには見えねーし」

 「ちょ……!だってさっきまでのは!?」

 「……前世のケジメってぇの?一応、どんな奴かは確かめておかねぇとなって……。――まぁ、魔王は陰キャっぽいし、姫様はゆるゆるだし、正直一目でねぇなって……」

 「ちょーい!ゆるゆるって何処がだし!?」

 「待てぇい!ど、何処の誰が陰キャじゃ!――……え、俺って魔王モードでも陰キャっぽいの……?」


すたみな次郎『哀しいかな……』

ひめひめひめなー『ドンマイw』

最速の牛歩『オーラ出てるよwww』

北斎『いくら甲冑をまとおうとも、陰キャオーラは消せないのだ……』

三人目の僕『南無』


 「なんか悪かったな色々と……」


 そう言うと緋音さんは、俺達にチラシをくれた。


 「何これ……」


 八百屋のチラシだ。


 「それウチだから……、来てくれりゃ接客くらいわしてやるよ……」


 そこはサービスじゃないのか――。


 緋音さんは、少し恥ずかしそうに言った。


 そうして、大型二輪を岩影から持ち出すと慣れたように跨がった。


 「んじゃぁ、アタシも店番あるから帰るわー!!!!」

 「二人とも帰るのですか!?」

 「ああ、わりぃ!――そっちだって、もう満足したろ?」

 「……確かにそうですが。――僕の送迎は誰がしてくれるんです!?」

 「魔王とかにさせりゃいいじゃん!ってことでじゃーな!」


 はぁ――!?


 緋音さんは颯爽と消えていった。


 「先輩!待ってくださ~い。送ってきますよー!」


 あの人はあの人で自由人だな……。

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