魔王の覚悟

 吉乃さんの聖剣捌きは迷いのない真っ直ぐ軌跡を描く。


 なので、余りにも正直すぎる太刀筋は、一打一打の威力の重さを度返しすれば受ける分には簡単だ。


 ただ、どんなに受けても次の手までの出が速く、おまけに一打前の体勢から受けづらい場所に入れてくるので、必然的にこちらは、防戦一方になってしまう。


 「魔剣は使わないのですか?リベリアル」

 「こちらにも、事情と言うものがあるのだ!ぬううん!!」


 おまけに相性が悪かった。


 前世の俺の戦い方はパワーを活かした力押しで行く型で、それも魔剣ありきの戦法なのだ。


 対して、イングラムは剣の性能に頼らない剣の達人。


 速さと技術では敵わない。


 「しかし、これでは手も足も出ていませんよ?魔王がこの程度とは少々がっかりです」

 「こんのぉ、言わせておけば!」


 魔剣を使えない時点で、俺の不利は決まっていた。


 「み、帝さん……」


 駄目元で、魔剣使用の許可を願い出てみる。


 まぁ、顕現させようとして出来るかは知らんが。


 「魔剣を出したらコロス……」


 ですよねぇ――!


 こうなったらなけなしの戦闘センスで切り抜けるしかない。


 幸い吉乃さんの剣の動きには目が慣れてきた。


 振り下ろしを弾いてからの横への一閃。


 「見切ったぁぁぁ!」


 今だ――。


 「そおおおおい!」

 「む!?」


 剣では受けずに上半身を反らす。


 聖剣が腹の数ミリ上を撫でる。


 あ、危ねぇ――。


 変身前の太ってる状態だったらツンデタ。


 その勢いでサマーソルトキックを放ち、聖剣を蹴り上げた。


 「とりゃあああ!」

 「……!?」

 「足なら出せたぞ?ご老体!」

 

 着地後すぐに攻撃態勢に移る。


 この好機を流さない。


 胴体がガラ空きになっている今なら……。


 いや――!


 「そこだああああああ!」


 吉乃さんの右肩を狙って、魔力の剣を突き出す。


 継承者にとって第二の心臓とも言える、魔導紋だ。


 先程、変身した時にそこから光が発せられていたのを確認していた。


 「なんの!」


 しかし。


 すんでのところで、鞘を使われガードされてしまった。


 「マジか!?起死回生の一手だったのにーーーー!!」

 「ふぅ……。今の一手は焦りました」


 その割には額に汗の一つも無い。


 「――何故、心臓を狙わなかったのですか?」

 

 吉乃さんは俺を真っ直ぐ見た。


 確かに前世の魔王ならば、迷わずそれが出来ただろう。


 しかし、今の俺はリベリアル・ルシファードではなく、鱶野辰海のなのだ。


 「俺には吉乃さんを殺す理由が無いからです。――やめましょうよ、もうこんな事」

 「では、どうして魔王を名乗っているのです?魔王の存在を知れば、こうして貴方に刃を向ける者達がいるのは分かっているはずですよ」


 そんな事は百も承知である――。


 「確かに俺は魔王リベリアル・ルシファードの継承者だ。でも、誰かと争うためにこの力は使いたくない。リベリアルも初めはそうだったんだ。魔族を守るためにこの力を使いたかった。――でも、実際は人類と争ってばかり、だからこの力を受け継いだ時に俺は決めた。今度こそ、この力を人類の為にも使おうと!」

 「鱶野辰海……」

 「鱶野……!」

 「……」

 「それでもアンタらが俺の事を憎むというのなら……、全部それを受け止める!」


 出来る限りのだけど……。


 それが俺の覚悟なのだから――!

 

 

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