魔王と罠と


 「ピラ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!」


 「ふん。ギルバトスでは無いが、私も空中戦は得意なのだ」


 そう言って、コートをひるがえすと蝙蝠こうもりの翼の形状になり、空中へと飛翔していった。


 サンダーバードは翼から無数の雷撃を放つ。


 雷系の魔術と同じで、標的に真っ直ぐ飛ばすことが難しく、ピンポイントで飛んでくることは無いが、かわりに喰らえばその威力は絶大だ。


 帝さんは、それを蜘蛛の巣の隙間を通るかの如く、すり抜けていく。


 俺達も危ないので、空中に退避した。

 

 余談ではあるが。


 サンダーバードは針の様な羽毛を振動させて、電気を生成し、雷を撃ってくる。


 羽毛の振動により帯電した空気は、魔力により電位差が操作されて、雷が通りやすいを造り、それをガイドにして雷撃を落としてくるのだ。


 原理は雷系魔術と非常に似ていた。


 先程。


 帝さんは、サンダーバードの脳みそが小さいと言っていたが。


 人間ですら魔術式の演算が無ければ無し得ない事を、サンダーバードは生身でやってのけるのだ。


 まさに生命の神秘である――。


 帝さんは雷撃の雨をい潜ると、奴の背中に取り付いた。


 そして、手にしたレイピアで何度も背中を突き刺しながら、頭から尾まで移動していく。


 背中では、スパークが弧を描きながら幾つも疾走し、襲ってくる。


 「こんなもので、私を捉える事が出来る物か!」


 それを蝶のように舞い、蜂のように刺しながらいなしていた。


 パルクールみたいである。


 尾に到達すると大きく飛び上がり、そのまま地面の方へ帰っていった。


 クルクルクル、シュタっと。


 体操選手顔負けのウルトラCを披露する。


 「「おおーーーー!」」


 パチパチパチと。


 俺と春沢は、思わず拍手をした。


 帝さんは地面に着地すると、レイピアを指揮棒のように掲げ、


 「鮮血の――」


 「ピラ”ア”ア”……!?ア”ア”……!ア”……、ア”……」


 振り下ろした。


 サンダーバードを背に、最早姿すら見ていなかった。

 

 「ア”……」


 「――ブラッディ・クロス」


 身体の内側から針の羽毛を引き裂いて、深紅の刃が無秩序に飛び出した。


 相手の体内に魔力を送り込み血液を操作する、アレスリゴールの奥義である。


 ドスンと。


 巨大な怪鳥は墜ちていった。


 「どうだ!見たか!?糞ガキども!!!これに懲りたら私の事は、もう二度となどとなれなれしく呼ぶな!!?」


孔掘る加藤『うををををを!かっけええええ!!!』

浴びるごはん『“¥600”やるやんけ!ミカっち!!』

刃獅子『すごごごごごご』

よぎぼぅ『ばけもんだ!』

感嘆すけぼぅ『おk。あんたすげえよ……ミカっち』

みぎよりレッドロード『分かったよ、ミカっち』

暗黒☩騎士ざまぁん『ミカぁ!』

QOPT『すっげwそれも魔術なんか!?』

RB箱推し『ミカっち←NEW!』


 「だから人の話を聞け、貴様ら!」

 「「www」」


 こればっかりは仕方ないのだ――。


「――いやはや。見事な技を見せて頂きました」


 パチパチパチ。


 乾いた拍手が、どこからともなく聞こえてくる。


 「!?」

 「?」

 「誰だ!?」


 まさか……、ここで見たという聖騎士か――!?


 声の主を探ると、近くの丘の上に三人分の人影が見えた。


 三人も――!?


 いや、まだ聖騎士と決まったわけじゃ……、


 「本当に見事ですよ。――以前よりも技に磨きが掛かりましたかな?盤上の剣、アレスリゴール」

 

 な……!?


 「アンタは!?」

 「うっそー!?」

 「そんな……」

 「魔王と姫様だけでなく、魔王軍の軍師までお揃いとは。少々厄介ですなぁ、はっはっはっは!――突然で申し訳ないのですが、覚悟の方は宜しいですかな?」


 その中に見知った顔が……。


 「吉乃……、さん……!?なんで……。――あんた、聖騎士だったのか……」


 聖騎士の情報情報をくれた張本人、ダン友の吉乃さんだったのだ。


 つまり、最初から罠っだった……!?


 「なんでってのはこっちの台詞だ!クソ魔王!!――なんでてめぇとウチの姫様が仲良くつるんでんだ!?」


 吉乃さんの右隣には、髪を緋色に染めている威勢のいい若い女性。


 物腰から不良ヤンキーの様な印象を感じる。


 どういった繋がりなのだろうか――。


 「あらあら、駄目ですよ~。女の子がそんな乱暴な言い方したら。せっかく可愛い顔してるのに~」


 そして左側には、おっとりとした口調で話す、栗色サイドテールの女性が。


 手には買い物袋をげている。


 主婦?


 マジで、なんの繋がりだなんだコレ……!?


 「今あんた達、ウチの事、姫様って……」

 「如何にも……。我々は本来貴方様を御守りする身ですが、どうか、今だけ切っ先を向ける無礼をお許しください」

 「は!?それってどういう……」


 吉乃さんは一歩前に出た。


 「なぁー、吉乃のじーさん。本当にやるのかよ?」

 「おや、緋音あかねさん、貴女らしくも無い。――もしかしてビビっちゃいましたか?」

 「は、はぁ!?ちげーし!――ただ、やり方なんて他にもあるだろ!?」


 ん?なんだ??仲間割れか――?


 「僕もなにぶん不器用なんでね……。結局、これしかないのですよ。――すみません、付き合わせてしまって」

 「……ち、仕方ねーな。やってやるよ……」

 「そうね~。家庭の平和を守るために、頑張りましょー!」

 「いや、それ、静流しずる先輩だけだから……」

 「それでは、お二方、参りますよ。――抜刀構えぇぇぃっ!!!」

 「「抜刀構え良し!!」」

 「!?」


 何やら話始めたかと思えば、一瞬で雰囲気が豹変する。


 まるで別人ではないかと思えるほど腹に響く声。


 吉乃さんは目をカッと開き叫んだ。


 号令に残りの二人も続く。


 一連の所作は規律を重んじる聖騎士そのもの。


 その緊張感が、此方にまで伝染してくる。


 間違いない――。


 目の前にいるのは、聖騎士なのだ。

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