大人の意地
今日は、春沢と八王子第十二ダンジョンへとやって来ていた。
Sランクダンジョン。
剝き出しの岩肌や小高い丘のある、だだっ広い位置階層のみの荒野のダンジョンである。
本日の春沢はカウガールのスーツで探索に臨んでいた。
聖剣がミスマッチで面白い。
しかし、LouveLueurのスーツは多種多様である。
これじゃぁもうコスプレ配信じゃないか――?
そして、もう一人。
今回は特別ゲストもやって来ていた。
「こんたつ~。皆今日もお疲れ様!”魔王タツミの真ダンジョン無双録。”今日も張り切って配信していくぜ!!!」
すたみな次郎『こんたつ~』
鶏でも食べる獣『こんたつ~!』
不明な点はお問い合わせました『タツミ、ギャル沢待ってたぞ!』
吉良りん革命『こんたつ~』
ひめひめひめなー『こんひめ~』
たぬきつねそば『こんギャル~』
浴びるごはん『おっつー』
みぎよりレッドロード『よ!大将!!』
アイロン男『こんたつ~』
「今日の配信は、この魔王タツミと!」
「春沢と!」
「……」
配信向けの少し高めのテンションの俺と春沢の後ろに仏頂面の男が一人。
「えっとぉ……。ウチらと特別ゲストのミカっちで配信していくぜぇ!」
「誰がミカっちだ!」
「えー!?緊張してると思って和ませようとしたのにー……。あ!それとも、ミカりんのが可愛いか……」
今回は帝さんも探索に同行しているのだ。
春沢なりの気の遣い方にキレていた。
「そういう問題ではない。帝だ!帝!――ったく。配信はしても良いと言ったが、私まで映して良いとは言っていないぞ鱶野辰海」
「そんなの無理だよ。どうやったって画角に入るんだし……」
「ちッ……。これで聖騎士の情報とやらが空振りだったら許さんからな……」
おお……、怖っ……!
聖騎士の情報とは、先日ダンジョンで偶然助けた吉乃氏が提供してくれた情報である。
吉乃氏とは、あれ以降“ダン友”(ダンジョン探索で知り合った友人)となり、何かと情報の交換をしていた。
それで、今回のタレコミを帝さん達に報告したところ、仕事が無くて暇d……、偶然、予定の空いていた彼も同行する流れとなったのだ。
みぎよりレッドロード『お!新入りか?よろしくな!!ミカっちwww』
xcyuddfd『イカツいなw』
縄Q『“¥300”新入り入隊記念』
るっきー@指『“¥4800”あらやだ♡色男♡』
姫ちゃんぱぱ『こいつ、この前の敵っぽかった奴じゃん』
相撲区千伊豆『なんか増えてるw』
㌔㍉㌔㍉『お!改心したんかワレぇ!』
痛風のタツナー『ミカっちぃ!』
「貴様らも馴れ馴れしく呼ぶな!」
俺の配信に出てくる奴らは、皆おもちゃにしようとする。
たつらーの悪い癖である。
最速の牛歩『タツミの仲間の癖に、俺らに意見とは頭が高いんじゃない?』
鵜鶴nデス『“¥450”おら、おっさんなんかやってみろよw』
「あ”あ”ん”!?」
小田亮『モンスター狩ったりしてさあ!』
征夷大将軍大統領俺『先ずは武功を上げてみい』
あれ草『新メンバーさん!?』
oni瓦『なんだ、オッサンじゃん!』
ブチッ。
そんな音がした気がする。
「貴様ら……。良いだろう……。……。目に物を見せてくれる!!――少し待っていろよ……」
「え……。ちょっと?」
そう言うと、帝さんは何処かへ走り去って行った。
アレスリゴールの継承者とはいえ、性格はそこまで似ないようだった。
前世では、常に冷静さを重んじるのがアレスリゴールだった。
常に激さず、淡々と戦況を見極めていた。
怒られたのも会議の時間に遅れた時と、寝坊した時と……、在りし日の記憶が懐かしく
それと……、魔剣の掃除をサボった時と、会議中に居眠りした時、公務中にオーク達と釣りに行った時……、くらいしか怒られていないのだ。
ん……?
冷静さ、どこ行った?
あれ……、結構怒っているかも……。
前世も今も、あまり変わってない気もしてきたぞ――。
などと考えているうちに。
「あ、もう戻って来た」
「お!」
帝さんは直角に腕を曲げ、とても綺麗なフォームで走って来る。
如何にも探偵風といった感じのコートがバサバサ音を立てていた。
そして、その後ろには……。
金色に輝く大きな鳥が……。
あの鳥デカくない――?
帝さんの後を追うように、地面に雷の柱も連連と落ちているのが見えた。
アイツは!?
「ピラ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!」
「サンダーバードォ!!!??」
「うっそぉ……!」
あああ『ミカっちがなんか連れてきたぞ!』
吉良りん革命『うお、でっか……』
入鹿『強そうじゃん』
空中ブランコ『ヤバそう』
ジビエチャンネル『“¥300”楽しくなって参りましたw』
楽しいなんてどころじゃない。
サンダーバードは暗黒大陸での三大激やばモンスターの一体だ。
好戦的で食欲旺盛。
硬さと速さ、それに加えて
かつて、部下が何人も世話になったのを覚えている。
文句なしのSランクモンスターである。
「はぁ……はぁ……はぁ……。ふん……。力の差も顧みず……、釣られて来ると……、は……、図体に比べ、脳みそはかなり……、小さいと見える……」
「何、息切らしながら言ってんの!?」
「うわぁ……、めっちゃ怒ってるんですけど」
「当たり前だ。腹が減って気がっ立っている様だからな……。――良いか!刮目して見ていろ!!この糞ガキども!!!!!」
まさか……、この男……。
自分の威厳を誇示するためだけに、こんなものを連れてきたのか――!?
「戦術!展かあああい!!!!」
めっちゃ、気合入ってんじゃん……。
大人気ない……。
「鱶野辰海、春沢真瑠璃。お前たちはそこで見ていろ。こいつは私の獲物だ」
「はいはい……。もう、好きにすればー」
春沢が呆れている。
これはもう相当だぞ――。
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