第一回、新魔王軍作戦会議

 理事長室の一件の後。


 俺達は、保健室で作戦会議と言う名の反省会をすることになった。


 「うわああああ!言ってしまたーーー!!!」


 俺は勢いでモルガリアの件を引き受けてしまい、若干後悔していた。


 「ふ……。まぁ、おまえにしては良く出来た方だ。鱶野辰海」

 「え?」


 帝さんは真っ先に怒るかと思ったらそうでも無かった。


 「有栖院は、超が付くほどの狡猾な女だ。奴は必ず有利な条件での交渉しかしない。勝ち戦しかしないんだよアイツは。――それを、思えば。奴の指揮下に入る事無く、湯水の様な資金の援助も受けられる契約を出来たのだから及第点くらいはくれてやる。――それに、だったろ?お前らの進路の問題だって、学校側の方は片付いた」


 都合の良いってどういうことか――!


 大体、その進路の問題だって原因は理事長だと言っていいのだ。


 何だかこの人たちの手の平で転がされている気分だ。


 腑に落ちない。


 「さっきはあんなにキレてたじゃん」

 「当たり前だ。今回の着地点は、私が予想した中でも下の方。――元魔王だったら、もう少し良い条件を取り付けられると思っていたんだがな。やはり、所詮は子供の様だ」

 「なぁ!?」


 上げて落とされた。


 「まぁまぁ、その辺にして。――でも、新魔王軍ってのは、ボクも驚いたよー」


 仕方が無い。


 俺の頭では、あの時はアレが最適解だったのだから。


 「やっぱり、駄目だった……?」

 「……問題ない。これは想定外だったろうさ。こちらの予定はその分修正すれば済むしな。――では、これからの我々の活動方針を伝える」


 帝さんは、ホワイトボードの前に立ち仕切り始めた。


 一応、新魔王軍への出向扱いだが妥当だろう。


 まぁ、学生の俺に仕切れと言われても逆に困るのだ。


 俺達はスツールに腰掛け、説明に耳を傾ける。


 「活動方針としては、大体の内容がグラウベン機関のものを引き継ぐ形だ。つまり、聖女モルガリアの企みを阻止する事を最大の目標とし、その他継承者関連の事件を解決する。と言った感じだ。――そこで、鱶野辰海、春沢真瑠璃の両名にはダンジョン探索配信をしながら、ダンジョンの異常を調査して貰う」

 「良し、引き受けた」


 って――。


 「なんか、それって今までとほとんど同じじゃね?」


 春沢の言う通りだ。


 ダンジョンの異常を調査なんて言っているが、探索=調査みたいなものである。


 「何か問題でも?」

 「そんなんでモルガリアの企みを止めれられるのかって……」


 なんかこうもっと、面倒臭いを要求されるのかと思えば、拍子抜けだ。


 「モルガリアの調査については、ボクと帝さんが担当するよー」

 「いや、皆でやった方が早いっしょ?」

 「それは駄目だ」

 「なんで?」

 「お前たちの行動内容が変われば、それに合わせてモルガリアも行動を変えてくるかもしれないからだ。最悪のケースでは、奴がこの前の様な一般人を巻き込んでの強硬策に出るかも知れん。――大きく動くならもう少し、モルガリアの周りを調査してからでないと危険だ」


 成程――。


 確かにそれはこちらも望まない。


 「それにお前らには、を調査して欲しい。――聖騎士を見たとの報告も受けているが、恐らくこちらには聖女は関係していない。奴にしては動きが雑過ぎる。――が、我々にはこちらも無視はできないのだ」

 「そうだ。そっちの問題もあった」


 ただ、こっちの件はあまり理事長は興味なさそうだった。


 理事長にとっての敵はあくまで、聖女モルガリア、豊徳院翆怜なのだ。


 やはり、ライブライバー社を目の敵にしているだけなのでは――?


 「各ダンジョンにいる自己進化超生体達には、サポートするように言っとくから、上手く使ってやってね」

 「う”っ……、ウネウネも仲間になるの……?」


 春沢は身震いする。


 春沢は、触手系に良い思い出が無いのだ。


 「ええ!?あのヌメヌメすっごいお肌に良いのに~」


 環さんは、自分の自身作なので擁護する。


 「いや、そーゆー問題じゃないし」

 「後、一番重要な事を言っていなかった。――鱶野辰海。絶対これ以上魔王としての力を覚醒させるなよ?」

 「わ、分かってるって」


 これについては理事長室でも、もう何回も念押しされた。


 耳にタコが出来るというやつだ。


 「魔剣も顕現させちゃだめだからね!」

 「ええー!?魔剣もーーー!!?」


 魔剣顕現RTAとか予定していたのに――。


 「当たり前だ!魔剣が魔王の本体と言っても過言ではないからな」

 「俺は、オマケか!?」


 不服である――。


 「いいか?兎に角絶対だからな。絶対、魔剣出すなよ」

 

 なんか、こうまで言われると逆にフリに聞こえてくる。


 「実は、駄目とか言って期待している奴じゃ……」

 「違うわ!」


 帝さんのツッコミが保健室に響き渡った。


 「それじゃ、外も暗いしお開きにしますか」


 気が付けば、外はもう暗い。


 秋になって、日の入りが早くなって来たのだ。


 「待て、それと……」

 「だから、魔剣は出さないって」

 「違う。――ギルバトスにも変なことするなと言っておけ」

 「ああ……」


 笠井の奴。


 新魔王軍とか言っておきながら、さっさと帰っていきやがった。


 まったく自由過ぎる。


 「多分それ、モルガリア倒すより難しい……」

 「言えてるかも……」

 「だよねー」

 「ちっ……」


  自由を求めるためには、自由が障害になる事もあるのだ――。


 などと、迷言が頭に浮かんだ。

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