デュミナスリング

 グラウベン機関……、そこはかとなく格好良い響きである。


 厨二病心がくすぐられる。


 では無くて。


 「その正義の組織が、どんな理由があって俺達の事を監視していたんだ?」


 よもや、春沢以外に俺のストーカーが存在していたとは――。


 「グラウベン機関の活動目的は、世界の均衡を保つ事。主に継承者絡みの事件を未然に防止したり、起きた事件を鎮静化することが活動内容だ」

 「つまりそれでアンタ達は、俺達が事件に巻き込まれないように見張ってくれてたって事か?」 

 「そーだよー。豊徳院君の配信以降、君達を色々な組織から守るために監視していたのさ」

 「じゃあ、どうして、そのバウムクーヘン機関?が今になって出てきたん?」

 「グラウベンだ……。どうしてそうなる?――まぁ、同じドイツ語ではあるが」


 帝京介はサングラスを指で押し上げる。


 「――良いだろう。私も回りくどいのは嫌いだ」


 嘘だ――。


 アレスリゴールは、何重にも罠を張って獲物が身動きを出来ない所まで追い詰めてから、更にジワリじわりと締め上げ殺す。

 

 そんな蜘蛛と蛇を足したような性格の男である。


 性格の捻くれ具合は魔王軍随一だ。


 「要件は二つ。先ず一つ目は警告だ。これは、今達成された」

 「いやいや、警告って。そんなのわざわざこんな所に呼び出してしなくても良かったじゃん!」


 春沢が突っ込む。


 「駄目だ。馬鹿には、どんなに口で言っても意味が無い。実際にそれを疑似体験して貰うのが一番効く」

 「はぁー!?ちょっとぉ、今馬鹿って言ったしー!!」

 「そうだろうが。現にここまでノコノコやって来ただろ?次からはこれが実際に敵だった場合を想定して、疑いながら行動することだ。でなければ、我々とて庇いきれん」

 

 庇うだと――?


 先程も監視と言っていた。


 「何なんだ、その庇うって?」

 「言葉通りの意味だよー。ボク達は監視するだけじゃなくて、さっきの話に出た、辰海君やハルちゃんの命を狙ったり、力を利用とする組織やつらが近づけないように色々暗躍してるのさ。その筋では、君達は君達が思っている以上に有名人なんだよー?」

 「――例えば、お前たちの個人情報の保護だ。魔王や姫騎士の存在が初めて世界に発信された豊徳院の配信以来、直ぐに個人情報を特定をする動きが各地で見られた。そこへ我々が嘘の情報を流して妨害したのだ」

 「そうだったのか……」


 知らなかった……。


 確かにネットで有名になるイコール個人情報の特定みたいなところはある。


 俺も少しは、自分の事をエゴサーチしてみたが、自分たちの住所や素性を特定しようとする動きは見られなかった。


 その時は、あまり注目されていないと能天気に落胆などしていたが、まさか、実態はその逆だったのか――。


 ……。


 ん?


 「だったらだって、本当の事を言っているとは限らないだろうが!?」

 「ほう……。少しは効果があったみたいだな」

 「ウチも環ちゃんの事は信じたいケド……。そこのヤクザみたいなおっさんはメチャクチャ怪しーし!!」

 「誰がヤクザだ!どう見ても立派な探偵だろうが!?」


 反社会的な人じゃないのか……。


 言われてみれば、古典的な探偵スタイルである。


 「あと、おっさんではない……。――まぁ、それは良いだろう。兎に角。今ここで理解して貰おうなどとは思ってはいない。大事なのは、お前たちがこれを踏まえてこれからどう行動するかだからな。――それと、二つ目の要件だ。これを渡しておく」


 そう言うと、俺達の方に指輪の様な物を投げて寄越した。


 綺麗な宝石?が付いている。


 「え!?ちょっと可愛いー……」

 「これを売って、新しいドローンカメラを買えば……」

 「おい、こら」

 「こらこら、売ろうとするでない。それは、ボクが発明した“デュミナスリング”。宝石みたいなのは、超圧縮したマナの結晶だから売れないよ?――それがあれば、制限はあるけど、ダンジョンの外の世界でも覚醒状態に変身が出来るし、魔術も使えるのさ。この天才、カルバート……、もとい、環さん渾身の一品なのだ!」

 「マジかよ!?」

 「本当、本当。後でちょーっと使ってみるー?被験t……、んん!利用者の感想が聞きたいしね」


 なんか今、言いかけたぞ――?


 まぁ、それは置いといて。


 流石は錬金のカルバートだ。


 こんなものまで作ってしまうなんて。


 本物であればだが。


 「これで万が一があっても自衛が出来るだろ。精々有効に使うんだな。――それで我々の事を信じろとは言わないが、敵対する意思が無いことくらいは伝わったハズだ」


 確かに、最初の様な敵意は無かった。


 そもそも、アレスリゴールが本気なら、俺達も今頃無事ではないのだ。


 しかし、本当にこれだけの為に、こんな大掛かりな事を――?


 そこだけは、気になった。


 「では、今回はこの辺で、失礼するとしよう……」


 そうして、俺達はこのダンジョンを後にした。


 環さん達も一緒に付いてきた。


 こういう時って、「さらばだ!」とか言って忽然と姿を眩ますもんじゃないのか。


 いまいち、カッコが付かなかった――。

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