探索者ランク昇格試験

 本日は春沢と、八王子北野にあるギルド試験場に来ていた。


 ギルド試験場とは。


 民間の企業が運営している、探索者ランクを決定する試験を行ったり、ギルドカードの発行・更新などを行っている施設である。


 魔術を使う都合上、試験場はダンジョンを利用して作られていて、全国に点在する。


 最近では、Aランク以上でなければ探索が出来ないダンジョンも増えてきたため、探索者ランクの昇格が必要になってきたのだ。


 そろそろ、ギルドカードの更新もしないといけないので丁度良かった。


 それに、帝氏に「もっと強くなれ」と言われたのだ。


 どっちかというと、監視などするくらいだからダンジョン探索配信を止められるかと思ったのだが、そんな事は無かった。


 全く、元我が軍の軍師殿の考えていることは分からん。


 まぁ、ダンジョン探索ができる方がこちらとしても嬉しいのだが――。


 俺が完全に力を取り戻せば、姫騎士の聖剣以外に魔王を止められるものなど存在しなくなる。


 そうなれば、グラウベン機関とやらの監視も必要なくなるはずだ。


 最早、のだから。

 

 それに如何やら、あちらも人員不足で俺達にだけ構っているわけにもいかないらしい。


 とは言うものの、先はかなり長そうである。


 俺に至っては、魔剣すら顕現できていないでいる。


 兎にも角にも。


 強くなるには、強い敵の居るダンジョンを探索するというのが手っ取り早いのだ。


 ギルド試験場は近代的な見た目の建物で、何かの実験施設に見えなくもない。


 そんな、白い箱状の建物がダンジョンの中にあるのだから異様な光景である。


 俺と春沢が施設内に入ると。


 ロビーにいる人達がその姿を見て少しざわつく。


 何人かが、チラチラと遠巻きにこちらに視線をなげた。


 殆どが春沢を見てだろうが、を知っている人間もいるはずだ。


 何だか、少し有名人になった気分になり、胸が反り返る。


 ただ、環さん達が警告したように、俺達に良からぬ感情を抱いているが紛れているかもしれない。


 面倒事には巻き込まれないように、留意しておこう。


 ロビー正面の受付にいる眼鏡のお姉さんに手続きをして貰う。


 「こんにちはー!――本日は、探索者ランク昇格試験のご参加ですか?」

 「あ、はい。そうです」

 「それでは、ギルドカードとDギアをお預かりします。――それと、こちらの用紙の太枠内の必要事項をご記入ください」

 「あ、はい」

 「その間に探索履歴ログの方、見ちゃいますねー。――ええと、LL社のDギア……、と……」


 俺が用紙に記入をしている間に、眼鏡のお姉さんはDギアを備え付けてあるパソコンの様な端末に繋げて、戦闘記録や使用魔力量のログを調べている。


 Dギアは、ダンジョン内の探索者を常にモニタリングしていて、それを見れば現在の大体の戦闘能力ステータスが把握できるのだ。


 それによって、俺が今回受ける試験の内容が決定されるという訳だ。


 「魔力の履歴はっと……、C、C、B、C、B、A、B、A……、A、お!凄いですね!!Aランクなんて久しぶりに見ました」

 「あ、いえ……、それ程でも」


 お姉さんは、感心した態度を示す。


 Aランク探索者でも全世界で2000人程しかいないのだ。


 「S?、A、SS!?あれ、故障かな……?」


 受付のお姉さんの顔からどんどん血の気が引いていく。


 「あははは……。S、SS、S……、SSS!!!???ぇ……、S……、SS、け……?計測不能ぅ!!!!!!!???????」


 お姉さんは、作業の手を止めて、堪えきれないかの様に大声で叫んだ。


 会場の視線が一気に俺に向けられる。


 「あははは……、大変、失礼しました……!」


 うーん、ラノベで百万回見た展開――。


 ただ、「え!?何か変な所でもありましたか?」などとキョトンととぼけたりはしないのだ。


 こうなる事は、ある程度予想は出来ていた。


 俺はそこんところは弁えているのだ。


 「もしかして……。これって……、故障していたりとかは……??」

 「あ……、多分、無いです。――なんか、すみません……」


 面倒くさい客ですまぬ――。


 取り敢えず、申し訳なさそうに謝る。


 所詮はの魔力値なのだ。


 継承者として、ましてや魔王として覚醒してしまえば、その範疇はんちゅうに収まらないのは仕方が無い事だった。


 「申し訳ございません。少々お待ちください。――所長ーーーーー!!!」


 そう言うと、お姉さんはバックヤードに消えていく。


 「ええ!?どういう事!!??――所長ーーーーー!!!」


 隣で受付をしていた春沢の方でも同じ現象が起きていた。


 「春沢なんかしただろ?」

 「鱶野こそ」


 原因は俺達にしか分からず、それが何だか可笑しかった。


 ……。


 ……。


 「た、大変お待たせしました……!試験の準備に時間がかかってしまうため、一時間程お時間を頂きたいのですが……」

 「あ、大丈夫です。お願いします」


 15分くらいでお姉さんは戻って来た。


 乱れた髪から、想定外の事態が起こったことが見て取れる。


 仕方が無いので俺達は、施設内にあるフードコートで時間を潰すことにした。


 壁際の空いている席に座ったが、先程の件もあってか中々落ち着かないものだ。


 「ここ、色んなお店入ってんだねー!」

 「そーだな」


 アイスコーヒーにドーナッツ、クレープにたこ焼き。


 若者の人気のフランチャイズ店が集まっていて、春沢のテンションはぶち上がりだ。


 「しかし、また、良く喰うなー」

 「鱶野だって」

 「お、俺はいいんだよ代謝が良いから」

 「じゃーウチもー」

 「ったく……」


 特にやれることも無いので、備え付けてある大型ディスプレイでも観ることにした。


 現在配信している有名Dライバーのライブチャンネルがザッピングされている様だ。


 暫く眺めていると、豊徳院のチャンネルが映し出された。


 奴はもうすぐ、登録者300万人である。


 既にライブライバー社の中でも上位なのだ。


 と、


 「ああ!?」

 「ちょ!?何!!?急に大声出す無しー。びっくりすんじゃん」

 「い、いや……すまん」


 俺はある事を思い出した。

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