グラウベン機関

 アレスリゴールは、魔王軍の軍師である。


 いついかなる時も冷静であり、緻密に計算された作戦を展開し、人類軍を圧倒した。


 血の涙も無い性格で、合理性の番人。


 無駄のない行動こそが奴の行動理念だ。


 そして、カルバートは技術顧問である。


 自由を愛する無邪気な発明家であり、魔王軍の一の変人だ。


 だが、知識と技術は一流で、ダンジョンコアや魔剣は彼女の発明品である。


 「なんで、環さん達が!?だって、魔力の反応はしなかったはずだぞ!!?」


 そうなのだ。


 今まで通りであれば、昨日の肩もみをしている時に魔力が共鳴しているはずなのだ。


 「普段、魔力を抑えていればそのような事は無い。まさか、初歩すらできていないとは、頭痛がしてきた……」

 「何だと!?」


 アレスリゴールは、勝手に嘆いて落胆した。


 なんか、腹が立ってきたぞ――。


すたみな次郎『何だ!?こいつら!!?』

真っ暗れーん『また、タツミの元仲間か?』

ひめめーめひーめめ『あれ、環ちゃん裏切ったの!?』

oni瓦『何っ!?』

xcyuddfd『罠か!?』


 「――ん?おい、環。何故、ドローンカメラが撮影している?」


 ん?何だ??撮影されちゃまずいのか――???


 「あれ……、ボクまた何かしちゃいました……?はははは……」

 「だろうが!!??だから、酒は程々にしておけと……、ちっ、仕方のない!!」

 「あ!おい!!何する!!!??」


 血の様な赤い結晶を生成し、ドローンカメラに投擲した。


 コイツ!それがいくらするのか分かってるのか――!?


 安物だけど……。


 絶対に許さん――!


 「リベリアル。お前こそ毎度毎度、考えなしに自分たちの情報を垂れ流しておいて、何を考えている?それがどの様な事になるのか、まるで想像できていない」

 「何だと!?」


 状況からして、仲良く昔話に花を咲かせるとはいかなそうである。


 「聖剣抜刀!」


 春沢も姫騎士モードに変身する。


 剣を構えて、戦闘態勢だ。


 「姫騎士ルクスフィーネか。まさか、本当に人類軍の君が魔王と行動を共にしているとはな、私も驚いているよ」

 「そんなの今は関係ないし!――それより、アンタら何が目的!?答えによっては……、環ちゃんも痛い目にあって貰うかんね!!?」

 「痛いのは困るなー……。だから……、ごめんね!!」

 「!?」

 「!?」


 しゅるるるるるっと、背後の方から触手が伸びてくる。


 「くぅ!?」

 「きゃぁ!?」


 それは、瞬時に俺と春沢を捉えた。


 まさか――!?


 「久しぶりだナ。いや、初めましてでもあるか、魔王様」

 「自己進化超生体!?貴様は、俺の配下になったはずだろ!!?」


 そこには、紫色の体色をした自己進化超生体が、人型で立っていた。


 「如何にも、ワタシ達は魔王辰海の軍門に下っタ。だが。それは、ワタシ達全体の意思としてダ。ワタシは、個の意思として創造主ドクター達と手を組んだのダ。ヘッドハンティングという訳ダ」

 「は……、はあっ!?」


 ヘッドハンティングだと!?有りか、そんなの――!?


 というか、人工生命体が自我に目覚めるとか、ヤバいやつだろそれ――!


 「残念だったなリベリアル。――これが、今回の報酬だ。本当にこんなもので良いのか?」


 アレスリゴールは、雑誌の様な物を自己進化超生体の方に投げる。


 「確かに受領しタ。ダンジョン内で捨てられているのを見て、興味があったのでナ」


 って青年雑誌エロ本じゃねーか――!!!


 くっそ。何がヘッドハンティングだ――!


 「それでは、報酬分は働かせて貰おウ」


 身体に巻き付いた触手が締め上げられている。


 「ぐぅううううううう!?」

 「ち、力が入んない!?」

 「無駄ダ。お前たちの魔力はワタシが吸収していル。そして、よりワタシは強くなり、お前たちは逃げられなくなるのダ!」

 「いいぞー!ボクの最高傑作!!いけいけー!」

 「くっそおおお!!」


 それだけじゃない。


 コイツ自体が前回より強くなっている。


 やはり、危険だ。


 「魔力開放イグニッション・ノヴァ!!!」

 「む!!!」


 全身から瞬間的に魔力を放出する。


 強くなっているのはそっちだけじゃないのだ。


 触手が爆散した隙に、春沢の方も助け出す。


 「さんきゅー!」

 「ふん、当然……、あ!?おっもぉ!!!?」

 「ちょ!?しつれーなんですけどー!?」


 抱きかかえた春沢を降ろす。


 結構な魔力を消費したのだ。


 「まだやるカ?」


 自己進化超生体は、次の触手を構えた。


 「いや、もう良い……、リベリアル・ルシファード。いや、鱶野辰海。お前は、そろそろ自分の置かれている状況が理解できたか?」

 「理解だと?」


 俺は、仮面越しにアレスリゴールを睨んだ。


 「――ちぃ、監視対象がこれでは、幾ら策を講じても意味が無い……」

 「どういう意味だ?」

 

 監視対象?アレスリゴール達は俺の事を監視しているのか――?


 いつから――?


 !?


 「まさか!?豊徳院の配信以降時々感じた視線の正体!」

 「ふ、そうだ。それで良い……。そして考えろ、自分というものを、自分が世界に及ぼす影響を!」


 ふと、ノブナガ先生の言葉を思い出す。


 “継承者の力で悪事を働く者が、この先必ず現れる”


 で悪事を働く……。


 「を利用しようとする奴らが……、いるのか……?」

 「やっと理解できたようだな……。わざわざ、こんな仕掛けを用意したのだ。そうでなくては困る」


 アレスリゴールとカルバートは変身を解いた。


 「……どういう事だし?」

 「アンタ達は一体……?」

 「私達は“グラウベン機関”の遣いだ」

 「グラウベン機関……」

 「そーだよー。ボク達は、継承者による事件からこの世界を守る正義の組織さ!」

 

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