敵か、味方か

 環さん達ダンジョン研究家によれば、6600年前まではアリスヘイムも地球も全く同じ生態系をしていたらしい。


 ところが、魔力やマナが隕石によって運び込まれ。


 環境に適応する為にアリスヘイムの生物は独自の進化をしていったという事が、地層調査から判明したのだ。


 環さんは、ダンジョン探索をしながらそんな話を幾つかしてくれた。


 今回のダンジョンは何処か見覚えのある様な古城風のダンジョンだ。


 俺は襲い来るトレント(樹木の形をしたモンスター)を、魔弾で粉砕しながら耳を傾る。


すたみな次郎『ああ、トレント君が雑に倒されている……』

ひめちゃん親衛隊『モンスター討伐を蔑ろにするな!』

最速の牛歩『トレント君かわいそう……』


 俺がアリスヘイムにいた頃は、そんなことは研究されていなかったので純粋に感心した。


 「へー、環さんて、本当にダンジョン研究家だったんだ……」

 「おい、こら。――まぁモンスターの進化の軌跡なんて、私達研究家達くらいしか興味持ってないけどねー」


 太古の歴史など「かつて魔力の雨が降り注ぎ……」みたいな言い伝えしか無かったのだ。


伝説の釣り人『へー』

暗黒☩騎士ざまぁん『成程』

バルクほるん『ここ、テストに出るからな!』

無限の聖槍ロジャー『やっぱり、魔力が原因で分岐した平行世界ってわけか』

あああ『環先生の授業分かり安いっす!』


 「知ってるー!それって“てきおー進化”ってやつっしょ?」

 「お、ハルちゃん賢ーい」

 「えっへん」

 

 春沢が胸を張ってドヤる。


 「――そんでねぇ。アリスヘイムは実は、二回目のを迎えてました。原因は何かわかるかなー?」


 いつの間にか、教育チャンネルになってしまった。


 「瘴気か……」


 自然とそれが口から零れる。


 「正解ー!アリスヘイムの生物は、瘴気に対応する為に適応進化の最中だったてわけ。だから、辰海君達が魔族って呼んでいるのも、って事で……、」

 「……」

 「あ!?ごめーん!!辰海君とハルちゃんって前世?で魔族とか人間でいざこざがあったんだっけ?つい研究の話で盛り上がっちゃって……」

 「え!?あ、ウチのこと!!?――そんなの全然気にしてないし!確かに鱶野達とウチらは争ってたけど、そーゆーの知らなかったし……」


 春沢は明るく取りつくろうも、環さんの言葉に引っ掛かりを感じている様だった。


 「まぁ、何だ!そっちは聖法協会の教えとかもあったし。それに今の世界を見てみろ!魔族や何だってのが無くても国同士で遣り合ってるし……、んー、だから、そのー……。あれで。気にすんな!!!」


 サムズアップでフォローしてみる。


 「……。……。……。鱶野の癖にナマイキだぞー!!!」

 「ぐわあああ、何する!?」


 俺は、春沢にワシワシされる。


 「そーそー。アリスヘイムはもう無くなちゃったし、気にするだけ損ってもんよ!」


 また、身も蓋もない――。


 ん――?



 ※※※



 現在。第15階層。


 俺達はここまで、春沢のエロトラップノルマを達成しながら、苦戦することなく攻略してきていた。


 「んー、新種のモンスターには中々出会えませんなー」

 「新種のトラップは、沢山あったけどね……」

 「あはははは……」


 春沢はスーツをボロボロにされるたびに、魔力で修復していたのでグロッキーである。


 今回も動画はお蔵入りかな……。


 足音が虚しく、古城に響く。


 というか、異様に静かだ。


 この階層に来てから、モンスターの気配が無い――。

 

 内装は荒れ果ててはいるが段々と豪華になってきている。


 やはり、俺はここを知っている気がした。


 などと警戒していると、大広間に部屋に辿り着く。


 中央には、玉座の様なものがあった。


 ……!?


 人が座っている――!?


 「ちっ、最悪だぁ……。まさか、こうも簡単に釣れてしまうとわ……」

 「だ、誰だ!?」


 いや、この声。何処かで聞き覚えが……。


 薄明かりが玉座を照らした。


 「ようこそ我が城、“鮮血城”へ。――良くぞここまで参られた。魔王リベリアル・ルシファード」

 「ちょ!?アンタ昨日の……!」


 別荘で会った、帝という男だ――。


 腹の居所が悪そうに頬杖をついている。


 「帝さーん!言われた通りちゃんと連れてきましたー!!」


 環さんは、帝の方に走っていった。


 「な、そんな……!」

 「どーゆーことなの、環ちゃん!?」

 「えへへへ……。ごっめーん!ダンジョン護衛の話は嘘だったんだ……。これも仕事なの!帝さん怒るとおっかないし……、許して!!」


 てへぺろしているが、そんな状況じゃないのは分かった。


 コイツらまさか――!


 「おっと。自己紹介がまだだったな。紳士の私としたことが……。――私の名は、帝京介みかどきょうすけ。そして、もう一つの名は……」


 帝は、すっくと立ちあがった。


 「行くぞ環」

 「りょーかーい!」

 「戦術展開」「黄金錬成!!!」 


 帝は無数の赤い蝙蝠の様な陰に、環さんは金の塊に包み込まれる。


 そして、直ぐに正体を現した。


 蒼黒のコート姿に、ペストマスクの様な仮面を付けた吸血鬼。


 「盤上の剣アレスリゴール」


 モンスターの皮で出来たエプロンに、ゴーグルのヘッドギアを付けたドワーフ娘。


 手には身長以上大きさをした鉄鎚ハンマーを持っている。


 「錬金のカルバート!!!」

 「お前ら……!」

 「魔王軍幹部が二人!?」


 敵か、味方か――。


 かつての仲間が立ちはだかる。


 


 


 


 


 



 

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