ナンパ男、散る
待ってろ春沢、直ぐに助けてやるからな――!
俺は、視野を広げ状況を確認する。
「戦場を俯瞰すれば負ける事など有り得ない」と、魔王軍の軍師“アレスリゴール”も言っていた気がする。
相手がどう動くか予想し、自分がどう動くべきかを考える。
「ふー……」
深呼吸をして、脱力する。
三人の内、一人は春沢を捕まえている。
実質、二対一。
体格は良いが、格闘家という訳じゃ無い。
一人づつ上手く無力化していきたい。
「オルァ!!!!!!」
鼻ピアスが振りかぶる。
思ったよりも遅い。
だが、こちらもダンジョンの時の様には素早くない。
ダンジョンの外では、魔力による身体強化は望めないのだ。
避けきれずに左腕でガードした。
痛みが骨の芯を突くようだ。
「ぐぅ!!!」
だが、
次弾が来る前に右の肘で反撃をする。
「そぉい!」
「がぁつ!?」
やった!
狙い通り、上手く顎下に入ってくれた。
鼻ピアスは
「な!?おい!?しょーちゃん!!?てめぇ、やりやがったな!!!」
次は、刺青が今度は向かってきた。
ワンツーが飛んでくる。
透かさず俺も応戦した。
「はぁっ!」
上にばかり気を取られて、横腹を蹴り払われる。
「かはぁ!!?」
「辰海!?」
いってえ――!
内臓がシェイクされて後ずさる。
「貰ったーーーー!!!!」
その隙に追撃の蹴りが跳んでくる。
しまっ――!?
が、
「やだ、後ろがガラ空きよ♡」
「は……!?」
「な……!?」
「へ……!?」
ピタリとその動きは止まる。
気が付くと、
刺青男の後ろに、
「お”!?」
「「源さん!!??」」
源さんがいた。
股下から手をガッといれ、股間を揉んでいる。
刺青男は白目を向いて倒れ込んだ。
一体何をしたんだ……。
「なかなか帰って来ないと思って探しに来て良かったわー。ねぇ?」
「な、何なんだ!?てめぇ!!」
剃り込み男は威勢を張るが、その声は裏返っていた。
無理もない、理解の範囲外のものが現れたのだ。
公然わいせつ罪ぎりぎりの海パンを履いた、大男が立ちはだかる。
「アンタ達こそ何様よー?女の子をそんな風に捕まえて!?放してあげなさいよ?」
「だ、だまれぇ……!!」
「きゃぁ!!?」
男は水着のポケットからナイフを取り出した。
「オイタが過ぎるわね……」
源さんがそう呟くと、音もなく剃り込み男の前に移動していた。
まるで瞬間移動だ。
「な!?」
左右の手が男の日焼けした黒乳首を摘まんでいる。
「アンタのナイフとこれどっちが強いかしら?」
「え……?」
そして、
「秘儀。パイるドライバー♡」
捻った。
「あぎゃああああああああ!!!!!????」
情けない断末魔が砂浜に響き渡った。
……。
……。……。
……。……。……。
「チョー怖かったぁー!!!」
解放された春沢が勢い良く俺に抱き着いた。
柔肌が密着する。
「ちょ、おま!!!!?春沢さん!!!!???」
俺は一気に緊張が解けた、と言うか別の部分が緊張しそうだ。
「だってー……。酷い事されそうだったし……。――鱶野助けに来てくれて、ありがとね!!」
「……そ、そんなの当然だろうが」
春沢は目の端に涙を浮かべていた。
相当怖かったのだ。
「源さんもー!」
「アタシの事は良いから、そーゆーのは人の目の無い所でしてよね」
「え!?」
騒ぎを聞きつけて、いつの間にか野次馬が出来ていた。
「む……」
「えへへへへ……」
恥ずかしそうに春沢はゆっくりと離れる。
「じゃぁ、アンタらはさっさと千空の所に戻ってなさいな」
「え?源さんはどうするの??」
そう言うと源さんは、気絶している先程のナンパ男達を両脇と背中に担いでいた。
「アタシは、この子達と岩場の陰で潮干狩り♡」
「あ……、うん……」
絶対違う――!
深くは追及しないでおこう。
因果応報なのだ。
……。
……。……。
……。……。……。
俺と春沢は焼きそばを半分づつ持って、戻っていく。
「大丈夫ー?殴られたりした所痛くないー??」
「ふ。あんなのモンスターの攻撃に比べれば、どうってことは無い」
正直、まだ痛む。
「――でも、ウチ驚いたし。鱶野の事、陰キャだと思っていたから」
「ん?俺は陰キャで合ってるぞ??」
自分で言うのも悲しいが――。
しかし、何故そんな事を?
「えー?だってヤンキー相手に強気だったじゃん!?」
成程そう言う事か――。
つまり、春沢の陰キャイメージらしからぬ行動を俺は取ったという訳だ。
まぁ、陰キャにも色々いるだろうし、俺が標準的な陰キャかと言われれば謎であるが。
陰キャとは、一般的に引っ込み思案で内向的な性格の事を言うが、多分俺の場合は、それが嫌われたくないという感情から来ているのだ。
嫌われたくないから無理に人と関わらないし、嫌われたくないから口下手になってしまう。
傷つくことが怖いのだ。
前世の俺も、そう考えると陰キャの様なものだった。
人間との平和を築きたいと思いながらも、何処かで人間を恐れていたのだ。
思えば、700年でこちらから人間に接触するという事は数える程しか無かった。
まさか、前世が陰キャのせいで今の俺も陰キャになってしまったのか――!?
んなことは無いか。
と……、
話がそれたが。
嫌われたくないという事は、嫌われても良い人間には強気になれるというだけの事なのだ。
後、見るからにクズな奴とか――。
まぁ、今回、一番の理由はそれではないが――。
「別に……、怖すぎて逆に冷静になっただけだ。――それに、あーゆー状況は、アニメやゲームで予習済みなのだ!!」
そして、照れ隠しで余計な事まで言ってしまう。
「ふーん……。――やっぱり、鱶野って陰キャだわw」
「なんじゃ、そりゃ!?」
「www」
本当は、春沢を助けたくて必死だっただけなのだ。
何故か、それが言えなかった。
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