ナンパ男、現る

 燦々と照り付ける太陽。


 海水浴シーズン真っ盛りの砂浜は、芋を洗うような人の賑わいだ。


 俺は、波打ち際ではしゃいでいる春沢達を眺めながら、奉仕活動の真っ最中。

 

 「大人なレディを子供呼ばわりしたんだから反省するんだぞー少年!」

 「そうだぞたっくん。せっかく若い女の柔肉を揉ませてあげてるんだから、気合い入れろよー!?」


 肩をだがな――!


 俺は、パラソルの下。ビーチチェアに寝転ぶ飲んだくれ二人組の肩揉みをしていた。


 環さんは、速攻で千空さんと意気投合してしまったのだ。


 まるで、千空さんが二人に増えたみたい。


 最悪である――。


 まぁお陰で、初対面でも緊張しないで接することができた。


 「そんな若さ溢れるお姉さん方が、こんな昼間から、海に来てまで飲んだくれているのは良いんですかねぇ……?」

 「ボク、基本インドア派だしねー」


 僕っ子……、だと……!?


 この体型な上に僕っ子属性とは恐れ入る。


 「……じゃあ、何で今日は来たんですか?」

 「いやー、普段はされてて飲めないからねー。あはははは……」


 不穏ではあるが、何だか親近感の湧くワードである。


 研究が忙しいという事だろうか――?


 監視と言えば、俺も最近外で誰かに見られているような気がする。


 春沢以外で。


 まさか、とか――!?


 まぁ、気のせいだろうけど――。


 「鱶野もこっち来て遊びなよー!!」

 「ひめなもおにーさんで遊びたーい!」

 「それじゃ、辰海ちゃん。おもり交代ねー」


 春沢達から俺に指名が入った。


 不当な労働から解放される。

 

 ……。


 ……。……。


 ……。……。……。


 お昼時。


 俺と春沢は千空の指令で、昼食の調達に駆り出されていた。


 海の家があるようなので、そちらを目指す。


 「やっぱ、海って楽しーねぇー!」

 「おう、そーだな」


 俺は自分の事をインドア派だと定義していたが、存外楽しかった。


 「まさか、鱶野があんなに泳ぎが早いなんて思わなかったしー」

 「ふん、鍛えているからな!悔しかったら午後も勝負してやってもいいぞ?」


 柄にもなく煽ってみる。


 先程、春沢と水泳対決をして勝ったのだ。


 本当に悔しそうにするので、面白かった。


 「くっそー!この腹の癖にーー!!!」

 「ちょ、おま!?やめい!!!」

 

 ペチンペチンと俺の腹を叩く。


 ……。


 ……。……。


 海の家に着くと、人数分の焼きそばを買った。


 ビニール袋で両手が塞がる。


 見た目はシンプルだが、そこそこ良い値段がした。


 ただ、こういうところで食べる物は普段より五割増しで旨くなるから、許すとしよう。


 春沢はトイレに寄っているので、それと合流待ちである。


 しかし、人が多いな。


 しかも、俺の苦手とする陽キャ率がかなり高い。


 夏の海と言えば、パリピのメッカだ。


 「ちょぉ!!!はーなーせしー!!!!!」


 隣の仮設トイレの方から、聞きなれた声がする。


 春沢だ!


 俺は、人の間を縫って、声のする方へと向かう。


 「いーじゃんwおねーさん、俺達とあそぼーぜ!?」

 「だーかーらー、うせろってーの!」

 「うっわwひっどーいwww」

 「いいから一緒に来てよ?絶対タノシイからさー??」


 仮説トイレの影。


 ガタイの良い三人組が、春沢を取り囲んでいる。


 ナンパか――!


 まぁ、グラビア女優顔負けの春沢なら当然と言えば、当然か――。


 問題は、相手が輩っぽいという事だ。


 強引にでも連れていこうとしている。


 「大丈夫か!?春沢!」


 頭に剃りこみが入った一人が、春沢の手首を掴んでいた。


 「鱶野!」

 

 日焼けした、体格の良い男達。


 正直怖い――。


 が。


 「……おい、アンタら!そいつを放せよ、……嫌がってるだろうが!」


 振り絞る様に声を上げる。


 ビビっているとばれたら、負けだ。  


 「はぁ!?なんだよてめぇは!?」

 「えー、なに知り合い?まさか、彼氏くん??」

 「俺達、おねーさんとこれから遊ぶつもりだからさー、どっか行ってくんね?」

 「誰が、あんた達なんかと!いい加減はなせ!!」

 「うるせー」

 「きゃぁ!?」


 剃りこみが、強く春沢の手を引き上げる。


 助けを呼んでいる暇は、無い。


 仕方が無いか――。


 俺は両手に持っていたビニール袋を置いた。


 「えwww!?俺たちとやるってのw!!??」

 「ちょーしのんなよ!?デブがよお!!!」


 それに反応して、鼻ピアスと刺青の男が俺の方に身体を向けた。


 取り敢えず、拳を身体の前に構える。


 喧嘩なんてした事は無いが、何年もダンジョンでモンスターを相手にしてきたのだ。


 やってやれない事はないはずだ。


 


 


 

 

 


 

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